君が生まれてきた日のために


 もうじき、冬休みだ。その前にテストがあるのはお約束なのだが……自分たちには、それよりも重要と思える案件がある。
 今、ここに彼がいない。これについて話し合うのに、それは幸いなのだろうか。それともと思いながらスザクは口を開く。
「ルルーシュの誕生日だよね、もうじき」
 その瞬間、何故か生徒会室の空気が緊張した。
「どうしたの、みんな」
 訳がわからないまま、スザクは仲間達を見つめる。
「ルルーシュの誕生日が、どうかした?」
 去年だって普通にお祝いしたのに、と言外に付け加えた。だから、そんなに緊張することではないだろう。そう告げたのだが、いくら待ってもその空気が和らぐ様子が見られない。
「そうなんだけど……やっぱり、お祝いのケーキがルルーシュの手作りよりもおいしくないって言うのは問題じゃないかと思うのよね」
 かといって、手作りなんてできないし……とシャーリーがため息を吐く。
「……おいしいお店の情報ってないわけ?」
 ルルーシュのそれは確かに絶品だが、それに負けないレベルの店があるのではないか。スザクはそう言い返す。
「うん。だから、みんなで探しているんだけど……食べ歩くと、今度はお小遣いがピンチになるでしょ?」
 だから、悩んでいるのよ……と彼女は続ける。
「確かに、そうよね。それに、太るし」
 こう言ったのはカレンだ。少なくとも、彼女の場合『太る』可能性は少ないように思える。シャーリーにしても、あれだけ部活に励んでいるのであれば、大丈夫だと思うのだが……しかし、下手にそれを口にしてはあとが怖い。いとこ相手にそれは十二分以上に身にしみているスザクだった。
「……ネットで絞ったら?」
 ぼそっと口にする。
「そう言う口コミサイトって、あるんじゃないの?」
 ネットには、と続けた。
「あるわ」
 それに言葉を返してきたのはニーナだ。
「そうね。何カ所かチェックして、全部で高得点をつけられているお店を割り出せばいいかも」
 それならば、自分も手伝える……と彼女は続ける。
「なるほど。確かにそれなら無駄にふらふらしなくてもいいか」
 いい考えだ、とリヴァルも頷く。
「と言うことで、バイトを頑張ろうか」
 お互いに、とスザクは付け加える。
「……へっ?」
「女の子にお金を出させるのは男としての沽券に関わるだろう? 全部とは言わなくても何カ所かは僕たちがおごらないと」
 流石に、と言われてリヴァルは深いため息を吐いた。
「確かに、そうだよなぁ」
 一カ所ぐらいはおごらないと、とリヴァルも頷く。
「まぁ、バイトついでに情報も仕入れてきますか」
 そう彼が付け加えたときだ。生徒会室のドアが開く。
「何の情報だ?」
 同時に、両手にファイルを抱えたルルーシュがこう問いかけてきた。
 さて、何と言ってごまかすべきか。そう考えるが、直ぐには思い浮かばない。
「兄さんがね。バイクのパーツが欲しいって言っていたんだけど、あたしにはわからないから、リヴァルに頼んだの」
 にっこりと笑いながらカレンがそう言う。
「確かに、それならばリヴァルが一番の適任だな」
 彼女の言葉を信じたのかどうかはわからない。だが、ルルーシュはあっさりと頷いてみせる。
「それよりも、よかったら仕事をしてくれないか?」
 今日中に書類の分類を終わらせてしまいたいのだが、とさりげなく厳しいことを口にしてくれた。
「……ルルーシュ?」
「そうしないと、明日からのテスト勉強に支障が出るぞ」
 自力でやってくれるならいいが、と付け加えるところを見れば、今回も彼が不得意教科を手助けしてくれると言うことだろう。
「ニーナも付き合ってくれるな?」
 自分の手が回らないところは、と言外にルルーシュは告げる。
「その位なら。どうせなら、みんなで一緒に進級したいし」
 このセリフに、スザクは苦笑を浮かべリヴァルは小さなため息を吐く。
「と言うことで、会長が無理難題を言ってくる前に終わらせるぞ」
 彼のこの言葉に、誰もが即座に動き出す。そんなことになったら、またテスト勉強の時間が削られる。最後には、ルルーシュとニーナが今までの傾向から割り出した山を丸暗記と言うことで乗り切る羽目になるだろう。
 それだけは避けたい。
 できれば、自分自身の実力で及第点を取りたいのだ。もっとも、それがどれだけ難しいことかもわかってはいたが。
 ため息とともにそんなことを考えながら、スザク達は手を動かし始めた。



 テスト勉強の間も、ルルーシュの誕生日の準備は秘密裏に進められていた。
 一番厄介だったバースデーケーキに関しても、最後の手段――と書いてミレイのごり押しと読む――のおかげで。後は、自分たちがここに彼へのプレゼントを用意するだけだ。
「と言っても、何をプレゼントすればいいのかな」
 小さなため息とともにこう呟く。
 ルルーシュの本当の身分を知ってしまった以上、迂闊なものをプレゼントするわけにはいかないような気がする。だからといって、高価なものでは彼が怒り出すだろう。
 だからといって、ありきたりのものではいけない。
「……何がいいかな、本当に」
 これが他の誰かであればもっと簡単だ。
 日用品か趣味のものを贈ればいいだけだし。しかし、ルルーシュの場合、同じ事を考えている相手が相手だ。いや、彼等のそれとだぶったとしても本人は喜んでくれるだろう。だが、自分がそれではいやなのだ。
「彼が戻るときにも手元に置いて欲しいし」
 できれば、ずっと……と言いたい。しかし、それが可能なのかどうかはわからないのだ。
 でも、そうあって欲しいと願うことなら出来る。彼が手元に置いておくものといえばなんだろうか。そんなことを考えながら何度も訪れている彼の部屋を脳裏に描く。
「そう言えば、ルルーシュって本が好きだよね」
 でも、日本の本は持っていなかったように記憶している。
「一応、日本語は読めたよな、ルルーシュ」
 ならば、日本の本でもいいのではないか。
 しかし、どのような本がいいのだろう。
 優しい物語だろうか。それとも感動的なそれか。
「もっと、真面目に本を読んでおけばよかったかな」
 そうすれば、直ぐにいくつも思い浮かんだだろに、とは思う。
「ともかく、本屋に行ってみよう」
 そこでタイトルを見ていけばいい本が見つかるかもしれない。見つからなくても、店員が相談に乗ってくれるような気がする。
「それに本屋なら、参考書を探しに行ってきたって言えるだろうし」
 ルルーシュにも不審に思われないだろう。そう判断をするとスザクは早速行動を開始する。
 ジャケットを羽織るとポケットに財布と携帯をねじ込む。最後に鍵を手にすると部屋を後にした。



 テストの結果に一喜一憂しながら、当日を迎えた。
 しかし、ルルーシュにばれないようにあれこれと準備をするのは大変だ。今日だって、ジノが彼を連れ出してくれていなかったらどうなるか。
「ナナリー達にまで手伝って貰っちゃったしな」
 小さな声でスザクはそう呟く。
「ナナリー?」
 誰、とシャーリーが問いかけてくる。
「ルルーシュの妹さん。メールでちょっとお願いをしたら喜んで協力してくれた」
 今日も、彼女たちへのプレゼントを買いに行くと名目でジノがルルーシュを連れ出してくれているのだ。
「そう言えば、あんた、夏にあちらに御邪魔してきたんだものね」
 お知り合いにもなるか、と納得してくれる。
「でも、そのおかげでルルにばれなかったんだから、よかったじゃない」
 シャーリーがそう言って笑う。
「確かに。ルルーシュがいたら、絶対にばれるって」
 これだけ派手に荷物を運び込んだのだ。隠していても彼なら絶対に気が付くに決まっている。
「しかし、あのナナちゃんがスザク君のお願いを聞くなんて……本当に気に入られたわね」
 あの時の状況なら納得するけれど、とミレイが微笑む。
「でも、これでルルちゃんのことは安心してスザク君に任せられるわ。ジノ君もいいけど、彼は基本、わんこだから」
 ルルーシュには逆らえないし、と彼女が続けた瞬間、他の者達から小さな笑いが漏れる。だが、ジノがルルーシュに逆らえない理由は、みんなが考えているものと違う、とスザクは知っていた。
「……会長……」
 言外に色々なものを滲ませながらスザクは彼女に呼びかける。
「だって、そうじゃない。今日だって、尻尾を振って付いていったし」
 くすくすと笑いながら彼女は言った。その間にも手は作業を続けている。
「さて、これで大丈夫ね」
 その手を止めると同時に、彼女は満足そうに頷いて見せた。
「終わりましたね。気付かれないでよかった」
 そんな彼女にリヴァルが笑いながらこういった。でも、本当に彼は気付いていなかったのだろうか。ふっとそんな疑問がわき上がってくる。気付いていて、あえて気付かないふりをしてくれたのかもしれない。そんなことも考えてしまう。
 でも、どちらにしろ、誕生日のお祝いをしたいという自分たちの気持ちを彼は否定しないだろう。
 そんなことを考えていたときだ。ミレイが手にしていた携帯が軽やかな着メロを鳴り響かせる。
「ああ。そろそろ着くわね」
 みんな、準備はいい? とミレイが問いかけた。それぞれ、打ち合わせ通りの行動を取ると頷く。
「……で、書類がなんだって?」
 タイミングを見計らったかのようにルルーシュの声がドアの外から響いてくる。それに誰もが頷いて見せた。



「まったく……何かを画策しているとは思っていたが……」
 あんなことだと思わなかった。彼はそう言ってため息を吐く。
「だって、ルルーシュの誕生日だよ。お祝いしなくてどうするの?」
 やはり気付かれていたのか。そう考えているうちに、思わず居住まいを正してしまった。そして、部屋の隅で正座をしながらスザクは言い返す。
「ナナリーちゃん達にも、自分の分までお祝いして欲しい……と言われたし」
 ミレイとジノにも同じようなメールが連名で言っているはずだ。だから、二人も余計に張り切ったのだろう。スザクはそう告げる。
「……仕方がないな」
 さすがは妹大事のルルーシュだ。あっさりと納得したようだ。
「ところで、スザク」
「何?」
「……お前がくれた本だが……」
 あぁ、やはり気に入らなかったか。確かに、自分たちの年齢であの装丁だとそうかもしれない。だが、どれも大人が読んでもおかしくはないないようだと思う。
「読みたいと思っていた本だ。ありがとう」
 しかし、絵本を渡されるとは思わなかった……と彼は苦笑と共に言い返す。
「ごめん。絵本しかないのがあったから、つい」
 全部、絵本でそろえてしまったのだ……とスザクは苦笑と共に言い返す。
「なるほど」
 まぁ、スザクがくれたものなら何でもいいが……と彼は続けた。
「よかった」
 ふわりと微笑みながらスザクは言葉を返す。
「ついでに、他のものも欲しいんだが……」
 ねだってもいいか、と彼はさらに問いかけてくる。
「……いいけど……僕が持っているもの?」
「と言うより、お前しか持っていないな」
 こう言いながら、ルルーシュがゆっくりと近づいてきた。
「ルルーシュ?」
 そのまま、彼は覆い被さるように顔をのぞき込んで来る。ここまでされれば、何をしようとしているか想像が付いてしまう。
「……僕としては、押し倒されるより、押し倒す方が好みなんだけど……」
 それでも焦っていたのか。こんなセリフを口にしてしまった。
「スザク……お前、な。こう言うときは、もう少し空気を読め!」
「本気なんだけど」
 第一、ルルーシュの腕力に負けるはずがない。だから、とスザクは言い返す。
「それはわかっているから、せめてキスぐらいは俺からさせろ!」
 その後のことはお前に主導権を渡すから……と言われて、どう判断をすればいいのか。
「ひょっとして、誘ってるの?」
 恐る恐るこう問いかける。間違っていたら、軽蔑されるなんてものではない。いくら何でも、その位はわかっている。
 この問いかけに、彼は唇の端を持ち上げることで答えを返してきた。
 そこまではっきりと意思表示をされて拒めるような自分ではない。しかし、やはり暴走するわけにはいかないよな。それだけは気をつけないと。
 そんなことを考えながらふっと笑い返す。
「まったく、君は」
 この言葉とともにそっと唇を寄せていく。
「覚悟をしておけ、と言っただろう?」
 そうすれば、ルルーシュがこう囁き返してきた。



 その後の言葉は、お互いの唇の中へと告げられた。








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