君が生まれた日


 ブリタニアには皇室だけに伝えられている伝説がある。
 灰色の魔女と金の予言者、そして黒の枢機卿だ。
 もっとも、その存在を実際に目にしたものは九十九代続いたブリタニアの皇帝の中でもそう多くはない。
 まして、三人そろって人の前に姿を現すことはほとんどなかった。
 だが、それは一人の子供が産声を上げるまでのこと。
 その日、ブリタニアには初雪が舞っていた。

 人の世に興味を失ってからどれだけの時間が過ぎただろうか。あまりにも長い年月を過ごしていたせいで、はっきりとは覚えていない。
 人間なんて、自分にとっては一瞬の火花のような存在だ。
 それでも、自分たちはそんな人間がいなければ何の意味もない存在だと言うことも否定できない。
 だからといって、適当な人間を選ぶわけにもいかないのは、今までの経験上からわかっていた。
 だから、自分たちが選ぶにふさわしい存在が生まれるまでまどろんでいたのだが……
「……泣き声?」
 それもこれは生まれたばかりの赤子のものではないか。そう思いながら《彼》はまどろみから抜け出した。
「珍しいこともあるものだ」
 自分の耳に誰かの声が届くとは……と彼は笑う。
「いったい、どこの子供だ?」
 自分のまどろみをさますとは。
 こう言いながらも、彼はその存在にものすごく興味を感じていた。ひょっとしたら、その赤子は自分を世界に呼び戻す存在かもしれない。そう思っていたのだ。
「確認しなければいけないな」
 その子供が本当に自分が望んでいる《存在》なのかどうか。
 もし、そうならば他のものに取られてはならない。自分にとってそうであるのならば、他のものにも同様だと言える。
 決して、あれらに奪われるわけにはいかない。
 特に、あの灰色の魔女には。
 この思いと共に、彼は久々に外へと降り立った。

 黒い髪に紫紺の瞳。
 その珍しい取り合わせがとても気に入った。
 だから、と彼は笑う。
「ようこそ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
 君を待っていたよ……と囁きながら、そっとその左目に触れる。
「私から、君に祝福を」
 同時に、所有の印を付けさせてもらうよ……と彼は笑う。
「君は私のものだ」
 もっとも、今はその意味はもちろん、その事実もわかっていないだろうが……と彼はそっと笑みを深めた。それでも、いずれはこの子の存在は全て自分のものにしてしまおう。
「それまでの時間も楽しいだろうね」
 人の子供の成長なんて見ていても意味がないと思っていた。
 しかし、それがいずれ自分のものになる、というのであれば話は別だ。
 どのように成長していくのか。
 この子は母親に似ているから、間違いなく美しく育つだろう。
 しかし、中身はどうなるのか。
「……誰か、協力者を作っておいた方がいいかもしれないな」
 今の自分ではこの赤子を直接守ることはできない。正式な契約を結ぶまでは、ただ見守るしかできないのだ。
 古からの理とはいえ、これほど歯がゆく思ったことはない。
「当面は、大丈夫だと思うが……」
 それでも、どこに危険が潜んでいるかわからない。まして、この子は自分が認めたのだ。きっと聡明な人間になるだろう。
 だからといって、あの男ではダメだ。
 あの男では、この子を守るどころか視界の中に入れることもしないだろう。たとえ、自分が選んだ存在だとしても、だ。むしろ喜んで放り出しかねない。
 では、誰がいいだろう。
 あの男の妻達は無理だ。むしろ、自分の子供が選ばれなかったことでこの子供を恨むだろう。
 あの男の兄弟や部下もそうだ。
 そうなると、残りはこの子の兄姉たち、と言うことになる。
「まぁ、それはおいおい考えていけばいいか」
 今は、君の誕生を祝おう。
 その思いと共にそうっと目の前の赤子の額に口づけた。



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07.12.03up