R2最終回のネタバレを含んでいます。
 大丈夫な方だけはこちらからお進みください。飛ばないときにはスクロールしてくださいませ。





















































 ゆっくりとまぶたを持ち上げる。次の瞬間、視界に飛び込んで来たのは滑らかな天井だった。
 その事実に彼は小さな笑いを漏らす。
「がんばったじゃないか」
 最初から、と小さな声で付け加える。自分がしてきた事を考えればもっと悲惨なあつかいを受けていたとしてもおかしくはない。いや、そうあるべきだったのだ。
 しかし、今の自分は体を清められ、衣服も真新しいものに着替えさせられている。それが誰の采配であるのか、確認しなくてもわかるだろう。
 そう考えながらゆっくりと体を起こす。
「さて……うまく抜け出せるかな」
 誰にも見つからずに、とそう付け加える。
 己の体はもう死ぬことは出来ない、ということはわかっていた。だからといって、痛みまでもがなくなったわけではない。またあの痛みを味わうのはごめんだ。少なくとも当面は。もっとも、あの痛みを忘れてはいけないだろうが。
「俺の存在は、これで完全に消える」
 それこそが自分が望んだ結末。
 しかし、どこかひっかかるものを感じるのは、これからの事をすべて彼等──彼に押し付けてしまう形になってしまうからだ。
「あの体力バカにどこまで勤まるのか……」
 しかし、そのためにシュナイゼルに『ゼロに従え』とギアスをかけたのだ。彼であれば、きちんと《ゼロ》のフォローをしてくれるだろう。そして、人々もいずれは成長をする。いずれ、《ゼロ》を必要としない日が来るに決まっている。
「その時、お前はどうするんだろうな」
 お互いに死んだことになっているからな、と笑う。
 いや、自分は実際に死んでいたのだが。
 その笑みを深めながらさらに歩き出す。狭いそこは、数歩で外へと出ることが出来た。
「……枢木神社、か?」
 そうすれば、自分が今いる場所がどこなのかわかる。
「誰の指示なんだろうな」
 よりによってこことは……そう呟いたときだ。
 彼の目の前に一つの人影が現れる。
「遅参、いたしました」
 申し訳ございません。この言葉とともにその人影はその場に跪いた。
「いや……俺も、先ほど起きたばかりだ」
 だから、気にするな……と言葉を返す。
「しかし……本当にいいのか?」
 自分を連れ出すことは、間違いなく、犯罪だろう。それがわかっているのか、と問いかける。
「もちろんです。私の忠節は、貴方様のものです」
 ルルーシュ様。そういいながら、さらにジェレミアは頭を下げる。
「幸い、私は普通の人間よりも、丈夫に出来ております。この命尽きるまで、お側に」
 彼の言葉にルルーシュは微笑みを浮かべた。それは《皇帝》としての彼の笑みではない。まだ何も知らなかった頃、彼が浮かべていたものだ。
「スザクもバカだ……と思っていたが、それ以上のバカがいたか」
 よかろう、とルルーシュは頷く。
「どのみち、俺は人目に付くわけにいかないしな」
 五年、いや、十年だろうか。
 人が自分の姿を忘れるまで……と彼は笑みを深める。
「それまで、大人しくしていよう。幸い、家事は得意だからな」
 どこかでひっそりと……とルルーシュは付け加えようとした。
「……そのことですが、ルルーシュ様」
 実は、と彼はジェレミアは何故か口ごもる。
「ジェレミア?」
「……オーストラリアに、オレンジ農園を買っておりまして……」
 よろしければ、そちらに……と彼は付け加えた。
「オレンジ、か」
 その言葉が、考えてみれば全ての始まりだったのではないか。それなのに、この男は……とさらに笑みが深まっていく。
「それもいいかもしれないな」
 多くの人の命を奪ったことが許されるとは思えない。だが……いや、それだからこそ命を生み出す仕事をしてみるか。そう考えて頷いてみせる。
「……それと、今ひとつ……」
 何だ、と思いながら彼の次の言葉を待つ。
「……この、ルルーシュは……好き」
 だが、それは背後から現れた。言葉とともにアーニャが抱きついてくる。
「ほわぁっ!」
「だから、私も守ってあげる」
 そういいながら、彼女はそのままルルーシュの顔を見上げてきた。
「……ジェレミア……」
「申し訳ありません。かけられていたギアスをキャンセルしたら、何故か懐かれました」
 しかも、今回の計画がばれてしまいましたので……と彼は続ける。
「しかたがあるまい……」
 確かに、このままでは自分が《生きて》いることがわかってしまう。それでは、せっかく、世界から自分の存在を消した意味がない。生きていることがわかれば、世界はまた混乱に逆戻りしかねないのだ。
 その位であれば、妥協した方がいい。
「ただし、責任はお前が持て」
「御意」
 もちろんでございます。ジェレミアはそう告げる。
「なら、行くか」
 ルルーシュは言葉とともに足を踏み出す。その後をジェレミアとアーニャが続いた。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの遺体をジェレミア・ゴットバルトが盗み出したと広まったのは、それからすぐのことだった。
 しかし、ゼロをはじめとした者達は、彼のその行為をとがめることはしない。
「あの男は……自分の忠節を尽くしただけだ」
 その程度ぐらい見逃してやれ、とゼロは告げる。
「それよりも、今は優先しなければいけないことがあるのではないか?」
 さらに言葉を重ねられては、誰も反論が出来なくなってしまう。
 しかし、その事実を一番口惜しく思っていたのは、実は《ゼロ》だったと知るものは誰もいなかった。

 ゆっくりと時は流れていく。
 ジェレミアの存在も、次第に人々の脳裏からは消え始めていた。もっとも、ルルーシュのそれは永遠に消えないのではないか。
 それでも、ここには自分たち以外、誰もいない。
 自分が生きていることをとがめるものはいない、と言うその事実が、ルルーシュの気持ちを穏やかにしていた。以前よりも優しい笑みを浮かべるようになった彼に、ジェレミアだけではなくアーニャも満足を感じていた。
 そして、それをもっと見たいとも思う。
 そんなある日のことだ。
「ルルーシュ様?」
 いきなり、全身を覆い隠すような服装をしながら彼が納屋の方に駆け出していく。
「どう、したの?」
 そんな彼の背中に向かって、二人が驚いたように声をかける。
「あのピザ女が、いきなり押しかけてきた! 厄介ごとを起こす前に確保してくる」
 お前達は作業を続けていろ。そう告げる彼の髪が少しだけ長くなっている。それが、彼等の上に流れたときの証かもしれない。
「……それなら、私も……」
「いい! お前達は作業を進めていろ」
 明日になれば、出荷できなくなるぞ……と続ける彼は、気が付けばジェレミアよりもこの農園の主のようだ。もっとも彼が自分の主であることは永遠に変わらないだろうが。
「Yes,Your Majesty」
 本人が怒るだろうとわかっていても、ついついこう口にしてしまう。
「ジェレミア!」
 案の定、ルルーシュの怒声が飛んでくる。
「貴方様は、永遠に私の主君ですから」
 ジェレミアはこう言って笑い返す。
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
 そんな彼等の頭上に広がる空は、どこまでも青く澄んでいた……






08.09.29up