藤堂ルル?(女の子ルル)


 いったい、何を警戒しているのか。
 あの時、誰の存在があったからこそ自分たちは《奇跡》を起こすことが出来た思っているのだろう。そして、現在も抵抗を続けられているのは誰が作戦を組み立てているからだ、と思っているのか。
 そんなことを考えながら、藤堂は足を屋外へと向ける。
 そこには、自分が守ると決めた《主》である存在がいるはずだ。
「……京都も一枚岩ではない。それはわかってはいたが、な」
 だが、ここまであからさまに自分の《主》に敵意を向けるものがいるとは思わなかった。あれほどまでに、自分たちにとけ込もうと努力をしているにかかわらず、本質的なところであの存在を否定しようとする。それが忌々しいとすら思う――己が軍人である以上、彼等もまた守らなければいけない存在だとわかっていても、だ――
「神楽耶さまが好意的で、スザク君が側にいるから、大丈夫だ……とは思いたいが」
 それに、桐原老も思惑はどうであれ《主》を失えないと思っているらしい。だから、当面は心配いらないと思うのだが。心の中でそう呟きながらも庭へと出る。そこで初めて雨が降っていることに藤堂は気付いた。
 それだけならばまだいい。
「まったく……」
 何故、傘も差さずにいるのか。もう少し、自分の体に気を付けてくれてもいいのに。
 心の中で嘆息をしながら藤堂は己が身に纏っていた軍服の上着を脱ぐ。そして、静かに歩み寄るとそうっとその頭にかけてやった。
「藤堂?」
 ここで初めて藤堂の存在に気付いたらしい。『日本人』には決して現れることがない希有な色の瞳が彼の姿を映し出した。
「そのままでは風邪をひく。もう少し、自分の体を大切にするべきだろう、君は」
 違うのか、ルルーシュ……と藤堂は小さな子供を諫めるような口調で己の定めた《主》である少女に苦言を呈する。
「あぁ……気付かなかった……」
 雨が降っていたのか、とルルーシュは小さな声で呟く。
「ルルーシュ」
 いったい、彼女は何をそこまで深く考え込んでいたのだろうか。
 ここ当分、戦闘はあり得ない。なぜなら、自分たちの先頭に立って戦うべき存在が、今現在、この場にはいないからだ。旗印がない以上、無駄な戦いを行うべきではない。そうである以上、目の前の少女が作戦を考える必要はない。
「何故、人は、己の望む存在として、この世に生まれ出ることはできないのだろうな……」
 小さなため息とともにルルーシュはこう告げる。
「私が、私である以上、本当の意味で日本人達に信頼されることはない。だからといって、今更、ブリタニアに戻る訳にもいかぬだろうしな」
 戻る理由もない……と彼女は静かに笑う。
 やはり、彼女は気がついていたのか……と藤堂は心の中で呟く。いや、気付かない方がおかしいのか、とも。
「……あぁ、そんな表情をするな」
 ふわりと、ルルーシュは笑みを口元に刻んだ。それは、小面の持つそれとよく似ている。
「スザクと神楽耶……そして、お前達が私を必要としてくれている以上、私はここにいる」
 他のものからどう思われようともかまわない。そう付け加えると、彼女は静かに目を伏せた。
「それでも、時々考えるだけだ。どうして、この身にあの男の血が流れているのだろうか、とな」
 それさえなければ……と口にしかけてルルーシュは後の言葉を飲み込む。いつも彼女は、こうして自分の中に全ての感情をため込んでしまうのだ。それを表に出すとすれば、スザクの前でだけだろう。
 それは、二人の関係を考えれば喜ばしいことなのかもしれない。しかし、どこか物足りないと思ってしまう。
「私からすれば、藤堂の方がよっぽど《父様》らしく思えるのに」
 もっとも、自分の年齢を考えれば、そんなことを言ってしまえば悪いかもしれないが、とルルーシュはふわりと微笑む。
「そういってもらえるのは嬉しいが」
 言葉とともに、藤堂は目の前の体を軽々と抱き上げる。
「藤堂?」
「あれこれ考え込む前に、体を温めるのだな。でなければ、本当に風邪をひく」
 ルルーシュが寝込めば落ち着いていられないものが大勢いるのだから。そう付け加えるとともに藤堂はきびすを返す。そんな彼の肩に、ルルーシュは甘えるかのようにそうっと頭を寄せてきた。


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07.06.24移動up