「簡単だと思ったんだけどな」
スザクはそう言ってため息をつく。
「こんなに暑くなるとは思わなかったし」
何よりも、ひまわりの背丈が自分よりも高いので影で方向を判断することができないのだ。かといって、ここでギブアップするのは癪だ。
「そういえば、壁に手をついて歩くと迷わずに出られるらしいけど……今からじゃ遅いか」
戻ってくるとすればここだ。だから、とスザクはため息をつく。
「さて、どうしようか」
体力はまだ残っている。こうなればしらみつぶしに歩き回るしかないのか。本当にまずい状況になれば、きっと、誰かがストップをかけに来るだろう。まずは、とスザクは周囲を見回す、その視線が不意に止まった。。
「……妖精?」
それとも、と呟いてしまったのは、目の前の相手が生身の人間とは思えなかったからだ。
つややかな黒い髪。
まるでひな人形のような白い肌。
ふわりと風に揺れる白いワンピース。
そして、髪の毛の長さや服装から判断をして間違いなく少女なのだろう。しかし、自分が知っている女性陣とは違って生々しくないというか、どこか、現実から離れた感じがする。だが、そんな思いも少女の足首を見た瞬間、吹き飛んだ。
「大丈夫か?」
真っ赤に腫れているそれは、おそらくひねったのだろう。早めに手当をすればすぐに治るが、放っておけば癖になるかもしれない。そう判断をして声をかける。
その瞬間、少女が驚いたような表情とともに視線を向けてきた。
「……誰?」
そのまま、不思議そうにこう問いかけてくる。それが日本語だったことにすぐには気づけないほど自然な日本語だった。
「俺? 俺は、スザク……」
そういう君は? と聞き返す。同時に、どうしてこのようなときにそんなことを聞いてくるのだろうかと不思議になる。
「私はルルーシュです。初対面の人にはきちんと挨拶をしなさいって、母さんが」
にっこりと笑って彼女はそう言う。本気でどこかずれているような気はする。だが、きちんとしつけられているのだろうな、とスザクは判断した。
「そっか。それよりもさ。足、痛くないのか?」
腫れているだろう? と問いかけてみる。
「痛いですが……でも、ちゃんとクリアしないと」
どうやら、かなり意地っ張りらしい。
「ルートはわかっているのですが」
少し休めば歩けるようになるかな、と思っていた。ルルーシュはそう言う。
「無理だと思うぞ、それ」
武道を習っているからわかる。あれはちょっとひねった程度の腫れではない。
「でも」
止めてもやめないだろうな。それに、とスザクは思う。ルルーシュはとても細いからきっと軽いはずだ。
「出口がわかっているなら、負ぶっていってやるよ。俺もそろそろここから出たいし」
「……でも、重いですよ?」
自分は、とルルーシュは言い返して来る。
「大丈夫。これでも鍛えているから」
任せておけ、とスザクは言う。
「俺は日本男児だ。そして、日本男児はできないことは言わない」
きっぱりと言い切る。それにルルーシュは少し考え込むような表情を作った。
「なら、お願いします」
だが、すぐに言葉とともに頭を下げる。本当の大和撫子というのは彼女のような人間のことをいうのではないか。もちろん、彼女は日本人ではないのだが。それは彼女の瞳の色からもわかった。本当にきれいな紫だ。吸い込まれそうだと思う。
しかし、今はそれを見ているときではない。
「了解」
そう言ってスザクはルルーシュに笑い返した。
たぶん、あれが初恋だった。スザクは今でもそう考えている。
しかし、現実は自分の考えの斜め上にあった。
恋バナで盛り上がるのは女子だけではない。今も、生徒会の仲間とそれぞれの話をしていた。しかし、それが自分達の話となると、逃げ出したくなるのはどうしてだろう。
「と言うのが、俺とスザクの出会いだったはずなんだ」
そんなことを考えているスザクの前でルルーシュは話を締めくくる。
ようやくこの責め苦から逃れられるのか、と思ったときだ。ルルーシュは視線をスザクへと向けてくる。
「なのに再会したときにはしっかりと忘れられていたな」
非難の色を隠さずに彼はそう言った。
「そうは言うけど、ルルーシュ……あの頃の君はワンピース着ていたし、それがものすごく似合ってたし……だから、僕は君がてっきり美少女だと思ったんだよ!」
それが、実は男でしたなんて、誰が考えるか! とスザクは言い返す。
「そりゃ、確かに、今も美人だけどさ」
一目惚れし直すぐらい、と続ける。
「……本当か?」
「本当だって」
信じて、とスザクは本気で頭を下げた。
「ひょっとして、俺たちはのろけを聞かされているのでしょうか」
リヴァルが隣にいるミレイにこう問いかけている。
「間違いなくのろけね……こういうことは二人だけのと気にして欲しいわ」
それに彼女もこう言い返した。
「でも、ルルちゃんが女装というと……お母様の趣味であれこれ着せられていたときね」
確かに、あれは間違えても仕方がないわ。彼女はそう言ってうなずく。
「ルルちゃんって、本当に昔から罪作りよね」
それは否定できない。スザクはそう思う。
「今もきっと似合うよね」
女装、と思わず呟いてしまった。その瞬間、後頭部に鈍い痛みが伝わってくる。
「お前、言うに事欠いてそれか?」
同時に瞳に怒りで頬を紅潮させたルルーシュの姿が映し出された。
「本心を言っただけです」
絶対に会うと思います、とスザクは言い返す。
「だから、余計な事を言うな! 会長がよからぬことを考えつくだろう!」
「あぁ、その可能性はあるね」
実際、何かを思いついたというような表情をしてる。
「まぁ、そのときは僕がルルーシュを抱えて逃げるから」
それで許して、と言う。それにルルーシュは苦笑を返してくれた。
12.08.19インテ配布 12.09.24up