パパとルル


 アッシュフォードに保護されたからか。それとも――忌々しいが――この地がブリタニアに平定されたからか。買い物はものすごく楽になった。
「……今日はいいリンゴがあったから、アップルパイでも作ろうか」
 それとも、シンプルに焼きリンゴにしておくべきか……と口にしながら、ルルーシュは与えられた家へと足を向ける。
 今日はナナリーが検診のためにいない。
 その手持ちぶさたもあって、ルルーシュはついついこった料理を作りたくなっていた。だから、果物の他にもついついあれこれ買い込んでしまっていた。
 元々、あまり体力がある方ではない――というよりも、自分はあくまでも人並みなだけで、周囲にいた者達が異常なだけだ、とルルーシュは信じている――せいで、注意が荷物に向けられていたせいか、この時の彼はまだ、そんな自分の後を付いて来る存在に気付いていなかった。

 取りあえず、ナナリーが好きなクリームシチューの準備を終え、ルルーシュはデザートへと手を付けた。
「……やっぱり、パイだな」
 シチュー用に作ったパイ生地が残ってしまったから、つかってしまわないともったいない。それに、熱々のパイとアイスクリームの組み合わせは懐かしい時間を思い出すから。
「……母さんが作ってくれたパイはいびつだったけど、おいしかったよな」
 そんなことを考えながら手早くリンゴを切っていく。
 だが、すぐに嫌なことを思い出してしまった。
 今は世界で一番嫌いな相手がその場に乱入してきたのだ。
 それでも、あのころは顔を見せてくれたことが嬉しかった。普段は近くに寄ることも許せなかったが、あの場では礼儀も何も関係なかった。
 だから、少なくとも幾ばくかの愛情をかけられていると思っていたのに。
「……ダメだな。こんなことを考えていたら料理が、まずくなる」
 自分たちはあの男から捨てられたのだ。
 だから……とルルーシュは唇をかみしめる。
「忘れてしまえ、ルルーシュ」
 あれは幻だったのだ。
 自分が今しなければいけないのは、ナナリーを守ることだろう。
「それよりも、パイを焼いてしまわないと」
 意識を切り替えることに何とか成功をすると、ルルーシュは作業を再開した。

 ナナリーが帰ってくる気配がした。
 ちょうど料理もできあがったから、食事にするかどうかを確認してこよう。そう思って、リビングのドアを開けた。
 その瞬間、ルルーシュは凍り付いてしまう。
 何故、この男がここにいるのだろうか。しかも、あの髪型は何なのか。あの特徴的なロールケーキが何故か真っ直ぐになっている。と言うことは、あれは毎日きちんとセットしてたということなのか。
「……ナナリー?」
 しかも、その男の膝の上に可愛い妹の姿がある。
「お兄さま……お父様、が……」
 会いに来てくださいましたの、とナナリーが困惑したように口にした。
「……俺たちのことは必要ないのではなかったのですか?」
 今更、と思いなならルルーシュはこう問いかける。
「それとも、捨てたはずの道具でも残っていれば惜しくなりましたか?」
 どこかにまた捨て駒を配置する必要ができたのか、とルルーシュはシャルルをにらみつけた。しかし、その瞳が次の瞬間、驚愕に見開かれる。
 ナナリーを抱きしめたままシャルルが滂沱の涙を流しているのだ。
「……父さん?」
 いったい何で目の前の男が泣いているのか。
 自分たちに一番酷いことをしたくせに。
「ルルーゥシュゥ! 父の愛がわからなかったのかぁ!」
 そんなものあったのか、といい返したい。だが、シャルルはさらに言葉を重ねてくる。
「あのままブリタニアにお前達を置いておけば、間違いなくお前達の命が失われてしまったではないかぁ!」
 だから、安全な場所へと避難させたのだ。しかも、他の者達には自分がルルーシュ達を見限ったと思わせたから、当分は追及はされないだろう。
「新しい戸籍も作ってやったではないかぁ!」
 つまり、今の自分たちの状況は目の前の男が用意した物だと言うことか。
「だったら、どうして俺たちからスザクを取り上げるようなマネをしたんだよ!」
 このくそ親父! とルルーシュは叫ぶ。
「……ルルーシュゥ! 父に向かって何という言葉を」
「うるさい! 父親といって欲しいなら、今すぐを連れてこい!!」
 母さんも守れなかったくせに! と付け加えれば、シャルルはまた号泣をする。
「そこまで儂を恨んでおったかぁ」
 本当に気が付いていなかったのか、この男は……とルルーシュはあきれた。それはナナリーも同じだったらしい。
「……お父様がスザクさんを連れてきて、一緒に暮らせるようにしてくださったら……少しでも愛されているのだと思えます」
 それでも、こう主張をするのは、彼女もあの日々が大切だったと思っているからだろうか。
「お前達がぁそこまで言うなら、そうしてやろうではないかぁ!」
 二人そろってそう言ったからだろう。シャルルはこう言うと、ナナリーをそっと車いすに戻す。
「待っておるがよい!」
 そして、この言葉を残して足早に立ち去った。
「……お兄さま……」
「取りあえず、食事にしよう、ナナリー」
 そっと呼びかけてくる妹に、ルルーシュはそう答えるしかできない。
「はい、お兄さま……」
 ナナリーもまた、それに静かに頷いてみせた。

「……つまり、俺は手みやげなのか?」
 翌日、しっかりとシャルルに拉致されてきたスザクがこう問いかけてくる。
「そう言うことになるの、かな?」
 本当にブリタニアをぶっ壊すべきなのかもしれない。そう思いながら、ルルーシュは視線をテーブルへと向ける。
「あれが……ブリタニア皇帝だなんて……」
 信じられない、とスザクもまた同じ方向へと視線を向けた。
 そこではナナリーを膝に載せご満悦と言った表情で、ルルーシュが作ったプリンを食べているシャルルの姿がある。
 二人の視線に気が付いたのだろう。彼がふっと笑みを浮かべた。
「ルルーシュゥ! 父は次は木イチゴのムースが食べたいぞぉ」
 手みやげの中に材料が入っておる! という彼にルルーシュはため息を吐く。
「明日、作っておきますよ」
 取りあえず、スザクが側に戻ってきてくれことだけは感謝しよう。そう考えて、現実逃避をしようとする自分の意識をつなぎ止めているルルーシュだった。

 それから、月に一度、シャルルがこの家を訪れるようになったのは良かったのか悪かったのか。
 取りあえず、これ以上厄介ごとが増えなければいいな。
 そう考える三人だった。





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08.05.21移動