結婚物語



姉来訪

 マリアンヌから連絡が行ったのか。それとも、ただの偶然か。
 神聖ブリタニア帝国第二皇女、コーネリア・リ・ブリタニアが急遽来日をすることになった。
「……コゥ姉上か……」
 ルルーシュがどこかほっとしたような表情で告げる。
「仲がいいの?」
 よっぽど信頼しているんだろうな、と思いながら問いかけた。
「ユフィの同母姉だ。母さんの熱烈なファンでもある」
 だから、信頼していいとは思うが……と彼女は微妙な口調で続ける。
「……ひょっとして、やっぱり、出会い頭に攻撃してきそうとか?」
 冗談めかしてそう言う。しかし、その瞬間、ルルーシュは視線を彷徨わせ始めた。
「そうなんだ」
 ブリタニアの皇族って、みんなそうなのか……と思わずにはいられない。
「姉上の場合、ご自分も軍人だからな」
 つまり、マリアンヌと同じタイプだと言うことか。
「だが、さすがに衆目が集まるような場所ではことを起こされないと思う。決闘を申し込まれるかもしれないが……」
 いや、それもかなりなものだから……と思わずにいられない「すまないな、スザク」
 苦笑とともに彼女はそう言ってくる。
「仕方がないね。君がみんなに愛されている証拠だろうし」
 そういうルルーシュを嫁にもらおうとしている以上、恨まれても当然ではないか。
「でも、これ以上、命に関わるようなことは遠慮したいかも」
 ぼそっと付け加えてしまう。
「……コゥ姉上はきっと、お前のことを気に入ると思う。そうしたら、一人を除いて誰もお前に手出しはできなくなるはずだ」
「……一人を除いて?」
 何か、ものすごくいやな予感がするが……と思いながらも聞き返してしまう。
「皇帝の座にいる私の父親だ」
 その言葉にどう反応すればいいのか。
「……そう」
 結婚式が終わるまで、自分の命があるだろうか。ふっとそんな不安がわき上がってくる。
「だが、母さんがいるから実際の行動には出られないはずだ」
 そんなことをすれば、彼女が何をするかわからないから。それは自分にとってプラス材料なのだろうか。それとも、と思ってしまう。
「……ともかく、無事に皆さんにお帰りいただかないとね」
 そうすれば、しばらくは平穏が訪れるのではないか。スザクはそんなことを考えていた。

 そして、指定された当日、もう何度目になるかわからない空港の到着ロビーでスザクはルルーシュとともにコーネリアの到着を待っていた。
 少し離れたところにはロロの姿も確認できる。
「……恨まれているのかな、やっぱり」
 思い切り殺気を感じる、とスザクはため息をつく。
「困った奴だな、あいつも」
 ルルーシュもかすかに眉根を寄せながらそう呟いた。
「あいつも悪い奴ではないんだが……一緒に育ったせいで独占欲が強くなってしまって」
 自分の騎士になれなかったことを気にしているようだし、と彼女は続ける。
「私には騎士は必要ないと言っているのにな」
 必要になる前に日本に来てしまったし、その後はスザクが一緒にいてくれたから。そう言ってくれるのは喜ぶべきなのだろうか。
「そうだね。君は僕が守るし」
 一生かけて、とスザクは言い返す。
「お前なら、そう言ってくれると思っていたよ」
 そうすれば、ルルーシュも微笑んでくれる。
 とりあえず、それでいいか……と思ったときだ。到着のアナウンスが周囲に流れた。
「……ルルーシュのお姉さんだから目立つんだろうな」
「姉上も美人だからな」
「でも、ルルーシュ以上の美人なんてそういないだろう?」*
 マリアンヌは美人だったが、はっきり言ってルルーシュとうり二つだったし。ユーフェミアもナナリーも美人と言うよりはかわいいといった方がしっくり来る。何よりも、だ。
「僕にとってはルルーシュが一番だし」
 笑顔でそう言えば、ルルーシュが頬を赤らめる。
「お前……真顔でそう言うことを言うな!」
 恥ずかしいだろう、と彼女は言い返してきた。
「恥ずかしがる表情もかわいいから」
 ルルーシュならどんな表情をしていてもかわいいけど、と付け加えたときだ。不意に誰かの視線を感じる。反射的に顔を向ければ、赤毛の、すごみのある美人がこちらを見ているのが確認できた。
「……コゥ姉上」
 同じ方向を見ていたルルーシュがそう言う。
 それが耳に届いたのだろうか。ヒールの音も高らかに彼女が歩み寄ってくる。ロロもまた、駆け寄ってきていた。
「お前が人前であんな表情を見せるとはな」
 おもしろいものを見せてもらった、と彼女は微笑む。
「……そうですか」
 本当に、とルルーシュは困ったように視線を彷徨わせ始める。
「とりあえず、落ち着けるところに移動しようよ」
 スザクがそう提案をしたのは、ルルーシュに体制を整える自慢が必要だろうと判断したのだ。
「そう、だな」
 とりあえず大使館へ、とルルーシュもうなずく。その表情にほっとしたような色があったのは否定できない事実だろう。
「確かに。まずは、あのわがまま娘と話をしなければいけないだろうからな」
 コーネリアも同意してくる。その言葉がどこか怖いと思っているのは自分だけではない。ロロの表情からスザクはそう判断をしていた。


姉妹喧嘩?

「お姉様なんて、嫌いです!」
 コーネリアの顔を見た瞬間、ユーフェミアがこう叫ぶ。
「ユフィ姉様……」
 まさか、彼女はこんな反応をするとは思わなかったのだろう。ナナリーが困ったような表情を浮かべている。
 だが、ユーフェミアの方はそれに気づいていないらしい。
「どうせ、お姉様もわたくしが悪いとおっしゃるのでしょう?」
 だから、嫌いだ……と彼女は繰り返している。
「自分で自分が何をしていたのか理解できているならそうは言わない。少なくとも、今回はな」
 本人も無事なようだし、とコーネリアは言う。
「お前は国外に出たことがなかったからな。他国の事情がわからなかったとしても仕方がなかろう」
 いいのか、それで……とスザクは心の中で呟く。だが、コーネリアはあくまでも本気で言っているようだ。
 確かに、大事にはならなかったな……とスザクはため息をつく。
「思い切り、藤堂さんに怒られたんだけどな、僕」
 あのときのことで、と続ける。
「僕の存在はばれていないと思いたかったんだけどね」
 しっかりとばれていたようだ。つまり、当然、ルルーシュ達の存在もばれていると考えていいだろう。
「……そうか」
 その事実に気がついたのか。ルルーシュも額を抑えている。
「私たちのところに連絡が来ていないのは、間違いなく日本政府が配慮してくれたからだな」
 全く、と呟いた声が聞こえたのだろう。ナナリーとロロが身を縮めている。
「どうやら、本気で日本政府に借りを作ってしまったようだな」
 コーネリアがそう言ってため息をつく。
「これであちらにあれこれ言われても無碍に断るわけには行かなくなった」
 それも、すべてユーフェミアの短慮のせいだ……と彼女は付け加えた。
「それを言うなら、元々はルルーシュが悪いのではありませんか!」
 その瞬間、ユーフェミアが逆ギレのように言葉を口にする。
「私の、何が悪いんだ?」
 きちんと言って見ろ、とルルーシュが言い返す。
「勝手に結婚を決めたじゃないですか! しかも、こんな遠くの国で、どこの誰ともわからない相手と」
「スザクはきちんとした家柄の人間だぞ! 第一、私が好きになったんだ。ユフィにあれこれ言われる必要は感じない」
 マリアンヌには認めてもらった以上、と彼女は続ける。
「そんなの関係ありませんわ! わたくしが気に入りませんの」
 勝手に決めて、とユーフェミアも負けじと言い返す。
「第一、お姉様方もまだ独身ですのよ?」
「だから?」
 次第に、とんでもない方向に会話が進んでいるような気がするのは錯覚だろうか。
「……ルルーシュ」
 落ち着いて、とスザクは彼女に声をかける。
「だが!」
「大切なお姉さんをとられると思っているんだろう? だから、仕方がないよ」
 そのくらいは最初から覚悟している、と苦笑を浮かべた。
「まぁ、これ以上、空港その他で問題を起こされると困るけどね」
 最後にこう付け加えたのは、ちょっとした意趣返しのつもりだった。
「こんな細かい男性のどこがいいんですの?」
 しかし、それもユーフェミアには絶好の攻撃ポイントになったらしい。
「細かくないぞ? お前が悪いだけだろう?」
 それに、とルルーシュは言う。
「そういう態度を続けるなら、私は二度とブリタニアには帰らないことにする。あちらでスザクに何かがあったら困るからな」
 彼女のその言葉に周囲の者達が固まる。
「だめだよ、ルルーシュ。冗談でもそんなことを言ったら。後悔するのは君だよ?」
 家族大好きでしょう? と続ければナナリーが驚いたように視線を向けてきた。
「僕の場合、あの父親しかいないからわからないけど、けんかできるような姉妹って重要だと思うよ」
 違う? と問いかければ「そうだな」と彼女は言い返してくる。
「命を狙われることと一般市民に迷惑をかけられる事以外なら、僕も妥協するから」
 ね、とささやけばルルーシュは小さくうなずいてくれた。
「すごいです、スザクさん。怒っているお姉様を納得させられるなんて」
 そう思いませんか、と彼女は隣にいるロロに声をかけている。
「強いし、本当にお姉様のことを大切に思っていらっしゃることがわかりました。ですから、私はスザクさんを応援させていただきます」
 そう言って彼女は微笑んだ。
「ナナリー!」
 よっぽど嬉しかったのか。ルルーシュは彼女の名を呼ぶとその体を抱きしめている。
「どうする、ユフィ。ナナリーもルルーシュ達の味方だぞ。そして、マリアンヌ様もだ。いくらお前が騒いだところで止められないぞ?」
 もっとも、とコーネリアが視線を向けてくる。
「私としてはお前の実力を確認させてもらいたいところだ。かまわないな?」
 いやだと言わせる気もないくせに、とスザクは思う。
「ただの試合でいいのでしたら」
 ルールに則った、と言うのが精一杯だった。

 もっとも、結論から言えばコーネリアにも気に入られたので、よかったのかもしれない。
 しかし、だ。
 ルルーシュの誕生日にはブリタニアに来るようにと言われたのは何なのだろう。
「……生きて帰ってこられるかな、僕……」
「その前に、その時期はテストだろう?」
「そういえば、そうか」
 ならば大丈夫だろうか。いや、時期がずらされるだけかもしれない。そう考えてしまうスザクだった。






12.05.08拍手より移動