04:一応の報告
「というわけで、結婚します」
こう父に向かって報告したのは明日から新学期という日だ。
「スザク?」
「相手は父さんも知っているでしょう? ルルーシュです」
彼女の母親の許可はいただきました、とさらに言葉を重ねる。
「だが、お前には神楽耶様が……」
慌てたように彼はこう言い返してきた。
「ちなみに、断ればブリタニアと戦争になるかもしれませんから」
満面の笑みと共にスザクはこう付け加える。
「なっ!」
「ルルーシュのお母さんって、ブリタニア第五皇妃だそうです」
その言葉の意味がわからない父ではないはずだ。
しかし、内容が内容だっただけに、すぐには飲み込めなかったらしい。ぶつぶつと呟きながら人間関係を整理していたようだ。
「……ブリタニアの……皇女、だと?」
ようやく状況を理解できたのだろう。彼はこう言ってくる。
「第三皇女、だそうですよ。もっとも、本人は『皇位継承権などいらない』と言っていますけどね」
まぁ、許可を貰わなくても勝手に話を進めるだけだ。スザクはそう締めくくる。
「スザク!」
「一応、先日、二十歳になったし、この国の法律では、自分の意志で結婚できる年齢ですよ?」
それでも、一応ただ一人の親だから報告をしただけだ。それが何か? と聞き返す。
「神楽耶だって、僕のことは何とも思ってないよ」
盛り上がっていたのはゲンブをはじめとする周囲だけだろう、とスザクは言う。
「実際、ルルーシュと神楽耶は仲がいいし、なんか、ルルーシュに白無垢を着せたいと言っているんだよな」
彼女のことだ。間違いなくレンタルではなく仕立てさせる気だろう……と心の中で呟く。
「ということだから、反対されても結婚するし」
満面の笑みと共にこういった。これで義理は果たした、と思う。そう考えて立ち上がろうとする。
「待て、スザク!」
そんな彼を慌ててゲンブが引き留めた。
「冗談ではないだろうな?」
彼はさらにこう言ってくる。
「そう思いたいなら好きにすれば? ただし、縁は切るから」
むしろ、その方がすっきりとしていい。スザクはそう言って笑う。
「僕はルルーシュ以外と結婚する気ないんだけど?」
ゲンブの道具になんてならない。そう言い返す。
「……あちらの許可は?」
「お母さんからは認めて頂いていますし、後は彼女が責任を持って根回しをしてくださるそうです」
ゲンブにやれとは言わないから安心しろ、と言外に告げる。
「そうか」
その言葉に、彼は深いため息とともに言葉をはき出す。
「ならば、今度あわせるように」
許可を出すかどうかはその時に決める。彼はそう言う。
「だから、別に許可はいらないって言っているのに」
わけわかんないなぁ、とスザクはため息をついた。
05:父、籠絡
会わせろと言われても、あまり会わせたくない。
しかし、会わせなければ会わせないで厄介だ。
こうなれば、とスザクは万全の準備――といっても、神楽耶を呼び出しただけだ。おまけで桐原老が付いてきたのはよかったのかどうか――を整えて、彼を呼び出した。
「とりあえず、儂らは隠れていよう」
楽しげな声音で桐原が言う。
「……桐原公?」
いったい何がそんなに楽しいのか。そう思わずにはいられない。
「終わった後に、手料理を振る舞ってくれればよい」
だが、彼の言葉であっさりとその疑問が氷解した。同時にあきれたくなる。
「ルルーシュは貴方の孫でも何でもありませんけど?」
なのに、何故、当然のように手料理をねだるのか。そもそも、その材料費はどこから出るのだろう、と思う。自分はもちろん、ルルーシュも生活費を親から出して貰っていないのだ。
「構わないだろう。それに、桐原公は手みやげにあれこれ持ってきてくださったからな」
神楽耶の分も含めて、とルルーシュが苦笑と共に口を挟んでくる。
「それよりも、お前の父君の分も作っておいた方がいいのか?」
煮物はともかく、リクエストの天ぷらは人数分を用意しておかないといけないだろうし、と彼女は首をかしげた。
「とりあえず用意しておいてくれるかの。余ればスザクが責任を持って腹に収めるだろう」
いや、それは否定しないが、どうして彼がこの場を仕切るのか。そう思わずにはいられない。
「お願いしますわ、ルルーシュ様」
微笑みながら神楽耶もこういった。
「ルルーシュ様がお作りになるお料理は、どれもおいしいです」
だから、スザクが食べないなら自分が食べる……と宣言をしてくれる。
「誰が! 全部、僕が食べるに決まっているだろう!」
残るとしても、とスザクは言う。
「そう言うことだから。無理しなくていいからね、ルルーシュ」
料理に関しては、ととりあえず告げる。
「……お前がそう言うなら……でも、天ぷらなら、量が増えようと減ろうと手間は一緒だぞ」
だが、ルルーシュは微笑みと共にこう言い返してきた。そうまで言われたら反論のしようがない。
「わかったよ、ルルーシュ」
でも無理はしないで、とスザクは再度告げた。
しかし、やはり、自分の親……と言うべきなのか。
それとも、ルルーシュの手料理に難癖をつけようとしたのか。
ゲンブは当然のように就職の席に着いていた。しかし、流石の彼も神楽耶や桐原が同席していては邪魔をする事が出来なかったようだ。
そして、目の前に並べられた料理のすばらしさにはすぐに白旗を揚げるしかなかったらしい。
「……まさか、日本の料理も作られるとは……」
スザクに負けず劣らずの食欲を見せながら、ゲンブが言う。さりげなく自分の分を確保するだけで精一杯だ。かぐやたちがいなければ、親子で取り合いという可能性もあるかもしれない、とスザクは思う。
「スザクが『食べたい』といったので、勉強しただけです」
日本人なら『謙遜』といわれる態度でルルーシュはそう言った。
「うん。ルルーシュの手料理はどれを食べてもおいしいよ」
ゲンブに食べさせるのはもったいないくらい、とスザクは心の中で付け加える。
「そうですわね。今日のご飯も非常においしいですけど、お菓子もほっぺたが落ちるかと思うほどですわ」
神楽耶がそう言って微笑む。
「確かにのぉ」
さらに桐原も頷いてみせる。
「これを毎日食べられるスザクがうらやましいの」
そう言って彼は笑った。そのまま、視線をゲンブへと向ける。その視線の意味がわからないその視線に殺気に近い感情が見え隠れしているのは、スザクの錯覚ではないだろう。
「たまにはご相伴にあずからせてくださいませ」
それに気付いているはずなのに、気付かないふりをして神楽耶がこういった。
「本当に、たまにならな」
しかし、ルルーシュと本気で議論が出来るのは彼女ぐらいだからいいか。残念だが、自分では政治だの経済だのの話はルルーシュの足元に及ばないし、とスザクは苦笑と共に釘を刺す。
「わかっておりますわ。新婚家庭に入り浸るような失礼な真似はしません」
嫌われてはたまらない、と彼女は言い返してくる。
「もっとも、ゲンブ様がお認めになるかどうかによりますが」
認めないわけがないよな、と言外に彼女は問いかけた。
「……成人している以上、親が口を出すことでもないでしょう」
渋々認めてやったという態度でゲンブが言う。なら、勝手にしてやる……と言い返そうとしたときだ。
「というわけで、申し訳ないが、お代わりをいただけるか?」
いったいどの口で、と思う。
「いい加減にしろ! このくそ親父!!」
次の瞬間、スザクの怒鳴り声が周囲に響いていた。
06:気の早い話
ともかく、自分の父親の許可は貰った。
後はルルーシュの方だけだ。
「……大丈夫かな?」
マリアンヌを疑っているわけではないが、とスザクは呟く。
「大丈夫だろう。既にナナリー達は味方につけてある」
マリアンヌだけではなく妹たちが揃えば、残りの姉たちもこちらの味方だと言っていい。
そして、どこの課程でも見られるように、こういう事に関しては女性陣か結束すれば男性陣が折れるしかないのだ。
「既に、クロヴィス兄さんは母さん達の陣営に下ったらしいからな」
ということは、自分のドレスは彼がデザインをするのか……とルルーシュは付け加える。
「そうなの?」
「兄さんの趣味だからな、それが」
年に一度は、妹たち全員に自分がデザインしたドレスをプレゼントしていた……と彼女は続ける。
「それを身につけて兄さんの誕生日を祝うのが恒例になっていたしな」
それを知って、同じようなことをしてくれた人間が一人や二人ではないと言うところは問題かもしれないが……とルルーシュは苦笑を浮かべた。
「まぁ、あのロールケーキ以外は趣味がよかったからな」
どのみち、パーティがあればドレスを新調しなければいけなかったのだ。その手間が省けたと思えばいい。そう考えていた……と彼女は続ける。
「……そうなんだ」
少し面白くない、と考えてしまうのは、自分がそんなルルーシュの姿を見たことがないからだろうか。しかし、ドレスなんて下手にプレゼントできるはずがない。
「……神楽耶に相談して、振り袖ぐらいは何とかした方がいいのかな?」
今からならば成人式に間に合うだろうし、と呟く。購入費用はバイト代で何とかなるのではないか。後は、伝手で何とかして貰おう。そんなことも考える。
「スザク?」
「お前……」
とあきれたようにルルーシュが言ってきた。
「僕が見たいんだよ! 結婚したら、振り袖は着られないんだし」
それに、そんなに高いのにはしないから……と続ける。
「せいぜい、五十万ぐらいかな?」
「十分高いと思うが?」
スザクの言葉にルルーシュがこう言い返してきた。
「神楽耶がこの前着てきたのは、確か七桁だったと思うよ?」
それでも安い方だって言っていた、と続ける。
「それは神楽耶様だからだろう?」
「そうでもないよ。着物は結構融通が利くから、孫子まで着せると言っていいものを購入する人も多いし」
七桁ぐらいなら結構いるよ、とスザクは言い返した。
「そうなのか?」
「うん。もっとも、汚しそうな場所に行く時用に安いものもあるけどね」
使い分けだよ……と続ける。それで納得してくれて、とりあえず一安心、といったところだろうか。
「それよりも、クロヴィス殿下デザインのドレスの方が高いような気がする」
きっと、生地その他にもこだわるんだろうな……とスザクはため息をつく。
「……否定は出来ないな」
値段についてはつっこまない方がいいだろう……とルルーシュも頷いて見せた。
「そうなんだけどね……何か、一回は着物を着てもらわないといけないと思うから……それの値段もつっこまないでね?」
皇から借りることになるだろうし、とスザクは笑う。
「……式は質素にしたいんだが」
「諦めた方がいいだろうね」
「そうだな」
顔を見合わせると、二人とも深いため息をついてしまった。
11.10.21拍手より移動