結婚準備
その1
ドレス以外にも決めなければいけないことは多い。だが、ゲンブは早々に逃げ出してくれた。
「全く……一人息子のことだろうに。困った男じゃ」
おかげで話がさくさくと進むが、と桐原が笑う。
「式はブリタニアで、と言うことらしいが?」
「でないと、陛下をはじめとする皇族方が全員参列できないから、だそうですよ」
それは妥協するしかないのではないか。
「代わりに、日本では枢木神社への参拝を式代わりにする予定です」
こちらは神楽耶が何か画策しているらしいが、とスザクは苦笑を浮かべる。
「そうらしいの」
自分も相談を受けてはいる、と桐原は言い返してきた。
「しかし、なかなかの規模になりそうじゃの。招待客が」
「はぁ?」
何か、聞いてはいけないセリフを耳にしたような気がするが。そう思いながら、スザクは聞き返す。
「考えてみれば当然であろうよ。現首相の息子であり、皇の係累のお主とブリタニアの皇女の婚姻だからなぁ」
六家の人間はもちろん、政財界の者達はこぞって参加したがる。それに、ブリタニアの方々を加えれば、最低でも三百人はくだらないだろう。しかも、誰一人として外すことができない人間だ。何故そう言われるのかは、スザクにもわかる。
「せめて、マスコミは最低限にしてください。できれば、インタビューもなしの方向で」
自分達は、あくまでも一般人として生きていくつもりだ。下手に顔を出してしまっては、それもできなくなる。
「そうじゃな。SPに囲まれて生活するわけにはいかんだろうからの」
確かに、それでは暮らしにくいだろう。桐原も納得してくれる。
「わかった。それに関してはこちらで何とかしよう」
任せておけ、と言われて、とりあえず胸をなで下ろす。
「後は、ゲンブの尻を叩くだけだな」
それが一番難しいような気がする、とスザクは思う。
「まぁ、今はすぐに処理しなければならない案件はないがな。今後どうなるかわからん」
面倒くさいが、と桐原はため息をつく。
「だからと言って、父親が出ぬのも問題だろう」
結納その他に、と彼は続けた。
「それなんですけど……ブリタニアには結納というシステムはないそうなので」
マリアンヌとナナリーに記念品を贈るぐらいではないか。
「問題は、何を贈ればいいのかですけどね」
「それについては、儂の方でも何か用意をしよう。任せておくがよい」
「それなら、マリアンヌさんには日本刀の業物を……うちにあるのよりいいのを入手できますよね?」
何か、ものすごく気に入ったみたいだったから。苦笑とともにスザクは付け加える。
「いっそ、鎧もつけた方がいいのかな。大鎧なら喜ばれそうな気がする」
女性らしい宝飾品よりも武器の方が好きらしいとルルーシュが言っていた。そう締めくくる。
「なるほど。噂通り豪快なお方らしいの」
それに関しては探しておこう、と桐原はうなずく。
「後の女性陣には、着物地でも贈ればいいかな、と。何に仕立てるかはあちらの好みで、と言うことで」
ドレスにするならそれでもいいだろうし、とスザクは言う。
「お主も少しは女性の気持ちをわかってきたようだな。よかろう。ドレスにしても良さそうな友禅を手配しておく。ゲンブにもそう言っておこう」
後はお膳についてか、と彼は付け加える。
「それについては、ルルーシュと食べ歩こうかなと思うので、使ってもいいお店を教えてください」
状況によっては神楽耶達も巻き込むべきだろうか。そう考えながらスザクは言った。
その2
同じ頃、ルルーシュは新居についてあれこれと悩んでいた。
「普段は二人だけでいいとして……やはり、あちらから誰か来たときの事も考えておかないといけないか」
面倒くさい、と本気で彼女は呟く。それを聞いていたミレイが小さな笑いを漏らす。
「仕方がないわよ。絶対に皆様、押しかけてくるでしょうし」
自分だって、許可が出るならお泊まりしたい、ミレイはしっかりとそう言ってくれる。
「いっそのこと、マンションでも建っててしまえば?」
自分達で、と彼女は続けた。
「……それはそれで問題があるな」
きっと、手を出したくてうずうずしている人がいる。そして、その人に任せればとんでもないことになるはずだ。
「そのくらいなら、一軒家を購入した方がマシだ」
それはそれで面倒だが、とルルーシュはため息をつく。
「もっとも、そうなれば都内には建てられないだろうがな」
いっそ、それも楽でいいかもしれない。そんな事すら考えてしまう。都内から離れれば、厄介事を持ち込まれたあげく大使館に足を運ぶ機会は減るのではないか。
そう考えてすぐにその考えを却下する。近くにヘリを着陸させる場所さえあれば連中は強引に迎えに来るに決まっていると思いついたのだ。
「やはり、マンションが無難か」
いろいろと考えれば、とルルーシュは呟く。
「ワンフロア、入手してしまえばいいだけだしな」
結局は、と付け加えた。
「あら、だめよ」
「ミレイ?」
何故か、とルルーシュは問いかける。
「上と下に変質者がいたら困るでしょう? 三フロアは確保しないと」
だから、どうしてそういう風に大がかりになるのか。
「ここはブリタニアではないからな。それに、そこまで高級なマンションであれば、事前の審査が厳重になる」
どのみち、皇か桐原が手を回すだろう。だから、そこまで大げさにしたくはない。
「でも、何があるかわからないでしょう?」
だが、ミレイはすぐに何か思いついたのか。にっこりと微笑む。
「うちで買っちゃえばいいのよね」
ロイドも協力してくれるだろうし、と彼女は続ける。
「ミレイ?」
「そうすれば、遊びに行き放題よ!」
「だから、どうしてそうなる!」
自分は静かな新婚生活を送りたいだけだ! と叫ぶ。
「無理よ」
しかし、ミレイはあっさりと彼女の言葉を否定してくれた。
「だって、ルルちゃんだもん」
スザクもスザクだし、と彼女は笑う。
「絶対、みんな押しかけるに決まっているわ。まぁ、ブリタニアにいるよりはマシだろうけど」
それだけが救いなのか。しかし、とだんだん不安になってくる。
「……今更ながら、鬱陶しい身内を持ってしまったな」
かといって、親は選べない。本当に厄介だ。そう呟くとルルーシュはため息をついた。
その3
「何か、結婚式の前から疲れているような気がする」
ルルーシュのところに報告に来たスザクは、思わず、こう呟いてしまう。
「否定しない」
ルルーシュもそう言ってうなずく。
実際、ちょっとしたことを決めようとするだけで、周囲からあれこれと口を出されるのだ。自分達の希望を通すのがこんなに大変だと、誰が考えるだろうか。
「そういえば、新居のことなんだけど」
ふっと思い出したというようにスザクは口を開く。
「桐原さんが管理していてくれた母さんの遺産の中に、ちょうど良さそうな物件があるんだって」
忘れていたけど、と付け加える。枢木の方の不動産についてはそれなりに把握していたが、皇関係は自分はノータッチだったから、と言い訳のように口にした。ひょっとしたら、桐原自身、忘れていたのかもしれない。
「そうなのか?」
「一軒家だけどね。都内だけど、それなりに広いらしいよ」
そう言いながら最後に渡された資料をルルーシュへと差し出す。それに彼女はすぐに目を通した。
「ずいぶんとすごい立地条件だな」
住所を見て彼女はそう言う。
「そうだよね」
近所に皇の東京での本邸があるのはまだいい。何よりも目を引くのは、警察署と軍の本部がまるで盾になるかのように立っているのだ。
「しかも、ブリタニア軍の駐屯地も近い、と」
これはあまり嬉しくはないかもしれない。ルルーシュがそう呟いている。何かあれば、誰かが押しかけてくる可能性が高くなるではないか、と彼女は続けた。
「これなら『お泊まりは駐屯地で』と言えるじゃない」
誰が来ても、とスザクは笑う。
「ここよりも駐屯地の方が安全だし……でなければ、騎士の方だけでとかね」
ともかく大勢で押しかけてくるのは止められるような気がする。
「そう言う考えもあるのか」
ルルーシュは感心したようにそう呟く。
「問題は無駄に広いことだけど……」
「……いや、このくらい広い方がいいだろう。そういうことならば」
家の見取り図を確認すれば、建物の中央を区切りに左右に分けることができる。どちらか片方を自分達専用にしてもう片方を来客用にしてしまえばいい。そうすれば、普段の掃除は半分だけで済む。そう言ってルルーシュは笑った。
「そう言う使い方をしていたみたいだけどね」
じゃ、決めちゃう? とスザクは問いかける。
「そうだな。そうするか」
と言うよりも、さっさと決めてしまいたい。ルルーシュはそう続ける。
「……どうかしたの?」
何かあったのか、とスザクは問いかけた。
「ミレイが近所に引っ越してきたいと騒いでいるだけだ」
マンションの下の階に、とかな。そう言って苦笑を浮かべる。
「あいつが来るとなれば、当然、他のメンバーもあれこれと画策してくれるに決まっている」
かといって、一軒家を建てるとなれば、それはそれで問題だろう。しかし、スザクの持ち家となれば、誰も強引に手出しをできないのではないか。彼女はそう続ける。
「じゃ、水回りとセキュリティにだけは手を入れて……それでいいことにしようか」
実物を見てから、そのあたりのことは改めて相談しかな。スザクはそう言って笑う。
「後は、就職だね」
まぁ、何とかなるだろうが。しかし、これこそ横やりが入りそうで怖い。
「お前なら心配いらないと思うがな」
変なところには捕まるな。そうルルーシュは言う。
その言葉を耳にした瞬間、変=ブリタニアと変換されてしまったのは何故だろう。
「十中八九、皇関係で決まりだろうけど」
神楽耶が張り切っている。自分にふさわしいと思われる仕事がなければ作りそうな勢いなのだ。そして、桐原も止めないだろう。
でも、警察官とか消防士もいいな。そんなことをのんびりと考えているスザクだった。
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