パパとルル

「……皇帝陛下は?」
 緊急の事案があるのに、現在太陽宮のどこにも彼の姿が確認できない。その事実に秀麗な眉を寄せながらシュナイゼルはグランストンナイツの一人に問いかけている。
「本日は休暇だと聞いております」
 ナイト・オブ・ラウンズの者達も、その居場所を知らないらしい。そう言葉を返してきた。
「もっとも、ナイト・オブ・ワンはご存じなのかもしれませんが」
 彼に確認しようとしても無駄ではないか。シャルルの命令があればどのような状況に置かれようとも口を開くことはないだろう。
「そうだろうね、彼は」
 ナイト・オブ・ワンはブリタニアと言うよりはシャルル個人に忠誠を誓っているような人間だ。その彼が自分の命令だからと言って聞き入れてくれることはないと思われる。
 それでも、今回だけは折れてもらわなければいけないのではないか。
「……取りあえず、私が話をしたいと言っていた、と彼に伝えてくれないか?」
 父の居所を教えてもらえなくても、彼に連絡を取ってもらえれば、それでいい。
 そう考えて、シュナイゼルはこう口にした。
「Yes.Your Highness」
 それに、伝令役でやって来た兵士はこう言葉を返す。シュナイゼルはその彼の様子に満足そうに頷いてみせた。

 そのころ、シャルル・ジ・ブリタニアがどこにいたのか。
 もちろん、エリア11のルルーシュ達の所だ。
「ルルーシュ!」
 どっかりと彼専用のイス――これもわざわざ送り付けてきたものだ――に腰を下ろし、ナナリーを膝に抱いたまま、彼は息子に呼びかけてくる。
「何ですか?」
 父さん、とため息をつきながらルルーシュは言葉を返す。
「父は茶が飲みたい。確か、ダージリンのファーストフラッシュがあったであろう?」
 この言葉に、ルルーシュはキッチンの戸棚の中に収められている紅茶感を思い浮かべる。
「……ストレートでいいのですか?」
 取りあえず、と確認のために問いかけた。
「そうだ」
 本当に、こう言うときにも偉そうだ。そう思ってしまうのはいけないのか。
「ナナリーはどうする?」
「私は……ミルクティーがいいです」
 少し恥ずかしそうにこう言ってくるのは、まだストレートで飲めない自分を恥じているのだろうか。
「わかった。なら、アッサムにしようか?」
 ダージリンはミルクティーには向かないから。そう付け加えれば、ナナリーは首をかしげる。
「でも、お兄さま。お手間をかけてしまうのではありませんか?」
 ならば申し訳ない。彼女はさらにこう告げた。
「気にしなくていい。僕もミルクティーにするし……スザクは?」
「俺もそれでいいや」
 すぐに返された言葉にルルーシュは頷いてみせる。
「ついでに……昨日焼いたベリータルトも出そうか」
 そろそろおやつにしても言い時間帯だろうし、と呟けば、
「父は、それにアイスクリームを添えることを希望するぞ」
 即座にシャルルはこう言ってきた。
「はいはい。父さんは注文が多いから……」
 だから太るんだ。この一言はあえて口にしない。
「バニラしかありませんが、構いませんか?」
 代わりにこう問いかける。
「しかたがあるまい」
 次はシャーベットが食したい、としっかりと要求を口にする彼にルルーシュはため息をつく。それでも、喜んでくれるのであれば作りがいがあるというのも事実だ。
「スザク」
「運ぶのを手伝う」
 即座に反応をしてくれるスザクにルルーシュは微笑み返す。そのまま、きびすを返すとキッチンへと向かった。

 そんな彼等の元にブリタニアから連絡が入ったのは、それからすぐのことだった。
「いったい、何事か!」
 せっかく、のんびりとしておったものを……とシャルルが思いきり不満そうに口にしている。
『申し訳ありません、陛下。宰相閣下から、緊急事態との報告が入りました故』
 自分も確認をとってみたが、確かにその通りだった。ナイト・オブ・ワンと呼ばれる彼が淡々とした口調で報告をしてきた。
「……しかたがない。せっかくの休暇ではあったが、切り上げぬわけにはゆかぬか」
 ブリタニアの弱体化を招くわけにはいかない。そんなことになっては、ルルーシュ達の安全も確保できなくなる、と彼はため息をつく。
『御意。必要であれば、ルルーシュ殿下方の元に誰かを配置しておきましょうか?』
 当面の護衛の意味もかねて。そう彼は告げる。
「いりませんよ。目立ったら、クロヴィス兄さんにばれます」
 そこから芋づるでみなにばれたら意味がないだろう。ルルーシュは即座にこう口にした。
「それに、俺たちにはスザクがいます」
 頭の中身はともかく、その身体能力は既にナイト・オブ・ラウンズの者達ともためをはれるのではないか。だから大丈夫だ、とルルーシュは口にする。
「確かに、そうだの。しかし、それでは儂が安心できん」
 しかし、他の者達に見つかっては、それはそれで厄介だ。シャルルもそう言って考え込む。
『私によい人材の心当たりがあります。それに関しましては、陛下がこちらにお戻りになってからお伝えさせて頂きたいのですが』
 出来るだけ早く帰ってきて欲しい。言外にそう告げるワンの言葉に、それほど厄介な状況なのか、とルルーシュは眉を寄せた。あまり好きな父ではないが、いてくれるといないとではやはり安心感が違う。それでも、自分たちの平穏な生活のためにはやはり安定した世界を確保してもらわなければいけないというのも事実である。
「わかった。いつものように迎えをよこすがよい」
 不本意だが、本国に戻るしかあるまい。シャルルのこの言葉に頷くとワンは通話を終わらせた。
「そう言うことだ、ルルーシュにナナリー」
 振り向くと同時に、シャルルは口を開く。
「不本意だが、今回はこれで戻る。次は……そうだの。和食とやらを食してみたい」
 用意しておけ、と彼は告げる。
「はいはい。お口に合わなくても、文句は言わないでくださいね」
 彼に反論をしても無駄だ。それはよくわかっているから、ルルーシュは取りあえず、この程度のイヤミを言うだけで我慢をしておく。
「でも、和食は体にいいんじゃなかったっけ?」
「そうだな。なら、父上にもそちらの方がいいのか?」
 スザクの言葉に、ルルーシュは首をかしげつつこう言葉を返す。
「儂の体のことまで気にかけてくれているのかぁ」
 やはりお前は優しい子だのぉ、と言うシャルルをルルーシュはあえて無視をする。
「なら、明日は親子丼でも作ってやるよ。ナナリーもあれは好きだろう?」
「はい、お兄さま。後、甘い卵も食べたいです」
「なら、おひたしかな? 青物は必需品だよな。それとみそ汁!」
 子供達の口から出る言葉にシャルルがうらやましそうな表情を浮かべていた。
「父上の時には、もう少しお口に合いそうなものを考えておきます」
 このまま「帰らない」とだだをこねられてはたまらない。そう判断をして、ルルーシュはこう告げる。
「ルルーシュぅ!」
 だが、それは逆効果だったかもしれない。迎えが来るまで、ルルーシュはしっかりとシャルルに抱きしめられていたのだった。

「皇帝陛下」
 シュナイゼルが彼の前で膝を着く。
「……この程度ぐらい、己の裁量で対処できぬとは……まだまだ、未熟だの」
 宰相位につけるのは早かったか、と即座にシャルルに言われてしまった。人の苦労も知らないで、と思わず心の中で毒づいてしまう。
「まぁ、よい。それで、どのような対策を考えたのか。説明してみよ」
 今度こそ、絶対にシャルルがどこに行っているのか、尻尾を掴んでやる。心の中でそう呟きながら、シュナイゼルは今までの経緯と自分たちが考えた対応策を説明し始めた。

 そのころ、ルルーシュ達の元へナナリーと同年代の少年が配達されてきたのは、また別の話だろう。





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08.12.01移動