ルルーシュ様の犬

「兄上」
 こう言いながら、クロヴィスが歩み寄ってくる。
「どうかしたのかな?」
 面会の申し入れもなく彼がこんな風に声をかけてくるのは珍しい。そう思いながら、シュナイゼルはすぐ下の弟に微笑みかけた。
「ルルーシュのことでご相談が」
 それに安堵をしたのだろうか。彼はこう告げる。
「ルルーシュがどうかしたのかい?」
 先日、実の母を亡くしたばかりのあのかわいそうな弟の名前を聞いてシュナイゼルは少しだけ表情を変えた。
「あの子は君が引き取っているのだろう? それについて、誰か何か文句でも言ったのかね」
 ならば、自分が出て行くこともやぶさかではないが。言外にそう付け加える。
「いえ……あの子が、犬を欲しいと言い出しまして」
 あの日から初めて彼が口にしたおねだりだ。だから叶えてやりたいのだが……とクロヴィスは小さなため息をつく。
「私の所にも知り合いの所にも、あの子にふさわしいような犬がおりませんので……兄上にお心当たりがあれば、と思ったのです」
 おそらく、すぐ側にいてくれるものが必要なのだろう。自分が常に側にいてやれればいいのだが、現状ではそれも難しい……と彼は付け加える。
「そうか」
 それはよい傾向なのかもしれない。
 まだ、医師団によって治療を受けているナナリーは、退院できる目星がついていない。だが、ようやくルルーシュの気持ちは現実を受け入れようとしている。だから、側にいてくれるものを求めるのだろう。
「残念だが、私の元にも、現在そのような情報はないね。あぁ、コーネリアにも声をかけて探させよう」
 だが、すぐには見つからないかもしれない。それでは、あの子のためにはならないだろう。
 自分の希望は叶わないものだ。
 そう認識してしまうかもしれない。それではいけないのではないか。
「……待てよ?」
 ふっとあることを思いついてしまう。
「兄上?」
「別段、本物の《犬》でなくてもいいかもしれぬな」
 ルルーシュの側にいて、あの子の言葉だけにしたがうものであれば……とシュナイゼルは呟いた。
「ですが、兄上」
「わかっているよ、クロヴィス。もちろん、本物の犬も探させよう。だが、それが見つかるまでの繋ぎに、別の存在をあの子の側に置いてもいいかもしれないね」
 あの子のための《騎士》という名目で……とシュナイゼルは笑う。
「軍にも《犬属性》の者はいるからね」
 取りあえずは、ルルーシュにそれで我慢して貰おう……と彼はさらに笑みを深める。
「……それは、何か違うのではありませんか、兄上」
 クロヴィスがため息混じりにこうはき出す。しかし、それはシュナイゼルの耳には届いていなかった。

 数日後のことだ。
「……お前は?」
 自分の目の前に現れた相手を、ルルーシュはにらみつける。
「ジェレミア・ゴットバルト……と申します、ルルーシュ殿下」
 言葉とともに彼はルルーシュの前に膝を着いた。
「どうぞ、貴方の《犬》と読んでください」
 この言葉に、ルルーシュの目が丸くなる。
「僕が欲しかったのは、ふわふわの可愛い子犬だ!」
 ルルーシュの叫びが宮殿内に響いた。



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08.02.08移動