One Scene

 ここは静かだ。
 そんなことを考えながら視線を移動させる。そうすれば、ルルーシュが何かを考え込んでいる姿が見えた。
「……ルルーシュ……」
 その表情はこの場所を包み込む空気と同じように静かだ。いや、ルルーシュがそうだからこそ、静かだと感じるのかもしれない。
 理由は簡単。
 今、ここにいるのは自分たちだけ、なのだ。
 だから、とスザクは遠慮することなく彼の顔を見つめる。
 彼の瞳には、覚悟を決めてしまった人間だけが持つ不思議な光がたたえられている。そして、自分も彼の決意を受け入れたはず、だった。
 それなのに、どうしてこんなに胸がざわめくのだろう。
 自分たちはお互いに罪を背負っている。
 だから、償わなくてはいけない。そういったのも自分だったではないか。
 でも、と心の中で呟く。それと彼を失うこととは別の話だと、そう思っていた。
 確かにユーフェミアが引き起こしたあの事件の真相を知りたいとずっと考えていたことは否定しない。それはルルーシュだってわかっていたはずだ。自分がどんな気持ちでそう考えていたかも、彼だけは理解していたはず。それは、彼が自分の母の真相を知りたいと思っていた気持ちと変わらないはずだ。
 しかし、とスザクは息を吐き出す。
 彼にとって真実は決して優しいものではなかった。それどころか、彼の中にあった優しい思いを全て否定することになってしまったのではないか。
 だからこそ、彼はあんなことを考えたのかもしれない。
 スザクがそう心の中で呟いたときだ。
「スザク」
 静かな声が周囲を震わせる。
「俺の顔に、何かついているか?」
 その問いかけに、スザクは首を横に振って見せた。
「なら、何でさっきから黙って人の顔を見つめている」
 ルルーシュの声音に、少しだけ怒りが含まれる。
「……たんに、綺麗だなぁって思っていたんだけど?」
 ルルーシュって美人だよね、とスザクはとりあえず口にした。
「……はぁ?」
 ルルーシュは、自分が想定していない反応を返されるとフリーズをする。その事実を逆手にとってごまかしてしまえ、と思ったわけではない。ただ、するりとこの言葉が口から転げ落ちてしまった。
「だから、いくら見ていても見飽きないなって、そう思っただけ」
 ついでに、それを実行していました……と笑う。
「ス、スザク!」
 いったい何を言い出すんだ! とルルーシュは怒鳴り返してくる。その彼の頬がうっすらと赤く染まっているのはスザクの目の錯覚ではないはずだ。
 同時に、彼の周囲を包んでいたあの静けさが霧散する。後に残されたのは、自分がよく知っているルルーシュの存在だ。それを感じた瞬間、胸のざわめきも消えた。
「本当のことを言って、何が悪いわけ?」
 思い切り開き直った口調でスザクはさらに言葉を重ねる。
 その言葉の裏で自分がどれだけ安堵しているか、彼にはわからないだろう。少なくとも、彼が《彼》であるうちは、自分は彼を失わずにすむのだ。そう考えて、スザクは微笑む。
「いい加減、認めれば?」
 ルルーシュは間違いなく《美人》と言われる人間だ。それも極上の、とスザクはその表情のまま付け加える。
「俺は男だ!」
 美人と言われて喜ぶはずがないだろう。ルルーシュはそう主張をする。
「……男女逆転祭りの時のみんなの反応を忘れてないけど?」
 あの後、ルルーシュにまとわりついていたバカを処分したのは自分とリヴァルだ。スザクはそうも付け加えた。
「……あれは……」
 流石に彼もその時のことを忘れていなかったらしい。思い切り絶句している。
「それだけではないぞ?」
 不意に室内に第三の声が響く。
「C.C.!」
 それに、何故かルルーシュが慌て出す。
「そいつの色香で惑わされたバカは両手の指以上にいたからな」
 しかも、男だとわかっていてもベッドに引きずり込もうとしていた……と彼女はそれには構わず言葉を綴る。
「露出度で言えば、私やカレンの方が上だったはずだったのだが……」
「女のくせに、はしたないセリフを口にするな!」
 そんなことを自己申告するな、とルルーシュは顔を真っ赤にして叫んだ。
「はしたないって……」
 今時、そんな言葉を使う人間がいるとは思わなかった。しかも、この程度のことで、だ。
「これだから、童貞ボーヤは……」
 C.C.はC.C.であきれたように言葉を綴る。
「うるさい!」
 貴様らは少し黙っていろ! とルルーシュは本気で怒り出す。
「でなければ、計画が立てられないだろうが」
 さらにこんなことまで口にしてくれた。
「そんなもの。お前のギアスとそいつの体力があればどうとでもなるだろう?」
 小さな笑いと共にC.C.は即座に言い返す。それは本当は彼女はこの計画に賛成したくないからなのだろうか。
「それよりも腹が減った。ピザを焼け」
 いや、単純に空腹を覚えたから、かもしれない。だから、ここにやってきたのだろうか。
「……お前は、この状況でそういうセリフを口にするのか?」
 ため息とともにルルーシュが聞き返す。
「当然だ。私はC.C.だからな」
 これは理由になるのだろうか。スザクにはわからない。しかし、ルルーシュはそれで納得をしたのか、諦めたような表情で立ち上がった。
「まったく……少しは自分で動け」
 冷凍庫にピザなら入っているだろうが、と呟く。
「私が焼くよりも、お前が焼いた方がうまいからに決まっているだろう?」
 本当なら、冷凍のものではなく、生地から作った物を食べたいが、我慢してやっているんだ……と偉そうに彼女は続ける。
「太るぞ」
 女性に対して、それは禁句ではないだろうか。だが、ルルーシュの容姿であれば十分に許されるような気もする。
「そのセリフも聞き飽きたな」
 C.C.はC.C.で平然とこう言い返していた。何度も繰り返されてきたらしいそのセリフに、何故かむかついてしまう自分がいることにもスザクは気付いていた。
「まぁ、いい。丁度いい時間だから、食事の支度をするか」
 気分転換も必要だろう。ルルーシュは自分を納得させるようにこう告げる。
「スザク」
「何?」
 いきなりな前を呼ばれて、内心驚きながらも聞き返す。
「お前は何を食べたい?」
 しかも、言われたのはこんなセリフだ。確かに、この中で普通に――と言うよりも達人の域に達しているような気はするが――料理が出来るのは彼だけだが。しかし、いきなりこう言われても、と思いながらスザクは必死に考える。
「……鶏の唐揚げ?」
 そして、出した結論がこれだった。
「そうか」
 なら、主食はご飯だな……とルルーシュは呟く。彼の脳裏では、きっと、それに合わせる他のメニューも決められているのだろう。そのまま、何も言わずにキッチンへと向かっていく。
「……このまま、ずっと一緒に過ごせたらいいのに……」
 彼の後ろ姿を見送りながら、スザクはついこんなセリフを呟いてしまう。それが不可能だ、と言うこともわかっているのに、だ。
「そうだな」
 C.C.もまた、寂しげにこう呟く。
「だが、あいつは妙なところで頑固だからな」
 きっと、自分の決めたことは最後までやり通すだろう。そうも続ける。
「……ルルーシュ、だからね」
 その日が来て欲しいのか、それとも……と考えかけて、スザクはやめた。どうしても答えを出せないことがわかっているのだ。
 ただ、一日でも長くこの生活が続けばいい。
 同時に、彼が安らかな時間を過ごせればいいとも思う。きっと、計画が走り出したら、自分たちの上には《安息》の二文字は訪れないだろうから。

 それが、自分勝手な願いだとわかっていても、だ。






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