結婚式
その1
空は抜けるように蒼い。
「この時期のブリタニアにしては珍しいことだな」
そう言ってきたのはジノだ。
「それはいいけど」
ため息とともにスザクは彼を振り向く。すでに純白のタキシードを身にまとっているために、うかつに腰をかけることもできない。
「何で君がここにいるわけ?」
ブリタニアの騎士であればルルーシュの方に言っているべきではないのか。言外にそう問いかける。
「君の友人代わりだよ」
ふっと微笑みながらジノは言い返してきた。
「こちらにはご親族しか来ていないだろう?」
「確かに、そうだけど」
しかし、と思わずにいられない。
「マリアンヌ様とシュナイゼル殿下のご許可はいただいてあるし……何よりも、私は君を友人だと思っているのだが」
一度でも剣を交えた相手だし、とジノは笑う。
「それは僕も同じだけど……」
彼のような騎士を『友人』と呼べるのは誇らしいとも考える。
「でも、いいわけ?」
自分と友だちになっても周囲からはあきれられるだけではないか。
「かまなわないね。私の身分は自分自身の実力で手にいてたものだし、他の誰にも何も言わせない」
その自信はさすがだ、と思う。
「それに、私が友人だといろいろとお得だぞ。少なくとも、利権に群がりたいような馬鹿は寄ってこない」
もっとも、その前にここに到着できないだろうが、と彼は続けた。
「そうなの?」
「あぁ。ここの警備はコーネリア殿下の子飼いの連中がしている。ダールトン将軍の養子達だ」
コーネリアとユーフェミアの名前で突っぱねているらしい。そう続ける。
「……何か、ものすごく迷惑をかけているような」
スザクは思わずこう言ってしまう。
「気にしなくていい。今日の主役だからな」
代わりに、日本に帰る前にまた一勝負してくれ」
稽古代わりに、とジノは言う。
「ルルーシュの許可が出たらね」
スザクは苦笑とともにそう言い返す。同時にノックの音が響いた。
「お従兄様?」
次に神楽耶の声が響く。
「どうぞ」
人前であれこれ文句を言われることはないだろう。そう判断をして、彼女を招き入れる。
「失礼しますわ」
言葉とともに絞りと刺繍をふんだんに使った振り袖を身にまとった彼女が室内に滑り込んできた。その手には小さなおにぎりがのったお皿がある。
「少し食べた方がよろしいかと思って、用意していただきましたわ」
それと、手順を確認しましょう。そう続ける彼女に、スザクは苦笑を浮かべる。
「ひょっとして、こちらの方がスザクの従妹姫なのか?」
ジノがそっと問いかけてきた。
「そう。皇神楽耶だよ。神楽耶、彼はナイト・オブ・スリーのジノ・ヴァインベルグ卿。この前から親しくしていただいている」
とりあえず、とスザクは口にする。
「お話は伺っておりましたわ。皇神楽耶です。これからもお従兄様をよろしくお願いします」
神楽耶は完璧な笑みと所作でそう挨拶をした。
「こちらこそ。お目にかかれて光栄です」
それに負けない完璧な仕草でジノは彼女の手を取ると指先にキスを贈る。
「そういえば、ルルーシュの方はどうなっているんだろうね」
そんな二人の様子を見ながら、スザクはこう呟いていた。
その2
ルルーシュの控え室はある意味、異様な雰囲気を醸し出していた。
「お姉様、きれいです!」
ナナリーがそう言って微笑んでいる。
「ルージュの色、もう少し赤い方がよかったかな?」
「このくらいでいいだろう。あまり赤いと下品になる」
その隣でクロヴィスとコーネリアがこんな会話を交わしていた。
「もう結婚することは反対しませんから、このままブリタニアに残りませんか、ルルーシュ」
ユーフェミアが彼女の手を取りながら懇願するように言ってくる。
「あれを何とかしてくれるならな」
それに対するルルーシュの答えがこれだった。彼女の視線の先には、マリアンヌにしっかりと行動を制限されているシャルルの姿がある。
「ごめんなさい、ルルーシュ……それだけは無理だわ」
ユーフェミアはあっさりと白旗を揚げる。
「いくらわたくしでも、あの状態のお父様を説得するのは不可能です。言え、そのようなことはできるのは、マリアンヌ様だけですわ」
後は、シュナイゼルだろうか。その二人とも、ルルーシュが結婚して日本に行くことを認めている。
「まったく……わたくし達のことなんて気になさらないのに、ルルーシュのこととなると理性を失われるなんて」
自分で許可を出したくせに、未だにぐだぐだと文句を言っているなんて、とユーフェミアは呟く。そんなシャルルに比べれば自分はまだかわいい方ではないか。そうも続けた。
「ひょっとしたら、結婚式の席で『認めない』と言い出しかねませんわね」
確かにその可能性は否定できない。
「大丈夫です」
黙って話を聞いていたナナリーが微笑みながら口を挟んでくる。
「あら、どうしてですの?」
何か秘策があるのか、とユーフェミアが問いかけた。
「そんなことをしたら、私とお母様はお姉様のところに行きます、と宣言してありますから」
それがいやなら、素直にルルーシュの結婚を認めろ。マリアンヌがそう言ったのだとか。
「そうすれば、たまにはお姉様が帰ってきてくださいますとも申し上げました」
ヴィ家の三人がいなくなるか、マリアンヌとナナリーは本国に残り、たまにルルーシュが帰ってきてくれるのを待つか。シャルルがどちらを選ぶか、答えは一つしかないだろう。
「……それって、脅迫と言いません?」
ユーフェミアがこう告げる。
「お父様が聞き分けが悪いからいけないのですわ」
にっこりと微笑みながらナナリーはそう言う。その笑みはマリアンヌそっくりだ。
「まぁ、あのロールケーキには一番効果的なセリフだな」
ルルーシュはそう言って微笑む。
「でも、お父様のその気持ちもよくわかりますわ」
ユーフェミアはそう言ってため息をつく。
「……スザクが用意してくれた新居は、ブリタニア軍の駐屯地の近くだぞ」
仕方がないとばかりに、ルルーシュはそう言う。
「こっそりと遊びに来るにはいい立地かもしれないな」
ただし、事前連絡は忘れるな。そう付け加える。
「あぁ、そうですわね。お姉様が戻ってこられないなら、私達が遊びに行けばいいのです」
「確かに」
こっそりとね、とユーフェミアもうなずいて見せた。
「そういうことなら、これ以上は反対しませんわ」
寂しいのは変わらないが、と彼女は続ける。
「それは私も同じだ。でも、いずれは離れなければいけないのだしな」
それが普通なのだろう。ルルーシュがそう言ったときである。
「ルルーシュゥ! 今からでもかまわん。結婚はやめると言えぇ!!」
シャルルの雄叫びが室内に響く。
「往生際が悪いわよ!」
一瞬遅れて、破裂音が耳に届いた。
「……式が十分ほど遅れると、スザク君達に伝えた方がいいかな?」
シュナイゼルのこの言葉に、ルルーシュ達は同時にため息をついた。
その3
白亜の宮殿の前に一筋の赤い道が通っていた。
その周囲にブリタニアと日本側の列席者が並んでいる。
普通であれば、この道を花嫁とその父が歩くのだろう。しかし、花嫁の父はブリタニアの皇帝だ。周囲を見下ろす場所で待っている。
「……頬が赤いような気がするのは、錯覚だよね」
それも手の形で、だ。
「……気にするな……」
隣にいたルルーシュがため息混じりに言葉を口にする。
「ルルーシュがそう言うなら」
シャルルよりもルルーシュの方が気になるし、とスザクは笑う。
「それにしても、すごいね、そのドレス」
よく似合っている、と彼はそのまま続けた。
「クロヴィス兄さんの意地が勝った、と言うところだろうな」
そう言ってルルーシュは微笑む。
「だが、お前がほめてくれたのが一番嬉しい」
「ルルーシュは何を来ても美人だけどね」
彼女の言葉に、照れ隠しのようにスザクは言う。
「でも、似合うドレスを着ていると、やっぱり皇女様だなって思うよ」
立ち振る舞いがきれいだから、とさらに付け加えれば、ルルーシュはうっすらと頬を染める。
「当然のことをほめられても、嬉しいとは思わなかった」
小さな声で、ルルーシュは言葉を口にした。
「なら、何度でも言わないとね」
気がついたときに、とスザクは笑う。
「別に口にしなくてもいいぞ。態度で示してくれれば」
ルルーシュもそう言って微笑んだ。
まるでそれを待っていたかのように侍従が二人を呼びに来る。
「ようやくか」
全く、とルルーシュは呟く。
「そう言わずに。花嫁の父なんていつまでも割り切れないものらしいし」
桐原にもそう言われたし、とスザクは苦笑を浮かべる。
「あと二時間ぐらいは待つのかな、と考えてたんだよね」
苦笑を深めるとそう付け加えた。
「そう言う考えもあるのか」
ルルーシュは感心したようにうなずく。
「もっとも、そんなことができるほどの度胸はあのロールケーキにはないがな」
「どういうこと?」
ルルーシュの言葉にスザクはそう問いかける。
「後で教えてやる」
こう言うとルルーシュは意味ありげに微笑む。
「それよりも今は結婚を認めるという言葉をあのロールケーキに言わせないとな」
言葉とともに彼女は手をさしのべてきた。その手をスザクは取る。
「じゃ、行こうか」
「あぁ」
二人は顔を見合わせて微笑む。そのまま、深紅の絨毯の上を歩き始めた。
「儂、ブリタニア第九十八代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは、わが娘、第三皇女ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと枢木スザクの婚姻を認める。末永く、両国の友好に尽くすように」
12.12.03拍手より移動