キスの話


 いったい、これはなんの羞恥プレイだ? とルルーシュは心の中で呟く。
 いや、そもそも、何で自分がこの場にいなければならないのか。
 それ以前に、ここに集まっているメンバーの共通点はなんなのか。
「……スザクはまだわかる。あいつはブリタニアの騎士だからな」
 そして、と一段高くなっている場所をにらみつける。その瞬間、何故か、そこに立っている男は嬉しそうに眼を細めた。その瞬間、殺意がわいたとしても誰もとがめないのではないか。
「シュナイゼルやらコーネリアも、まだ納得する」
 だが、何故かあの世に行ったはずのクロヴィスやユーフェミアの姿までもがここにある。
 それも、まぁ、階段につまらなさそうに座り込んでいる少年のせいだと言えるだろう。
 しかし、だ。
「何故、貴様までここにいる!」
 C.C.! とすぐそばにいた相手をルルーシュは指さす。
「他人を指さすのは失礼だと教わらなかったのか、お前は」
 彼女は平然と言い返してくる。
「ついでに、私はあれに呼ばれてきただけだぞ」
 あそこにいる男に、とC.C.はあごで壇上にいる相手を指し示す。
「あごならいいのか、あごは!」
 思わず、そう突っ込んでしまう。
「細かいことは気にするな。男らしくないぞ」
 いや、貴様がおおざっぱすぎるのだ。ルルーシュはそう言いたい。だが、そう言っても無駄だと言うこともわかっていた。
「それで、何の用なんだ?」
 代わりというように、壇上にいるロールケーキことシャルル・ジ・ブリタニアへと声をかける。
「ルルーシュよぉ! 儂は、貴様の父親だぞ」
 しかし、彼の口から出たのは一番可能性が低いと考えていたセリフだった。
「……遺伝子上のな」
 忌々しいが、とルルーシュは言い返す。
「そんなことを言うでない! 儂の愛がわからぬかぁ!!」
「わかりたくもないわ!」
 シャルルの言葉にルルーシュはそう叫んだ。
「用事が、その世迷い言を聞かせるだけならば、俺は帰るぞ!」
 つきあってられない、と言外に付け加える。
「待てぇ」
 慌てたようにシャルルは言葉を重ねた。
「そこにいる魔女に唇を奪われたというのは本当かぁ!」
「……はっ?」
 意味がわからない。
 いや、シャルルが言っている言葉の意味はわかる。だが、何故それを問いかけられるのかがわからない。
「だから、そやつにキスを奪われたというのは……」
 何故、言い方を変えてくる。表現を変えても言いたいことは同じだろう。そうあきれたくなる。
「本当だよ、なぁ」
 さらに、C.C.のいじめっ子モードが発動した。
「しっかりと堪能させてもらったさ」
 そう言って彼女はせせら笑う。その瞬間、シャルルの表情がおもしろいほど変化をした。ショックから悲しみ、そして怒りというのは、まるで娘を見知らぬ男に取られた父親のようではないか。
 しかし、と思う。自分は男だ。第一、とルルーシュは口にする。
「別段、ファーストキスを奪われたわけでもあるまいし……」
 ため息とともにそう続けた。
「ほぉ? では、誰がファーストキスの相手なんだ?」
 即座にC.C.が話題に食いついてくる。
「……それが貴様に関係あるのか?」
 何故、話さなければいけない。言外にそう付け加える。
「安心しろ。ただの好奇心だ」
「……余計、悪いわ!」
 即座に言い返す。
「いいではないか。気にしているのは私だけではないぞ」
 彼女はそう言って周囲を視線に流す。そうすれば、確かにそこにいる者達が興味津々といった様子でこちらを見つめている。
「ひょっとして、僕?」
 真っ先に頭のわいたセリフを口にしてくれたのはスザクだ。
「残念だが、違う」
 何故、自分だと思うのか。逆にそれが聞きたい。
「言っておくけど、ナナリー相手はカウントされないからね?」
 負けじ、とスザクが言い返して来る。
「それはどこのルールだ?」
 ルルーシュは逆に聞き返す。
「だって、みんなそう思っているよ?」
 だから、ナナリーは除外の方向で。彼はさらに言葉を重ねた。
「それと、お母さんもだよ?」
 母親を含められたら誰も勝てない。それに関してはとりあえず同意をしておく。
「それでもお前ではないな」
 あきらめろ、とルルーシュは言う。その瞬間、クロヴィスとユーフェミア。それにシュナイゼルが表情を輝かせた。
「それでは、わたくしですか?」
「いや。私だろう、ルルーシュ」
「何を言っている。私に決まっているではないか」
 異口同音に三人が問いかけてくる。
 そうであった方がマシだったかもしれない。今でならばそう言いきれる。だが実際はとため息をつく。
「残念ながら、あなた方でもない」
 約一名はそうでないことに万歳三唱をしたいくらいだが、と心の中で付け加えた。
「では、お姉様ですか?」
「まさかと思うが、オデュッセウス兄上か……」
「いや、ギネヴィア姉上とか、カリーヌという可能性も捨てきれないよ」
 だから、どうして勝手に盛り上がってくれるのか。
「だとしても、あなた方には関係ないのでは?」
 いい加減にしてくれ、と心の中だけで呟く。
「では、誰なのだぁ!」
 さっさと白状しろ、と言ったのはシャルルである。
「黙秘権を行使します」
 言ってたまるか、と思う。
「おとなしく言った方がいいと思うよ。でないと、今すぐ、エリア11にミサイルを撃ち込みかねないから」
 どうでもいいけど、と階段に座っていた少年が初めて口を開く。
「……言ったら、そこのロールケーキが喜ぶだけだ」
 マリアンヌでもナナリーでもなければ、とルルーシュはいやそうな表情を作った。
「と言うことは、儂かぁ!」
 逆にシャルルは喜色を前面に押し出す。
「……何か、ものすごく気に入らない」
 スザクがそんな彼を見てこう呟く。
「反逆をしてもいいかね、これは」
 さらにシュナイゼルがそう言った。
「応援しますは、お兄様」
「草葉の陰からでよろしければ」
 次第に、周囲の空気が不穏なものへと変化していく。
「帰るか、ルルーシュ」
 ぼそっとC.C.が問いかけてくる。
「それが良さそうだな」
 これ以上ごたごたに巻き込まれたくない。そう判断をして、ルルーシュは即座にきびすを返した。
「陛下、御覚悟を!」
「ルルーシュのファーストキスの恨み!」
 二人が歩き出すと同時にこんな叫びが聞こえてくる。
「カレンがいなくてよかった」
 何を言われるかわからない。そう考えて、ルルーシュはそう呟く。
 背後でどのような惨事が起きているのか。確認する気力は彼にはなかった。






12.08.13up