結婚物語

13



ルルーシュの憂鬱?


 久々のブリタニアは、どこか微妙な空気に包まれている。
「……まだごねているのか、あのロールケーキは」
 ルルーシュは反射的にそう呟いてしまう。
「全く、男らしくない。私の結婚を認めたのは自分だろうが」
 それなのに、未だにぐちぐちと言っているのか、とため息をついた。
 まるでそれを合図にしたかのようにノックの音が響く。
「お姉様、ナナリーです。よろしいでしょうか?」
 その後にかわいい妹の声が続いた。
「開いているよ、ナナリー」
 入っておいで、と言外に告げる。そうすれば、ナイトドレスに着替えた上に自分の枕を抱えた彼女は姿を見せる。
「お姉様のお式まで、一緒に眠ってもよろしいでしょうか」
 そう問いかけられて、ルルーシュは微笑んだ。
「もちろんだよ、ナナリー。おいで」
 この言葉にナナリーはまっすぐに駆け寄ってくる。そのまま、ルルーシュの隣に腰を下ろした。
「それにしてもどうしたんだ?」
「だって、もうじきこんな風に夜に押しかけることができなくなりますもの」
 ルルーシュの問いかけにナナリーはこう言ってくる。
「ですから、今のうちに甘えておこうと考えたんです」
 いけなかっただろうか。そう続けられた。
「別に結婚してから甘えてくれてもいいんだが……でも、そういうことなら好きなだけ甘えればいい」
 言葉とともにルルーシュは微笑む。
「はい、お姉様」
 そうすれば嬉しそうにナナリーが抱きついてきた。

 翌日にはユーフェミアも乱入して来ることになる。それも『今だけだから』と妥協することにしたルルーシュだった。



式前夜


その1

 早く寝なければいけないというのに、何故か目がさえてしまう。
「なれない枕だから、じゃないよな」
 スザクは小さなため息とともにそう呟く。
「緊張かな、やっぱり」
 さすがの自分も、こういうときには緊張するのか。そう思わずにいられない。
「一杯、引っかけておくべきだったか」
 寝酒を、と付け加える。
「本当なら、父さんがそういうことに気を遣ってくれるもんだろうに、さ」
 しかし、彼は彼で何か思惑があるのか、一人で動き回っている。かといって、桐原にそこまで求めるのは難しいだろう。と言うよりも、さすがは老人、と言うべきか。早々に眠りについているらしい。
「ともかく、水割りか何かもらえないか聞いてみよう」
 そのくらいならばかまわないだろう。そう判断をして、ベッドから抜け出す。
 そのときだ。
「あら。起きていたのね」
 不意にベランダから声が響いてくる。それが誰のものか、確認しなくてもわかってしまった。
「マリアンヌさん……あのですね」
「心配しなくてもいいわよ。ロロも連れて来たから、ルルーシュも文句は言えないわ」
 そう言う問題ではないのではないか。
「花嫁の母が夜更かしでいいのですか?」
 とりあえずこう問いかけてみる。
「大丈夫よ。一杯ぐらいなら」
 そう言いながら、彼女はどこからともなくワインとグラスを取り出す。
「眠れないなら、つきあいなさい」
 そう言って彼女はグラスのうちの一つをスザクに差し出して来る。
「はぁ……」
 そう言われてもどうしたものか。そんなことを考えながら視線をロロへと向ける。そうすれば、視線の先で彼はマリアンヌの言葉に従って欲しいと身振りで告げてきた。
「いいですけど……こういうことは、普通、ルルーシュとやるものじゃ……」
「あの子はナナリー達に取られちゃったのよね」
 今頃、最後だからと言って同じベッドで過ごしているはずだ。マリアンヌはそうって苦笑を浮かべる。
「そうですか」
 おそらく、それはナナリーとユーフェミアではないか。彼女たちならば仕方がない。心の中でそう呟きながらスザクはマリアンヌの手からグラスを受け取る。
「これは、あの子が生まれた年のワインなの」
 スザクが生まれた年でもあるわね、と笑いながら彼女はグラスの中になみなみとワインを注いでくる。
「正確に言えばその中の一本なんだけどね。シャルルが張り切って集めさせたから」
 その中から適当に持ってきたの、と彼女は笑う。
「やっぱり、こういうのはね。記念だから」
 娘ではなくその結婚相手というのもいい機会よね、とマリアンヌは付け加えた。
「それは、すみません」
 自分が相手で、とスザクは謝ってしまう。
「あら。謝ることはないわよ。楽しいもの」
 だから乾杯、とマリアンヌは口にする。そのまま差し出された彼女のグラスに、スザクも自分のそれをぶつける。
 周囲に涼しげな音が響き渡った。


その2

 一杯だけ、と言う話だったのに、すでにワインのボトルが二本目、と言うのはなんなのだろうか。しかも、そのほとんどをマリアンヌが空けている。
「しかし、あの子が結婚する日が来るなんて、思ってもいなかったわ」
 しかも、恋愛結婚で。マリアンヌはそう言って笑う。
「そうですか?」
 自然と背筋が伸びてしまうのはどうしてだろう。そう思いながら、スザクは彼女の話に耳を傾けている。
「そうよ。だって、国内でそう言う話が出たら、シャルルが全部つぶすもの」
 婚約話もあったんだけどねぇ、とマリアンヌは笑い声とともに口にした。
「何よりも、あのことつきあえる相手がいると思わなかったわ。周りの男達がそれなりにレベルが高かったから」
 性格と運動神経はともかく顔だけは、と付け加える。それにどんな反応を返せばいいのか。そう思いながらロロの顔を見つめてしまう。
「仕方がありません。殿下方はルルーシュ様と同じでそちらに関しては陛下に似られたようです」
 さすがは幼い頃からルルーシュ達と一緒にいると言うだけのことはある。ロロは即座にこう言った。
「まぁ、ね。そのくらいはあの人に似ないと、大変だわ」
 外見の遺伝子はほとんど出なかったから、とマリアンヌは言う。
「今から考えれば、あの子は国外に出て正解だったわね」
 スザクを捕まえてきたのだから、と彼女は付け加えた。
「あはははは、そうですか?」
 彼女の言葉に、笑う以外何ができるというのか。
「そうよ。本気でしごいても大丈夫な子は滅多にいないもの」
 それはほめられているというのだろうか、と悩む。
「だからね。最低でも、年に一度はブリタニアに来てね?」
 そうでなければ自分だけではなくシャルル達も日本に押しかけていくことになるぞ、と言うのは脅迫なのだろうか。
「時間が許す限り、そうしたいとは考えていますが……就職先がどうなるかわかりませんから」
 まだ、とスザクはとりあえず言い返す。
「あぁ、そうね。何なら、ブリタニアの軍人になる?」
「さすがに、それはまずいです。何よりもルルーシュがいやがりますよ」
「やっぱり?」
 スザクの言葉にマリアンヌは苦笑を浮かべる。
「シャルルの影響下はさすがにまずいか」
 何をしでかしてくれるかわからないものね、と彼女はうなずいて見せた。
 いったい何をされる予定だったのだろう。マリアンヌの言葉にそんな不安を抱く。
「まぁ、いいわ。これ以上、ここにいたら本当にルルーシュに怒られるもの」
 言葉とともに彼女はグラスを置いた。即座にそれをロロが片付けていく。
「じゃ、明日。またね」
 そんな彼を尻目にマリアンヌは立ち上がる。
「寝坊しないでね?」
 そう言うと、またベランダへと歩いて行く。その足取りは少しも乱れていない。
「では、これで失礼をします」
 完璧に片付けを終えるとロロもまた、しっかりとした足取りでマリアンヌの後を追った。そのまま、二人の姿は夜の闇の中へと消えていく。
「……ここって、三階だったよね?」
 今更ながらこう呟いた。
「まぁ、マリアンヌさんだからいいのか」
 彼女とロロならば、そのくらい何でもないのかもしれない。そう呟きながら、スザクはのろのろと立ち上がった。
「そんなに飲んだ覚えはないんだけどな」
 だが、間違いなく酔っている。しかし、二日酔いになるほどではない。一晩寝れば抜ける程度だ。
 そんなことを考えながらベッドへと戻る。
 布団の間に潜り込み目を閉じた瞬間、睡魔が襲ってきた。それに逆らうことなく、スザクは眠りの中へと滑り込む。
 明日はきっと、日付が変わるまでベッドに潜り込むことは無理だろうな。そんな予感が一瞬、彼の脳裏をよぎっていった。






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