ドレス選び
その1
目の前に山と積まれたのは何の書類だろうか。その量に一抹の不安を感じてしまう。
「……ルルーシュ?」
とりあえず、確認してみよう。そう考えてスザクは問いかけた。
「クロヴィス兄さんからだ。ドレスのデザイン画らしい」
結婚式用の、とルルーシュはため息をつく。
「これ、全部?」
まさか、と思いながらスザクは聞き返す。
「全部だ」
ルルーシュの渋面が深まる。
「だって……卒業するまで、まだ一年以上あるよ?」
その後のことを考えれば、卒業式と同時に結婚するわけには行かないのではないか。それなのに、もう? とスザクは思う。
「デザインに合わせて布を織るところから始めるつもりなんだろうが……それにしても、この量だとな」
選ぶだけでも一苦労だ。ルルーシュはそう続ける。
「それで? 僕は何をすればいいの?」
呼び出されたと言うことは、何かをさせたいと言うことだろう。そう思いながら問いかける。
「この中から、お前の好きなデザインを選んでくれ」
自分だけではどうしようもない。ルルーシュはそう言ってため息をついた。
「……僕の趣味でいいの?」
ルルーシュの好みとは違うかもしれないが、と確認の言葉を投げかけた。
「その中から、私の趣味に合うのを探す」
ルルーシュはそう言って笑う。確かに、その方が双方の好みをすりあわせることはできるだろう。
しかしだ。
どう考えても、数が多すぎる。
「それなら、神楽耶とかミレイさん達も呼ぼうよ。一人五点ずつ選んで、その中で決めるとかすれば、早いんじゃないかな?」
こうなれば、と思いながらスザクは苦笑を浮かべた。
「そうだな……あの二人なら、後であれこれ言ってくる。その前に巻き込んだ方が得策か」
しかし、逆に収拾がつかなくなる可能性もある。ルルーシュは考え込むような表情でそう呟く。
「それでも、これを少しでも減らせるならマシじゃん」
まず三等分して、それぞれが自分の好みを選ぶ。その中にルルーシュがいいというのがなければ、今度はそれ以外から選んでいけばいい。
なんだかんだ言って、一人、最大でも三回チェックすればいいのだし、とスザクは言う。
「それでもだめなら、後はルルーシュにがんばってもらうことになるけど……それでも三百枚近くは減るよ?」
もっとも、焼け石に水かもしれないが。デザイン画の山に視線を向けながらスザクは言う。
「そうだな……三百枚だと半分は減るな」
これ以上増えなければ、の話だが。ルルーシュも弱々しく微笑みながらそう言った。
「クロヴィス殿下、張り切りすぎ」
ルルーシュがかわいいのはわかるけど、とスザクは頬を引きつらせながら呟く。
「……まぁ、姉妹の中で正式に結婚が決まったのが私だけ、と言うのもあるんだろうな」
上の二人がまだ嫁ぐ様子を見せないから、とルルーシュは続ける。
「ギネヴィア姉上はともかくコゥ姉上には相手がいたと、ユフィから聞いているのに」
いや、今もいるのだろうか。そう言いながらルルーシュは首をかしげる。
「まぁ、どちらにしろ、私たちの結婚には関係ないな」
すぐにそう結論を出す。
「そういうことにしておこうか」
スザクは苦笑とともにそう言い返した。
「と言うわけで、呼び出す?」
二人を、と続ける。
「そうだな」
逆効果にならなければいいが。そう言いながらも、ルルーシュは脇に置いていた携帯に手を伸ばす。スザクもまた、ポケットから携帯を取りだした。
その2
案の定、と言うべきか。スザク以外の二人は自分に割り振られたデザイン画を山に悩みまくっている。と言うよりも、見とれて作業にならない、と言った方がいいのだろうか。
「ルルーシュ様でしたら、どれでも着こなせると思うのですが……」
感心したように神楽耶がこう告げる、
「そう言うところはさすがよね、クロヴィス殿下」
もっとも、と続けたのは当然、ミレイだ。
「あまり、肌を露出するようなのはパスよね。ブリタニアならいいけれど、日本だといやがられるわ」
肩を出すのはいいが、と彼女は続ける。
「そうですわね。背中を露出するなら、胸元はしっかりと隠した方がいいかと」
神楽耶はそう続けた。
「そのあたりは難しいところよね」
やはり、とミレイは言う。
実は、スザクには彼女たちの会話の半分も理解できていない。
「……ルルーシュなら振り袖も似合いそうだけどね」
ぱらぱらとデザイン画をめくりながら、ついつい、こんなセリフを呟いてしまう。
「私に似合うか?」
髪の色はともかく、顔立ちは思い切りブリタニア人だぞ? とルルーシュは問いかけてくる。
「それこそ、色と柄次第じゃないかな。背が高いから、大柄でもいいし」
「そうですわね。お色は濃いめで……花嫁なら黒ですわね」
模様は牡丹か。あるいはいっそ、蘭のような洋花でもいいかもしれない。
「まだお時間がありますから、布から仕立てさせてもいいかもしれませんわ」
模様は友禅と刺繍だろうか。神楽耶にしてみればドレスよりも和服の方が慣れ親しんでいるからだろう。立て板に水とばかりに口にする。
「でも、着る機会があるかどうかだよ」
そんな彼女を落ち着かせようとスザクはそう言う。
「クロヴィス殿下デザインのドレスは絶対に着ないといけないんだし」
そちらを先に決めてからでもいいのではないか。スザクはそう言う。
「もちろん、それも選びますわ」
にっこりと微笑みながら神楽耶は口にする。
「でも、やはり日本に嫁いでいただくのですもの。和服もお召しになっていただきたいですわ」
それに、と彼女は続けた。
「機会はちゃんとありましてよ」
「そうだっけ?」
式はドレスだし、とスザクは首をかしげる。その後も、着替えている暇はないだろう。
「いやですわ、お従兄様。神社への参拝がありましてよ?」
忘れていたのか、と神楽耶は言ってくる。
「あぁ、そんなのもあったっけ」
昔、両親の結婚式の写真を見たことはあるが、ゲンブは神社でへの参拝を重要視していなかったから、忘れていた。スザクはそう続ける。
「ゲンブ様らしいですね。まぁ、いいですわ。それに関しては、わたくしの方で手配させていただきます」
ふふふふふ、と彼女は小さな笑いを漏らす。
「皇の総力を挙げさせていただきますわ」
ひょっとして、まずい話を振ってしまったのだろうか。。
「ごめん、ルルーシュ」
スザクは素直に謝罪の言葉を口にする。
「気にするな。それは神楽耶様にお任せすればいいだろうし……ブリタニア側だけを優先するいわれはないからな」
しかし、ドレスか。彼女はため息ととも呟く。
「大丈夫よ、ルルちゃん。ちゃんと似合うのを選んでみせるわ!」
ミレイがそう言ってガッツポーズをしてみせる。
「お願いします」
それに、ルルーシュだけではなくスザクもこう言って頭を下げて見せた。
その3
三日後、ようやく三つまで絞ることができた。
問題は、ここから先だ。
「後はルルーシュが選んでよ」
スザクはそう言って彼女にデザイン画を押しつける。
「これ以上は僕らじゃ無理」
「わかっている」
スザクの言葉に、ルルーシュは小さくうなずいて見せた。
「ここまで絞り込んでくれただけで十分だ」
彼女はそう言って微笑む。
「本当、どれも力作過ぎて大変だったわ」
ミレイが苦笑とともにそう言う。
「本当に。でも、そのおかげでルルーシュ様がどれをお選びになっても納得できますわ」
神楽耶がうなずいてみせる。
「お前なら、もっとあれこれ手を出すかと思ったんだけど」
予想以上におとなしかった彼女に、スザクはついついこう言ってしまった。
「和服の方を任せていただきましたから。白無垢と打ち掛けも作らせていただきたいところですが……」
「白無垢は母さんのがあるから」
たぶん、ルルーシュでも何とかなると思うが。心の中で付け加えながらスザクは言い返す。
「わかっております。でも、洗い張りと身丈直しはさせてくださいませ」
ルルーシュの方が少しだけ背丈が高いから、と神楽耶は言う。
「任せるよ」
そのあたりは、神楽耶の方が詳しいから。スザクはそうそうに白旗を揚げる。
「かまわないよね、ルルーシュ」
勝手に話を進めていたが、と思いながら問いかけた。
「もちろんだが……いいのか? 母君の形見を」
すぐにルルーシュは聞き返してくる。
「ルルーシュだからかまわないよ」
きっと、母も喜んでくれるのではないか。そう言ってスザクは笑った。
「……何か、暑くない?」
いきなりミレイがこんなセリフを口にする。
「まぁ、仕方がありませんわ。気分は新婚でしょうし」
暑苦しいのは仲がよい証拠ではないか。神楽耶がそう言って笑う。
「それはそうなんだけど、独り身には辛いわ」
それはイヤミなのだろうか。
「何を言っている。お前にも婚約者がいるだろう?」
ルルーシュがあきれたように口にする。
「親同士が決めた相手だもの。ルルちゃんとスザク君みたいにラブラブにはなれないわ」
相手は有名な変人だし、とミレイはため息をつく。
「その代わりに、結構自由にしていられると思うぞ、ロイド相手なら。必要なら、あいつの弱みを教えてやるし」
手綱さえ握ってしまえばミレイの勝ちだ、とルルーシュは笑う。
「あぁ。それならルルちゃん達のところに入り浸っても文句は言われないわね」
いや、それはやめてください。スザクは本気でそう言いたい。
「ミレイ……冗談はやめてくれ」
そんな彼の代わりにルルーシュがこう言ってくれる。
「本気ですわよ。大丈夫、夜には帰りますから」
「そう言う問題じゃないです!」
スザクは反射的にそう叫ぶ。
「冗談に決まっているでしょう?」
次の瞬間、ミレイはそう言って笑う。
「……冗談に聞こえないから」
「いや、本気だったな」
二人は即座に同じような意味の言葉を口にする。
「ひど〜い!」
ミレイが口元に手を当てながらこう言った。
「今までのことを思い出せば結論は一つしかないだろう?」
否定できるならして見ろ、とルルーシュは言い返す。
「本当にルルちゃんはいじめっ子なんだから」*
全く、とミレイは頬を膨らませる。
「……これは、本気で邪魔をされるな」
スザクはこっそりとため息をついた。
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