結婚物語



花婿の座争奪戦?


その1

 どうやら、スザク達が着いた日から予選は始まっていたらしい。
「まぁ、予選組は五十歩百歩よね」
 マリアンヌはそう言って笑うが、スザクにはそうは思えなかった。
「気をつければいいのはラウンズだけど……スザク君なら十分に勝てるわよ」
 ビスマルクは出場しないし重火器は禁止だから、とマリアンヌは明るい口調で告げる。
「だから、あなたもいい加減、機嫌を直しなさい」
 そう言って彼女はルルーシュに視線を向けた。そこには、まさしく仏頂面というルルーシュがいる。せっかく、きれいなドレスを着ているのに、その表情はないのではないか。
「まぁ、どんな表情でもルルーシュはかわいいけど」
 スザクは真顔でそう呟く。
「あらあら」
 その瞬間、マリアンヌが眼を細める。
「これって、のろけね」
 いいわね、と彼女は笑う。その表情が何か怖い。
「いいでしょう? 母さんだって父上ののろけをさんざん聞かせてくれたんですから」
 ルルーシュはそう言う。
「それよりも、です。重火器禁止は当然でしょう? それに、ラウンズが誤認も出ているじゃないですか!」
 八人しかいないのに、と彼女は続ける。
「いいじゃない。お祭りだもの」
 マリアンヌは平然と言い返す。
「それに、ノネット達には『絶対に相手にけがをさせるな』と言ってあるわ。もし、けがをさせたら同じけがをさせるともね」
 それは脅しなのでしょうか。スザクとしては、本気で問いかけたい。
 しかし、だ。
「そろそろ、時間だそうです」
 それよりも早く、ロロがこう声をかけてくる。
「ありがとう」
 相手への礼儀として遅れるわけにはいかないだろう。だから、こう言い返すと同時に立ち上がった。
「じゃ、行ってくるよ」
 そのまま、ルルーシュへと微笑みかける。
「気をつけろよ」
 彼女は即座にこう言ってきた。
「わかっているよ。いつもの試合だと思えばいいだけだし」
 スザクは笑みを深めるとさらに言葉を重ねる。
「それに、君が見ていてる前で、僕が負けると思う?」
 相手が藤堂でも、ルルーシュが見ているときには負けたことがない。そうだろう? と言外に続けた。
「わかってはいるが……」
「大丈夫。何が何でも勝ってみせるよ。マリアンヌさんのおかげで、ブリタニアの剣術との間合いの取り方もわかったから」
 そうでないと、思い切り邪魔されるだろうし。心の中だけでそう付け加える。
「……わかった」
 ルルーシュもようやく微笑みを見せてくれた。
「ただし、無事に戻ってこなければ、許さないからな」
 彼女はそう念を押してくる。
「わかってる。勝ったら、ハンバーグを作ってね」
 それにスザクはそう言い返した。




その2

 さすがに控え室の空気は重苦しい。しかも、その場にいるもののほとんどが自分をにらみつけてくるとなればなおさらだ。
「とりあえず、マリアンヌ様のご命令です。今日だけは協力をさせていただきます」
 ロロはそう言う。
「とりあえず、それで十分かな」
 スザクは苦笑とともに言い返した。
「とはいうものの、さすがにアウェイだね」
 この空気は、と呟く。きっと、シャルルの命令のせいだろうとも思う。
「と言っても、ルルーシュのために負けるわけにいかないんだけど」
 自分としては、とスザクは続ける。
「当然です」
 ロロはきまじめな様子でうなずいて見せた。
「でなければ、マリアンヌ様のお時間が無駄になります」
 せっかく、時間を割いてスザクにつきあっていたのに。彼がそう付け加えた瞬間、周囲から上がった声は何なのだろうか。
「ともかく、最後にもう一度、会場での礼儀を説明してくれるかな?」
 確認の意味をかねて、とスザクは言った。
「わかりました。基本的には日本の剣道と同じだと思いますが」
 そう前置きすると、ロロは身振り付きで説明をしてくれる。基本は確かに剣道のそれと同じだ。ただ、微妙な所作が違う。
「……多少の間違いは笑って済ませてもらうしかないな」
 たぶん、大丈夫だとは思うが、細かな所作までは身につける時間がなかった。
「あと一週間ぐらいあれば、何とかなっただろうけど」
 さすがに、三日ほどでは付け焼き刃でしかない。なまじ剣道に似ているから、ついついなれた方の仕草をしてしまいかねないのだ。
「そのくらいなら、マリアンヌ様が周囲を黙らせるでしょうね」
 ロロはそう言ってうなずく。
「なら、細かいことは気にしない、と」
 それよりも、勝負の方を優先しよう。スザクは心の中でそう呟く。
「それでいいと思いますよ」
 ロロはそう言い返してきた。
「あなたが勝つのは気に入りませんが、マリアンヌ様とルルーシュ様が馬鹿にされるのは不本意ですし……ナナリーにも『応援してください』と言われたし」
 そう言われては『いやだ』とは言えない。ロロはそう続ける。
「そうだったんだ」
 後で、ナナリーにお礼を言わないといけないか。そう心の中で呟く。
「どちらにしろ、僕が全力で相手をたたきつぶせばいいだけだよね」
 結局は、とスザクは口にする。
「そうですね。そのくらいはしていただかないと、困ります」
 しかし、ここまできっぱりと言われては苦笑を浮かべるしかできない。
「がんばるよ」
 大丈夫だと言えば、ここにいる者達を馬鹿にすることになるのではないか。そう考えてこう告げる。
「クルルギ卿、キューエル卿。お時間です」
 そのときだ。係員がこう呼びかけてくる。
「じゃ、行ってくるよ」
 言葉とともにスザクは木刀を握りしめると立ち上がった。
「ご武運を」
 ロロが即座にこう声をかけてくる。
「ありがとう」
 それに、スザクは笑い返した。




その3

「……あれ?」
 確かに相手の鯉口を狙いはした。しかし、手首を打ったわけではない。それなのに、どうして剣を取り落としているのだろうか。
「勝者、クルルギ」
 審判がそう告げる。
 どうやら、自分が勝ったことは間違いないらしい。
 しかし、こんなにあっさりと勝っていいのだろうか。確か、これに勝てばベスト8だったはず。
 それなのに、こんなに手応えがなくていいのか。
 とりあえず、ルルーシュとの約束は守れているからいいことにするか、とスザクは自分に言い聞かせる。
 そのまま、終わりの礼をすると試合場を下りた。
「すごいじゃないか」
 そう言いながら、背の高い金髪の青年がスザクの肩を抱いてくる。その顔に見覚えがあった。先日のお茶会の時にアーニャと一緒に紹介された相手、である。
「えっと……ジノ、だっけ?」
 家名は何だったかな、と心の中で呟く。
「そう、ジノ・ヴァインベルグだ。覚えていてくれてよかった、と言うべきかな?」
 笑いながら彼はそう言う。
「顔はね。さすがに、人数が多すぎて家名と名前と顔が一致しない人が多くて」
 ジノはいろいろと話題に上がるので覚えていた。しかし、家名を覚えていなかったのはまずかったのではないか、と思わなくもない。
「仕方がないな。一度で覚えられるとすれば、ルルーシュ殿下ぐらいだろうし」
 名前を覚えていてくれるだけで十分、と彼は笑う。
「ついでに、あと二回勝ち上がれば、ぶつかるしな」
 ジノはそう言って笑う。
「って、決勝で、と言うこと?」
「残念だけどね」
 誰かさんの思惑かな、とジノは続ける。
「本気で嫌われているのかな、僕は」
 陛下に、とスザクはため息をついた。
「まぁ、それは仕方がないかな。陛下はルルーシュ殿下とナナリー殿下を溺愛されておられるから」
 だから、ルルーシュに逃げられたのではないか。ジノはこっそりとそう付け加える。
「……目立ってるんだけど、用事はそれだけなら移動していいかな?」
 さすがに視線が痛い。言外にそう付け加えた。
「あぁ、そうだな。ブラッドリーもにらんでるし」
 にやり、とジノは笑う。
「ひょっとして、その人に見せつけているわけ?」
「訳ありでね」
 こっちの事情だから、と彼は付け加えた。
「……それで?」
「反則を取られても勝てばいいという人間だから……ラウンズ同士で当たるならたたきつぶせたんだけどね」
 困ったことに、今回のメンバーだと、ブラッドリーは唯一、ラウンズと当たらない枠に入ってしまった。だから、どうしようかと思っていたのだ、と彼は続ける。
「お前の実力なら、五分五分だからさ。がんばってもらおうかと」
 自分達が彼に勝つよりもよほど衝撃があるだろう。彼はそう言って、また笑った。
「君たちの思惑はともかく、僕としても負けるわけにはいかないからね」
 ルルーシュとの結婚を認めてもらうためにも、とスザクは心の中だけで付け加える。
「がんばってくれ。だからといって、手加減はしないが」
 ジノがスザクの背中を叩きながら言う。
「とりあえず、全力は尽くすつもりだけどね」
 実際に対戦するのは明日になるし、少し情報を集めてみようか。そう思いながら、スザクはこう言い返していた。






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