結婚物語

12



急転直下?

その<1

 なんだかんだと言って、プロポーズから一年経った。
 もうじきスザクの二十一回目の誕生日、と言うある日のことである。
「……悪いけど、もう一回言ってくれる?」
 自分の聞き間違いだろうか。そう思いながらスザクは問いかけた。
「だから、結婚式を一年早めろって言う話だ」
 自分も寝耳に水だった、とルルーシュは頭を抱えている。
「ブリタニア側だけでいいそうだ」
 日本側は最初の予定通りでいいらしい。彼女は額をテーブルに着けるとそう言う。
「理由は?」
 何か理由があるのではないか。そう思いながらスザクは問いかけた。
「……オデュッセウス兄上のところとクロヴィス兄さんのところに赤ちゃんが生まれたそうだ」
「結婚されてたっけ?」
 そんな話は聞いていないが、と思いながらスザクは聞き返す。それとも、自分が知らない間に式を挙げたのだろうか。だが、ルルーシュがブリタニアに戻ったのは、自分達の結婚を許してもらいに行ったあのときだけだったし、と首をひねる。
「愛妾の子供、と言うことになるのかな? 二人とも、正式な結婚はしていない。クロヴィス兄さんの場合は相手が体の弱い女性だったという理由だそうだが」
 相思相愛の相手でも、高位の継承権を持った皇子の妻にはふさわしくない。そういうことらしい。
「……だから、余計に私のドレスにこだわったのかもしれないが」
 自分達は着られないかもしれないから、と言うことだろうか。もっとも、とルルーシュは続ける。さっさと誰かが皇位に付いてしまえば逆にそのような奥方を持っている方があれこれ疑われずにいいのかもしれない。
「オデュッセウス兄上は……まぁ、そういうことだ」
 彼の場合、第一皇子だから《后》の座は開けておいた方がいろいろと都合がいいのだろう。シュナイゼルも同じ理由で独身なのではないか。
 いや、そう思いたい。彼女は小声でそう呟く。
「それで、母さんが暴走したらしい」
 彼女の勢いにシャルルが押し切られたのだろう。ルルーシュは蚊の鳴くような声でそう付け加えた。
「まだ若いんだから、自分で産めばいいのに」
 四十前だぞ、と言われてもどう反応すればいいのか。スザクは判断に悩む。
「それはいいけど……あっちだけというわけにいかないよね?」
 いろいろな問題が起きてくるに決まっている。一番厄介なのは同居関係だろうか。
「仕方がない。神楽耶に相談してみるよ」
 お互いの妥協点を見いだすしかないのではないか。
「そうだな。神楽耶様には相談しておかなければなるまい」
 ついでにもう一人にも、とルルーシュはため息をつく。
「もっとも、彼女の場合、別ルートから連絡が行っている可能性が高いがな」
 自分達が逃げ出さないように、とルルーシュはスザクが予想もしていないセリフを口にしてくれる。
「逃げ出す?」
 何で、と思わずスザクは呟く。
「面倒くさいとか言い出しかねない。そう考えているんだろう」
 厄介だかな、と言われれば納得できる。
「でも、ミレイさんが来た方が厄介だと思うけどね」
「確かに」
 スザクの言葉にルルーシュも苦笑を浮かべて見せた。
 しかし、だからと言って状況が変わるわけもない。次の瞬間、顔を見合わせると二人は盛大にため息をついてしまった。


その2

 スザクからの連絡を受けた神楽耶は即座に手のものをブリタニアに派遣したらしい。
「どれだけすりあわせができるかはわかりませんが、話し合いは必要でしょう?」
 神楽耶はそう言って微笑む。
「それと、着物の方も急がせることにしました」
 染めの方はだいたい終わっていた。だから、何とかなるだろう。彼女はそう続ける。
「問題は帯ですが……」
「間に合わないようなら、母さんの帯を使えばいい」
 スザクはそう言った。
「確か、新しいものともらったものと古いものを身につける習慣があったよね?」
 着物はもらったものだし、その下に着ける肌着は自分で用意したことにすれば、新しいものだ。そして、母の形見の帯ならばものはいいはず。それで古いものが何とかなるだろう。
「確かにそうですわね。おばさまが結婚されるときに作られたものならば、十分なはずです」
 神楽耶もそう言ってうなずく。
「ともかく、こちらとしてはせめて冬ぐらいまでは伸ばしたいところです」
 そうすれば他のことも準備できる。神楽耶の言葉にスザクは少し考え込む。
「なら、ルルーシュの誕生日以降、と言えば?」
 そうすれば十二月だから、もう少し後に伸ばせるかもしれない。スザクはそう言う。
「そうだな。その後にあのロールケーキの誕生日もあるし、信念行事も待っている。うまく行けば、来年のバレンタインまで延ばせるぞ」
 ルルーシュも即座に口を開く。
「もっとも、兄上に丸め込まれなければ、だがな」
 シュナイゼルの口車に乗せられてしまえば、あちらのペースで話が進んでしまう。それはマリアンヌに都合がいい日程だであって、こちらに都合がいいとは限らない。
「でも、シュナイゼルさんって、ものすごく交渉ごとが得意じゃなかった?」
 丸め込まれない人間がいるのか、とスザクは言う。
「ともかく、できれば試験の時期は外して欲しいよね」
 卒業と就職にかかわってくるから、と付け加える。
「単位はほとんど取り終わっているだろう?」
 ルルーシュがそう問いかけてきた。
「教職も取っているんだよ。そっち関係がまだ残っている」
 実際には使わないだろうが、持っていた方が有利だから。スザクはそう口にする。
「まぁ、そうですわね。お従兄様の場合、コーチとして招かれる可能性がありますし」
 教えられるかどうかは別問題にして、と神楽耶は言う。
「一言多い」
 ため息混じりにそう言い返す。
「とりあえず、秋ぐらいにドレスの仮縫いをすることは避けられないだろうな」
 クロヴィス本人が来るとは思えないが、それでも誰かが来るだろう。ルルーシュはそう言う。
「……そう言えば、僕のタキシードってどうなってるんだろうね」
 自分で用意するものなの? と問いかけるスザクに二人が冷たい視線を向けてくる。
 だが、聞いておいて正解、とスザクはすぐに思うことになった。


その3

「やはり、ブリタニアと日本では常識が違いますのね」
 それとも、結婚式に対する認識が違うのか。神楽耶はそう呟く。
「どちらにしろ、今ここでわかってよかったですわ」
 即座に仕立てさせましょう、と彼女は続ける。
「男物のデザインなんて、基本は一つしかありませんもの」
 だからと彼女は手を握りしめた。
「最高のものを仕立てさせましょう」
 仕立ての良さが身につけたときの善し悪しを決める以上、と言い切る。
「こうなれば、皇の意地ですわ」
 最高の素材で最高のものを仕立てさせましょう、と彼女は宣言した。
「神楽耶……」
「別に張り合わなくても」
 ルルーシュも気圧されたようにこう告げる。
「いいえ。そう言うわけにはいきません。いくら結婚式で花婿は花嫁の添え物であろうと、やはりものがよくなければいけませんもの」
 花婿の立ち振る舞いも花嫁を引き立てるものだ。神楽耶はそう言いきる。
「そこまで言わなくても」
 確かに、結婚式で主役なのは花嫁だろうが、とスザクは呟く。
「それに、スザクの所作は兄上達もほめていましたから、十分ですよ」
 ルルーシュもフォローするようにこう言った。
「だからこそです。ならばさらによいものにするのが当然でしょう?」
 何よりも、見た目が楽しい。神楽耶がそう言って笑う。
「どうせなら、楽しんだ方が勝ちですし。そのための努力なら惜しみませんわ」
 自分自身の楽しみのためだし、何よりもルルーシュの名誉のために。そう彼女は付け加える。
「最終的には皇の名誉のためですもの」
 スザクと結婚をすれば、ルルーシュも皇の一員になるのだから。神楽耶はそう言うが、その理屈は何なのだろうか。
「ルルーシュは僕のお嫁さんなんだからね」
 とりあえず、と言うようにスザクは口にする。
「あら。少しぐらいかしてくれてもいいではありませんか」
 即座に神楽耶はこう言い返してきた。
「別に寝取ろうとは考えておりませんわ。一緒にご飯を食べに行ったり、お買い物に行ったり、観劇をしたりするぐらいはかまわないでしょう?」
 さらりととんでもない言葉が入っていたような気がするのは錯覚だろうか。
「神楽耶……」
 とりあえず落ち着け、と言外に付け加える。
「お従兄様の嫁はわたくしの姉も当然ですもの」
 だから、と彼女は胸を張る。
「スザク」
 困惑を隠せないという声音でルルーシュが呼びかけてきた。
「これは正しい日本語の使い方なのか?」
 自分が使ってきた辞書にはないのだが、と彼女は問いかけてくる。
「めいっぱい間違っているから」
 即座にスザクは言い返した。
「完全に舞い上がっているよね、本当に」
 どうすればいいのか、とスザクは付け加える。しかし、その声も聞こえないのだろう。神楽耶はあれこれと自分の希望だけを口にしていた。


その4

 とりあえず、式はバレンタインと決まった。
「何とかがんばってくれたみたいだね」
 苦笑とともにスザクはそう言う。
「そうだな」
 ルルーシュもうなずく。
「あのロールケーキのことだ。自分の誕生日に結婚式をと言い出しかねなかったからな」
 その言葉にスザクも苦笑を浮かべるしかない。
「そうしたら、私たちの結婚記念日はあいつの誕生日だぞ」
 とんでもない、とルルーシュは言い切る。
「私たちが結婚記念日を祝おうとすれば、あいつが乗り込んできて自分の誕生日も祝え、と言うに決まっている!」
 そんなことしてたまるか、と彼女は続けた。
「とりあえず、それはマリアンヌさんに任せておけばいいんじゃないかな?」
 無難なところで、とスザクは笑う。
「まぁ、そうだな」
 特に今年は、とルルーシュは付け加える。
「式までに衣装も間に合うそうだし……こっちから行くのは父さんと神楽耶達六家ぐらいだから、心配はいらないかな?」
 護衛は付くだろうが、とスザクは指折りながら同行者を数えた。
「他のメンバーはこっちでの式の時に参加してもらえばいいし」
 だから、こちらからは最小限のメンバーでいいだろう。下手に大勢連れて行っても騒動の元だろうし、と続ける。
「もっとも、父さんは完全に逃げ腰だけどね」
 結婚式の準備からして、皇に丸投げしていたところからもわかるが、と苦笑を浮かべながら口にした。
「それでも、参列してくれるだけマシだろう?」
「意地でも神楽耶が連れてくるって」
 ゲンブも、何故か神楽耶にだけは勝てないらしい。そう言いながらスザクは苦笑を深める。
「こちらからは、親しくしている皇族と、貴族達だな」
 それでもかなりの人数になるが、とルルーシュはため息をつく。
「まぁ、仕方がない」
「そうだね」
 ここまで来れば、当事者は蚊帳の外になる。後は周囲のメンツと思惑に任せるしかない。
「とりあえず、身内に配る引き菓子ぐらいは考えておこうか」
「そうだな」
 だからと言って、何もしないのも落ち着かないものだ。
「こうなるなら、レポートでもあればよかった」
 そうすれば気分転換になったかもしれない。
「否定できないな」
 ルルーシュもため息をつく。
「とりあえず、食事にするか?」
 そのまま彼女はこう問いかけてきた。
「そうだね。ご飯を食べれば、また別の考えも浮かぶかな?」
 浮かばないような気もするが、とスザクは心の中で呟く。
「何か手伝う?」
 腰を浮かせたルルーシュに向かってそう問いかける。
「そうだな。カラトリーを出してくれ」
「了解」
 ルルーシュの言葉を聞くと同時にスザクも腰を上げた。






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