「ルルーシュは、結婚をするならどのような方がいいの?」
 いきなりユーフェミアにこんな話題を振られて、ルルーシュは目を丸くしてしまう。
「結婚って……」
 いくら皇女として生まれたとはいえ、結婚なんてまだまだ先のことではないか。そう考えながらルルーシュは首をかしげる。
「ユフィ」
 そんな彼女に、コーネリアは苦笑混じりに声をかけた。
「いいのよ、コーネリア」
 くすくすと笑いながらマリアンヌが言葉を告げる。
「その子の世界が狭いのは私たちのワガママだもの。でも、考えることは悪くはないわ」
 それに、とマリアンヌは微笑みを深めた。
「ルルーシュの好みを聞いておくのは悪くないわ」
 母親として、続ける彼女に、コーネリアも頷いてみせる。
「お父様のような方? それとも、お兄さま方?」
 ルルーシュほどではないが、ユーフェミアの世界もそれほど広くはない。だから、こんなセリフが出てきたのだろう。
 それに、ルルーシュは何かを考え込んだ。
「……ビスマルク?」
 しばらくして、彼女はこう告げる。
「ヴァルトシュタイン卿?」
 どうして、とユーフェミアが聞き返した。
「父上は、母さんのでしょう?」
 だから、最初から除外するのだ……とルルーシュは口にする。
「お兄さま達はお兄さま達だもの」
 それに、彼等の中の誰かを選ぶと厄介なことになりそうだ。だからといって、ジェレミア達では今ひとつあてにならないし、と可愛らしい口調で彼女はさらに言葉を重ねた。
「ビスマルクは優しいし、母さんの次に強いから」
 自分たちをきっと守ってくれる。ルルーシュはそうも付け加えた。
「……あの子は……」
 自分の置かれている状況を的確に認識しているのか……とコーネリアは少しいたたましそうな視線を向ける。
「まぁ、男を見る目は悪くないわね」
 だが、マリアンヌはあくまでも明るい。
「確かに、ビスマルクならあの子を守ってくれるわ」
 あの子はナナリーと違って鈍くさいから……と言うセリフは何なのか。別の意味でルルーシュがかわいそうになってしまうコーネリアだった。

 その会話は、その場だけの話だ……とルルーシュもユーフェミアも思っていただろう。しかし、そうならなかった。もちろん、原因はマリアンヌである。
「嬉しいでしょ、ビスマルク」
 くすくすと笑いながら、彼女は下座に控えている彼に話題を振った。
「……マリアンヌ様……」
 冗談は、と渋面を作りながらビスマルクが言い返してくる。
「あら? ルルーシュじゃいやなの?」
 あんなに可愛い子なのに、とマリアンヌは目を丸くした。
「顔は私にそっくりだし、性格も素直よ? 多少鈍くさいけど……それはシャルルのせいよね」
 こう言いながら、彼女は隣に座っている夫へと視線を向ける。
「儂は、そこまで鈍くさくはないぞ」
 人並みだ、とシャルルは即座に言い返してきた。
「ルルーシュにしてもそうであろう」
 ただたんに、傍にいる者達の運動神経が人並み以上なだけではないか。そう彼は付け加える。
「……確かに。ルルーシュ様は、普通のお子様と同じ程度には運動神経をお持ちでしょう」
 マリアンヌやコーネリア、それにナナリーやユーフェミアと比べてはかわいそうだ。ビスマルクはそう口にした。
「あのお方は代わりに聡明な頭脳をお持ちではありませんか」
 あのシュナイゼルも舌を巻くほどのチェスの腕前だけでも十分すぎる才能だ、と彼はさらに言葉を重ねる。
「それは否定しないわ」
 自分でも勝てるかどうかは時の運だから、とマリアンヌは頷いて見せた。
「だからこそ、安心できる相手をさっさとあてがっておきたいのよね」
 バカに利用されては、ルルーシュがかわいそうだ。むしろ、あの子の足がかりになってくれるような存在の方がいい。ルルーシュをしっかりと支えられるような相手なら申し分ないだろう。
 その言葉には、ビスマルクも同意らしい。小さく頷いて見せた。
「まだ、あの子は嫁になど……いや、ルルーシュもナナリーも嫁になどやらん!」
 シャルルがきっぱりと宣言をする。
「あなたの娘である以上、それは無理だわ」
 あきれたようにマリアンヌは口にした。
「でも、ビスマルクの所ならアリエス離宮にいるときと変わらないのではなくて?」
 むしろ、今よりもシャルルの傍にいられるのではないか、とマリアンヌは微笑む。
「……むっ……」
 この言葉に、シャルルの心が揺れているらしい。
「ですが……」
 だが、それに水を差すかのようにビスマルクが口を開く。
「私は母君であるマリアンヌ様よりも年上ですが?」
「その位、たいしたことじゃないわ」
 自分とシャルルのことを考えれば、と即座に反論をする。
「そうね。後でルルーシュに聞いてみましょう」
 ビスマルクがこう言っていたけれど、どうする? と。そう告げれば、本人だけではなくシャルルも焦っているような表情を作った。

「ビスマルクは、私が嫌い?」
 言葉とともにルルーシュは小首をかしげてみせる。さらに上目遣いをされてはどんな朴念仁であろうと好意を抱かずにはいられないのではないか。
「そんなことはございません」
 慌ててビスマルクは首を横に振ってみせる。そして、彼女と目線を合わせるために膝を着いた。
「なら、どうして?」
 そんな彼に、ルルーシュはこう問いかけてくる。
「私は、マリアンヌ様よりも年上です故」
 それに、と彼はさらに言葉を綴った。
「私は、陛下の騎士です。ルルーシュ様を優先できぬこともあるでしょう」
 結婚するのであれば、それではいけない。だから、と告げるビスマルクの言葉にルルーシュはこてんと首を反対側に傾けた。
「でも、父上だって、母さんや私たちを優先してはくれないでしょ?」
 ビスマルクだけがどうしてダメなのか、と問いかけてくる。
「ルルーシュ様……」
 本当に何と言えばいいのか、と悩む。普通の貴族や何かであれば『おかしい』と思うことも、彼女にしてみれば普通のことなのだ。
「母さんより年上、と言っても……父上と母さんよりは離れてないでしょ?」
 さらに彼女は言葉を重ねる。
「それなのに、ダメなの?」
 うるっとルルーシュの瞳が潤み出す。
「……ルルーシュ様……」
 愛おしいか愛おしくないか、と聞かれれば答えは『愛おしい』だ。誰よりも敬愛している己の主と、尊敬をしているマリアンヌの子である彼女たちのことは、それこそ襁褓が取れる前から見守ってきているのだ。
 だが、逆に言えばそれだからこそためらわれる。
「……私などよりも、もっとよい相手に出逢えるかもしれません」
 ルルーシュはまだ六つなのだから、とビスマルクは苦し紛れに言葉を綴り出す。
「もし、後十年経っても同じお気持ちでいらっしゃったなら……その時に改めてお返事をさせて頂いてよろしいでしょうか」
 そのころになれば、ルルーシュの気持ちが変わっている可能性の方が大きい。
 もっとも、ルルーシュが選んだ相手が認められない存在であったときには邪魔をさせてもらうが。そう心の中で呟く。
 マリアンヌの娘達は、どちらも幸せになってもらわなければいけない。だから、とビスマルクは心の中で呟く。
「約束よ?」
 そんな彼に向かって、ルルーシュはこう告げる。
「Yes.Your Highness」
 その彼女の手を取ると、ビスマルクは誓いのキスを贈った。

「……それが?」
「あぁ。私とビスマルクが婚約することになった理由というか、原因だな」
 アーニャの言葉にルルーシュは頷いてみせる。
「でも……それって、ある意味、犯罪じゃ……」
 ぼそっとジノがこう呟いた。
「それよりも、ヴァルトシュタイン卿よりもいい男がいなかった、という方が問題じゃない?」
 そんな彼に向かって、スザクがこう言っている。
「僕はともかく、ジノ達は却下、ってことでしょう?」
 可愛い顔をしてきついセリフを口にしているな、とルルーシュは苦笑を浮かべた。それはきっと、彼にとって見ればあくまでも対岸の火事だからだろう。
「きっついなぁ、スザクは」
 ジノが即座に言い返している。
「でも、それ本当のこと」
 さらにアーニャが追い打ちをかけた。
「……アーニャまで……」
「だって、ルル様に選ばれなかった」
 酷い、とジノが言う前にアーニャが断言をする。
「そうは言うけどな。ヴァルトシュタイン卿よりもいい男になるのは大変だぞ?」
 重ねてきた経験の差は大きい。そのあたりのことはジノでも理解できているのか、とルルーシュは思う。
「今の私とあの方では太刀打ちが出来るはずがないだろう?」
 せめて、同じ年の彼であれば……と付け加えたのは負け惜しみなのか。
「無理だな」
 とりあえず、ルルーシュはこう口にする。
「殿下!」
「ビスマルクは、生まれたときからあぁだったからな」
 ジノと同じ年の彼なんて自分は知らない。そして、自分が知っている彼は今のように誰よりも素敵な存在だったのだ。
「将来性は買ってもらえないんですか?」
 殿下、とジノが問いかけてくる。
「……兄上達のイヤミ攻撃に耐えられるなら、考えてやってもいいぞ」
「あ、それ無理」
 あれはきつい、とスザクが苦笑と共に言った。
「スザク?」
「ルルーシュの同級生だったというだけでも、酷かったもん」
「……あれは、すまなかった……」
 そういうしかできない。同時に、どうしてあの人達は……と言う感情がまたわき上がってきた。そういう対象としてスザクを見たことがない、と言うのに、あんな風にいたぶることはないだろう、と今でも思っている。
「まぁ、そのおかげで今ここにいられるわけだから、笑い話に出来るけどね」
 ついでに、ルルーシュがここに入り浸っている理由もわかったし……と彼は続けた。
「おかげで、僕は助かっているし」
 どうしても書類の作成はにがてだから、と言う彼に、ルルーシュは苦笑を深める。
「そう思うなら、もう少しスペルミスを減らせ」
 まぁ、それをなくせばスザクの書類は突き返されることはないだろう。そういった意味で問題なのはアーニャではないか。ルルーシュがそう思ったときだ。
「おいででしたか」
 柔らかな声がかけられる。
「あなたが帰ってくると聞いたからな」
 どうせ、シャルルに帰還の報告をしたら自分の所に来る前にこちらに夜だろう。そう思ったから、ここで待っていたのだ。ルルーシュはそう告げる。
「それは申し訳ないことを」
 静かに彼は歩み寄ってきた。
「そう思うなら、これから一緒にアリエス宮まで行ってもらうぞ」
 マリアンヌも楽しみにしている。そういいながら、ルルーシュは彼へと手を差し出す。その手を彼の大きなそれが包み込んでくれた。



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