熱烈歓迎?
その1
その晩は、とりあえず何もなかった。いや何もなかったわけではない。普通に歓迎されただけだ。
「明日の朝、よかったらつきあってね」
マリアンヌのその言葉も、歓迎の表れだろう、と思いたい。
「……母さん……一応、時差というものが……」
それに反論をしてくれたのはルルーシュだ。
「明日になれば、きっと、兄上達も押しかけてくるでしょう? そのときに、スザクがへろへろだったら何を言われるかわかりません」
さらに彼女はそう付け加える。
「だから『よかったら』って言ったでしょう?」
無理強いはしない、とマリアンヌはそう言って笑った。
「いいでしょ。本気で私とつきあえそうな人材は貴重なのよ」
スザクは本気を出してもかまわない相手のようだ。そう彼女は続ける。
「スザクは私のです」
ルルーシュがそう叫ぶ。
「わかっているわよ。でも、貸してくれてもいいでしょう?」
少しぐらい、とマリアンヌが笑いながら言った。*
「母さんを味方につけておくと有利だって、あなたもよく知っているでしょう?」
「そうかもしれませんが……」
「それに、あなたはあちらに戻ったら二人だけでラブラブできるんだもの。ブリタニアにいる間ぐらい、いいでしょ?」
たたみかけられるようなその言葉に、ルルーシュも納得せざるを得ないようだった。いや、納得させられたといった方が正しいのだろうか。
さすがは家族だな、とスザクは思う。
どうすればいいのか。よく知っているらしい。
「それに、鍛錬はしておいた方がいいと思うわよ」
意味ありげな表情でマリアンヌはそう言った。
「マリアンヌさん?」
「……母さん?」
何があるのか。思わず二人そろってマリアンヌに問いかけてしまった。
「詳しいことは伝わってこないのよね。シャルルがしっかりと口止めしているらしいわ」
それでもマリアンヌにはばれているのは、マリアンヌがすごいのか、それとも相手の口が軽いのか。いったいどちらなのだろう。
「そうか……あのロールケーキはあくまでも邪魔してくれるつもりか」
だが、その疑問もルルーシュのこのセリフでかき消される。
「ルルーシュ?」
彼女の周囲の空気が微妙に黒い。
「だから、母さんを味方にしておきなさい」
マリアンヌはマリアンヌでそう言って微笑んでいる。
「……そうですね」
不本意だが、仕方がない。ルルーシュはそう言ってうなずく。
「スザクも、何かあったらすぐに言うんだぞ」
そのまま彼女は視線を向けてきた。
「……自分の身に降りかかる火の粉は自分で振り払えるけど?」
とりあえず、こう言ってみる。
「大概のことは、母さんがもみ消してあげるけどね」
さらにマリアンヌが言葉を口にした。
「それでも、私がいやなんだ」
スザクを護るのは自分の役目なんだから。そう言ってくれるルルーシュがとてもまぶしかった。
その2
ルルーシュの予想通り――と言っていいのだろうか――翌日は朝から彼女のきょうだいたちが押しかけてきた。
「……ユフィ……また、邪魔をしに来たのか?」
ルルーシュが警戒をしたのは仕方がないことなのだろうか。
「そう言ってくれるな、ルルーシュ」
苦笑とともにコーネリアが言葉を口にする。
「この子のしたことを思えば、そう言われても仕方がないが……お前たちがここにいる間はこの姉がしかと責任を持つ。だから、許してくれ」
「……わかりました。でも、また同じことをすれば今度は本当に縁を切るぞ、ユフィ」
脅しているのかなんなのかわからない。そんな口調でルルーシュはコーネリアの隣にいるユーフェミアに向かってそう言った。
「……不本意ですが、仕方がありません」
でも、とユーフェミアは続ける。
「わたくしは、まだ、認めた訳ではありませんから!」
やっぱり、と苦笑とともにスザクは呟く。
「ユフィ……」
「まぁまぁ。そこまでにしておきなさい」
ルルーシュをなだめるかのようにやたらと装飾がついた服を身にまとった男性が彼女の肩に手を置く。その顔は神楽耶からもらった資料にあった。
「クロヴィス兄さん」
その名前を思い出すよりも早くルルーシュが答えを口にする。
「君の婚約者殿はどこだい?」
明日の晩餐会までに衣装を用意したいのだが、と彼は続けた。
「スザクなら、そこです」
言葉とともにルルーシュが振り向く。そんな彼女に笑みを返したのは男としての意地だ。
「どうした、クルルギ。ずいぶんと疲れているようだが」
コーネリアがあきれたように声をかけてくる。
「だから、母さんに最後までつきあわなくていいと言っただろう? ジェレミアもロロも、適当なところで逃げているんだから」
「そうですわ、スザクさん。お母様に最後までつきあえた方は、私の知る限り、ヴァルトシュタイン卿だけですもの」
ナナリーもそう言ってうなずく。
「まぁ、それでは確かに疲れても仕方がないか。と言うより、それが当然だな」
最後までつきあえた根性だけは認めてやろう。コーネリアは微笑みながらそう言った。
「それならば、何があってもルルーシュを守れるね」
にこやかな表情とともにクロヴィスはスザクに歩み寄ってくる。
「ルルーシュ。三十分ほど、彼を借りるよ」
「一応、正装用の羽織袴は持ってきましたが……」
日本ではそれが普通だから、とスザクは言ってみた。
「もちろんそれは聞いているが、破ってはもったいないだろう?」
破れるようなことをするのですか。そう思わずにいられない。
「……姉上?」
同じことに引っかかりを覚えたのか。ルルーシュはコーネリアへと問いかけた。
「陛下が、御前試合をお望みだそうだ」
当然、それに自分も引っ張り出されるのだろう。スザクはすぐにそう推測をする。
「……ほぉ」
そして、自分が考えつくことぐらい、彼女が思いつかないはずがない。
「あのロールケーキはそんなことを考えているのか」
どうしてくれよう、と彼女は呟く。その瞬間、周囲の温度が下がったような気がするのは錯覚ではないだろう。ナナリーやコーネリアだけではなくユーフェミアまでもが頬を引きつらせている。
「君のドレスも用意しているからね。スザク君とのバランスを見て、手直しをしよう」
クロヴィスの声だけが場違いなくらい明るかった。
その3
マリアンヌが戻ってきたのは、お茶の時間と言われる頃だった。
「あらあら。どうしたの?」
室内の様子を見回した彼女は、明るい声でそう問いかけてくる。
「どうしたのじゃありません!」
即座にルルーシュが言い返す。
「あのロールケーキが何を企てているか、母さんもご存じだったのでしょう?」
違うのか、と彼女は詰め寄る。
「あぁ、御前試合のことね」
マリアンヌは微笑むとあっさりとそう言った。
「今、説明してあげるわ。だから、座りなさい」
いつもと変わらない口調なのに、逆らいがたい迫力を感じる。それはそれはこの場にいたもの、全員が感じたようだ。それぞれがテーブルの椅子に腰を下ろしている。
「それで、あなたがあれたからスザク君が疲れている訳ね」
苦笑とともにマリアンヌがそう言った。
「むしろ、着せ替えの方が疲れましたけど……」
ルルーシュのあの空気にはなれている。しかし、クロヴィスの注文は、今まで自分とは無縁の世界だった。おかげで気疲れをしたというのが正しい。
「あら、そう? ルルーシュのあれはいいの?」
ずばっとマリアンヌは切り込んでくる。
「大丈夫です。怒っているルルーシュも美人ですから」
スザク自身としては正直な気持ちを口にしたつもりだった。
「あらあら。ごちそうさま」
しかし、マリアンヌ達はそう受け止めなかったらしい。微苦笑とともに代表してマリアンヌが言葉を返してくる。
「でも、のろけは後にしてね」
「のろけていませんよ。事実を口にしただけです」
スザクはきっぱりとそう言いきった。
「……それがのろけというものではありませんか?」
ナナリーが問いかけてくる。
「このくらい言えないとルルーシュとつきあうのは無理じゃないかな」
それにクロヴィスが言葉を返した。
「……兄さんは黙っていてください」
「ルルーシュ、それはないだろう?」
反論をしようとしたクロヴィスを、ルルーシュは視線だけで黙らせる。
「母さん。最初からスザクをつるし上げるつもりだったのですか?」
話を元に戻すが、と彼女はマリアンヌへと問いかけた。
「そんなはずないでしょう? ただ、母さんはスザク君と交流を深めたかっただけよ」
それに、とマリアンヌは言葉を重ねる。
「シャルルの決めたことを母さんが覆すわけにはいかないでしょう? 事前に知っていたら、本気で邪魔をしていたわ」
自分が知ったときにはもう、準備が進んでいた。マリアンヌはそう主張する。
「母さんにできたことは、スザク君が不利にならないように根回しすることだけよ」
いや、それはそれで十分怖いような気がする。そう思わずにいられないスザクだった。
12.08.31拍手より移動