結婚物語




花婿の座争奪戦?


その4

 ロロに話をすれば、どこからかブラッドリーの試合の様子を納めたデスクを持ってきてくれた。
「マリアンヌ様がお持ちでしたので」
 彼はそう言う。
「本当にマリアンヌさんって謎だよね。とてもすごいというのはわかるんだけど……」
 スザクは苦笑とともに言葉を口にする。
「安心しろ。母さんのことは私にもよくわからない」
 即座にルルーシュがそう言ってきた。
「だが、母さんがそれをロロに持たせていた、と言うことは……厄介な相手なのかもしれないな」
 知っているか? と彼女は視線をロロに移す。
「直接お相手を願ったことはないので、はっきりとは知りませんが……」
 それに、ロロはこう前置きをして言葉を口にし始める。
「かなり汚い手を使われるとか。こうなるとわかっていれば、アーニャに残るように頼んでおいたのですが」
「さすがにそれはまずいんじゃないかな?」
 彼女は参加していないとはいえ、とスザクは苦笑とともに言う。
「ただでさえ『なれ合い』とか『出来レース』って言われているのに」
 これ以上はルルーシュとマリアンヌの名誉に関わるのではないか。スザクは本気でそう考えている。
「ほぉ……どこの馬鹿だ、それは」
 ルルーシュが目をすがめながら問いかけてきた。
「さぁ。不愉快だったから、顔も名前も消去したよ」
 な、とロロに目配せをする。
「上官命令で参加させられた騎士候だと思います。この程度のことは他の貴族出身の騎士達がしているので、ただのイヤミだと思います」
 彼はすぐにこう言ってくれた。
「……しかし……」
 だが、ルルーシュは納得してくれない。
「それよりも、次の対戦相手のことに集中したいな」
 他にも、当たりそうなメンバーの動きを一通り見ておきたい。スザクはさりげなく主張する。
「……それは、当然の権利だな、お前の」
 不本意だが、とルルーシュはうなずく。
「第一、僕は全員の名前を知らないし……どこに所属していた相手かも知らないんだよ?」
 苦笑とともにスザクはそう付け加えた。
「確かに。そう言われればそうか」
 ならば、ロロだな。ルルーシュはそう言って笑う。
「今回のことが終わってからにしてね。今、ロロ君にいなくなられると困る」
 スザクは真顔でそう言ってみた。
「……今回のことが終わってからにするから、安心しろ」
 ついでに、あのロールケーキにもきっちりと報復をしてやろう。ルルーシュはそう言う。
「婚約のことを了承してもらってからにしてね?」
 それを口実に却下されたら困る。スザクは言外にそう付け加えた。
「大丈夫だ。母さんが味方だからな」
 二人がかりで脅迫をしてでも認めさせる。ルルーシュはそう言う。
「後、もう一つ、お願いがあるんだけど」
「何だ?」
 スザクの言葉に彼女は首をかしげた。
「久々に、君の作ったハンバーグを食べたいんだけど」
 だめかな、と問いかける。
「そのくらい、おやすいご用だ」
 にっこりと彼女は微笑む。
「だから、全力でがんばれ」
 手抜きは許さない。ルルーシュはそう続ける。
「Yes.Your Highness」
 笑いながら、スザクはこう言い返した。



その5

 確かに、やりづらい相手だ。
 ブラッドリーの剣を受け流しながらスザクは心の中でそう呟く。
 彼の剣筋は正統派というのとは全く違う。むしろ我流なのではないか。だから、反則すれすれの技も平然と使う。
 しかし、それだからおもしろい。
 そう考えてしまうのは気分が高揚しているからだろうか。
「この野郎! さっさとやられろ!!」
 ブラッドリーがこう叫びながら剣を突き出してくる。
「残念ですが、そう言うわけにはいかないので」
 相手の胸元に飛び込むと、スザクは遠慮なく相手の手首を叩く。反射的に防御をしたのはさすがだ。それで骨は折れなかったようだが、しびれからは逃れられなかったらしい。彼は剣を取り落とした。
「ちぃっ!」
 反射的にブラッドリーはスザクから離れる。そのまま、剣をつま先で蹴り上げた。
 しかし、彼がそれをつかむ前にスザクが動く。
 手にしていた刀でそれを遠くへと飛ばす。
「これで終わりです!」
 そのまま切っ先を返すと、スザクはブラッドリーの喉元に突きを入れる。
「ぐっ」
 空気が抜けるような音とともに彼の体は後ろへと倒れ込んだ。
 そのまま彼は動かない。
「……やり過ぎたかな?」
 さすがにのどに突きはまずかったか。そう呟く。
「勝者、クルルギ卿」
 ようやく我に返ったらしい審判がこう言ってくる。
「そのくらいでだめになるようならラウンズにはいらないわ。だから安心しなさい」
 貴賓席からマリアンヌが言葉をかけてきた。と言うことは、この距離で今のつぶやきを聞き取ったのだろうか。やはり侮れないと思う。
 ともかく、勝敗はついたのだから、といつも通りに相手に礼をとる。その上で彼を医務室に運ぶべきかと悩んだ。
 もっとも、それは無用な心配だったらしい。すぐに担架が運ばれてくる。
「後は任せてもらっていいぞ」
 確か、ノネットだっただろうか。コーネリアと同年代のラウンズがこう声をかけてくれた。
「わかりました」
 後は任せてもいいだろう。そう判断をすると、スザクは彼女に軽く頭を下げる。
「気にするな。こいつの場合、自業自得だからな」
 少しは懲りてくれただろうか。彼女はそう続けた。
「まぁ、次もがんばれ」
 ルルーシュ様のためにも、とノネットは付け加える。
「もちろんです」
 スザクはきっぱりと言い切った。
「いい返事だ」
 ふっと彼女は笑う。
「そうでなければ、この場で切り捨ててやろうと思ったんだがな」
 これは冗談だよな、と心の中で呟く。
「マリアンヌ様がお気に召したんだから、私が気をもむ必要はないんだろうが。だが、ルルーシュ様は妹のような存在だから」
 不幸にしたら許さないよ、と低い声でささやかれた。ひょっとしてノネットはこの一言が言いたくてブラッドリーを回収しに来たのだろうか。
「全力で努力しますよ」
 自分にできる限りの、と続ける。
「いい男になりそうだな」
 それで十分、と笑うとノネットは手の動きで指示を出す。
「陛下もあきらめられればいいものを」
 それは誰もが思っていることだ。しかし、それを口に出すわけには行かないのではないか。
「……花嫁の父はそう言うものだと聞いていますよ」
 とりあえず、と言うところでスザクは妥協する。
「本当、おもしろい子だよ、お前は」
 そう言ってノネットは笑い声を立てた。



その6

 予想通りと言っていいのだろうか。決勝はジノが相手になった。
「エルンスト卿かエニアグラム卿の方がよかったかもしれませんね」
 ロロがそう言う。
「こればかりは仕方があるまい」
 そううまくは行かないだろう、とルルーシュは苦笑を浮かべる。
「誰が来ても同じだよ。僕は全力で戦うだけだって」
 スザクはスザクでこう言う。
「でも、ヴァインベルグ卿の戦い方は正統派だから、今回みたいなことはないと思うよ」
 お互いに、と続ける。
「……と言うと?」
 意味がわからない、とルルーシュは首をかしげて見せた。
「ブラッドリー卿の場合、反則すれすれの行為も平気でしてくれたからね。こちらもそれなりのことをしたんだよ。言うなれば、けんかみたいなものかな?」
 その結果、試合では禁じ手と言える喉元への突きを入れることになった。あの手応えから判断して、しばらくは声を出せないのではないか。
 しかし、ジノの戦い方ならそんなことはしなくてすむ。
「お互いに試合に集中できると思うよ」
 殺し合いではなく、と続ける。
 もっとも、それはジノは今まで通りの戦いをしてくれれば、の話だ。
「余計な横やりさえ入らなければ、だな」
 ルルーシュがぼそりと呟く。
「大丈夫よ」
 本当に、どうして彼女の気配に気づけないのだろうか。スザクはため息をつきながら心の中で呟く。せめて、さっきでも発していてくれれば気配はわからなくても気づけるのに、とも思う。
「シャルルには釘を刺しておいたわ。審判はダールトンがするそうだし、不正はないでしょう」
 そんなことをしたら、自分が切れて暴れ回る。彼女がそう付け加えた瞬間、背筋に冷たいものを押しつけられたような感覚がスザクを支配した。
「母さん、本気ですか!」
 同じ思いだったのか。ルルーシュが叫ぶように問いかけている。その隣では、ロロが完全に固まっていた。
「本当よ。それに、ナナリーもしっかりとシャルルを脅迫していたし」
 それは予想外だったのか。ルルーシュが大きく目を見開いている。
「あの子なりに、貴方たちのことを応援しているのよ」
 そんなルルーシュに向かって、マリアンヌが笑いかけた。
「だから、全力でがんばりなさい。いい勝負になるわ」
 それを見るのを楽しみにしているから。マリアンヌはそう言いながらスザクへと視線を移してくる。それは、間違いなく『手を抜くな』と言っているのだろう。
「わかっています」
 全力でやります、とスザクは言葉を返す。
「ヴァインベルグ卿もそう思っていてくれればいいのですが」
 スザクはそう付け加える。
「なら、いいわ」
 フフ、とマリアンヌは笑った。
「万が一の時にも、私は貴方たちの味方だから」
 そんなことはないと思うが、と彼女は続ける。
 ひょっとして、これは脅迫されているのだろうか。それともと思いつつ視線をルルーシュへと流す。
「……楽しんでいますね、母さん」
 ため息とともに彼女はそう言った。
「当たり前でしょう?」
 マリアンヌはそう言って笑う。
「人生、楽しまなくてどうするの」
 やはり、彼女には勝てないような気がする。スザクはそうそうに白旗を揚げることにした。




その7

 ジノとの戦いは、楽しいものだった。
 間違いなく、お互いの実力が伯仲しているからだろう。 もっとも、とスザクは心の中で呟く。これが殺し合いではなく試合だからだろう。
「楽しませてくれる」
 同じようなことを感じていたのか。ジノがこう言ってきた。
「お互い様だよ」
 ふっと唇の端を持ち上げるとスザクは言い返す。
「こっちに来て、普通に試合が楽しいと思ったのは初めてだしね」
 マリアンヌとの稽古は死にそうだったし、今までの試合は純粋な技の比べ合いというのとは違っていた。だから、と相手の隙をうかがいながら言い返す。
「本当は、もっと楽しみたいんだけどね」
 だが、貴賓席でルルーシュが不安そうな表情を作っている。だから、いつまでも長引かせるわけにはいかない。
「そうだな」
 ジノにはジノの立場があるのだろう。苦笑とともにうなずいてみせる。
「どっちが勝っても恨みっこなし、と言うことで」
 さらに彼はこう付け加えた。
「了解」
 言葉とともにスザクは刀を振るう。
 ジノの剣もほぼ同時に空を切った。
「つっ!」
 鈍い振動が刀から手に伝わってくる。同時にしびれたような感覚に襲われて刀を握っていられなくなった。
 しかし、ここで刀を手放すわけにはいかない。
「まだまだ!」
 必死に刀の柄を握り直すとジノへと意識を戻す。
「それは私のセリフだ!」
 ジノもまた、こう叫んだ。
 それに被さるように甲高い音が周囲に響く。次の瞬間、競技場に折れた刃が突き刺さる。
「……あっ……」
 今までの打ち合いで刀身にひびが入っていたのだろう。手にしていた刀の根元から折れていた。
 いや、それはスザクの刀だけではない。ジノの剣も同じだ。彼の手にはつばから下の部分しか残されていなかった。
「この場合、勝負はどうなるんだ?」
 ジノが自分が握りしめているものを呆然と見つめながら呟いている。
「得物を変えて再開? でも、日本刀なんてすぐに用意できるのかな」
 スザクも気の抜けた声音でこう言い返した。
「ちょっと待っていろ。今、確認する」
 ダールトンもこれは予想外だったのか。こう言い置くと離れていく。
「とりあえず、一休みしようか」
 判断が出るまで、何もできない。スザクは苦笑とともにジノに声をかける。
「そうだな。しかし、どうしてこういうことに?」
「考えられるのは、一点で受けていたせいでそこだけ疲労していたと言うことだろうけど」
 あるいは金属の目と言われる場所に偶然、お互いの得物が当たったか、だ。どちらにしろ、ほとんどあり得ないことではないか、とスザクは思う。
「再開と言われても、集中力が切れたからなぁ」
 ジノがそう言って苦笑を浮かべた。
「そうだね。そのときは明日にして欲しいかな」
 スザクもそう言ってうなずく。
 そのときだ。
「いいじゃない、引き分けで。二人とも、見事な試合を見せてくれたんだし」
 マリアンヌの声が周囲に響き渡る。
「それとも、あなたはまだ満足しないの? それは私の判断を疑うということよね?」
 彼女はさらに付け加えた瞬間、何故か、観客席が静まりかえった。
「……さすがはマリアンヌ様……陛下相手に脅しをかけるとは……」
 ジノが呟く。
「でも、ルルーシュ達は何も言っていないね」
 それはそれで怖いけど、とスザクも口にする。
「時間の問題だろうな」
 ダールトンがため息とともにそう言った。
「姫様も動かれるようだしな」
 さて、何分、シャルルは踏ん張れるのだろうか。そう続ける彼に『スザクは本当にいいのか』と呟くしかできなかった。



その8

 結果、スザクとジノの両者が優勝と言うことになった。
 しかし、これが騒動の元だった。
「と言うことで、ルルーシュよ」
 己の脇に控えている彼女に向かってシャルルが声をかける。
「何でしょうか、陛下」
 さすがに人前だから、だろうか。ルルーシュは素直に呼びかけに応じている。
「実力が等しいのであれば、家柄で相手を決めぬか? ヴァインベルグは四男とは言え、公爵家の一員ぞ」
 彼はさらにこう付け加えた。
「……何を言っているのですか? 私は、スザク以外の相手を結婚相手として選ぶつもりはありませんよ?」
 そもそも、恋愛結婚をしていいと言っていたのはシャルルではないか。そのくせ、国内では出てもいない芽もたたきつぶしてくれていたようだが、と彼女は続ける。
「と言うわけで、お断りします!」
 ジノが悪いわけではないが、スザク以外考えたくない。彼女はそう言いきった。
「何よりも、両者等しく優勝とは言え、スザクが優勝したことには変わりありませんよね?」
 そう言ったルルーシュの笑みがものすごくきれいだ。
「……まずい……」
 スザクは反射的にそう呟く。
「何が、だ?」
 それが耳に届いたのだろう。ジノが聞き返してくる。
「本気で怒ってるんだよ、ルルーシュがあんな笑みを浮かべているときには」
 目が笑ってない、とスザクは続けた。
「衆人環視の場で馬鹿なことはしないと思うけど、あそこまで怒っていれば自制が効くかどうか」
 シャルルの面目がつぶれる可能性大だ、とため息をつく。
「マスコミを追い出すべきかな」
 ラウンズ権限で、とジノも言い返して来る。
「その前に、姫様に動いていただくのがいいのではないか?」
 ダールトンもこんなセリフを口にした。おそらく、彼もルルーシュが本気で怒ったときの怖さをしているのだろう。
 しかし、だ。
 すべては遅かったと言っていい。
「いい加減にしてください! ご自分でご自分のお言葉を翻すとは皇帝としてどうなのですか? 最低です。これ以上、私の邪魔をされるのでしたら、今すぐ、皇位継承権を返上させていただきます!」
「それはならん!」
 ルルーシュの声に負けないくらい大声でシャルルは言い返す。
「そもそも、お前は日本などに行くことから反対しておったのだ!」
 ついでに、国内とはいえ自分の目の届かないところに行かせてたまるか! とシャルルはさらに叫ぶ。
「……これって、ただの親子喧嘩、か?」
 ジノが呟きたくなる気持ちもわかった。
「というよりは、娘を嫁にやりたくない父親と、結婚したい娘本人の会話?」
 ついでに、その娘の結婚相手は自分だろうか。
「まだ、殴られた方がよかったかもな」
 シャルルに、とスザクは言う。
「それはそれで問題じゃないか?」
 即座にジノが突っ込んできた。
「でも、それなら、アリエス宮内部だけですんだかもしれないよ?」
 衆目を集めることもなかったのではないか。そう告げれば、ジノも納得したらしい。
「とりあえずあの二人を引きはがしてこの会を終わらせないと」
 それができるとすれば、やはりマリアンヌだろうか。それとも、とスザクは口にする。
「陛下!」
 あまりに血圧が上がりすぎたのだろうか。シャルルがゆっくりと倒れていく。そんな彼の体をビスマルクとマリアンヌが支えていた。いや、シャルルだけではない。よくよく見ればルルーシュも頭を抑えてその場にうずくまっている。
「すまないね、みんな。陛下もルルーシュもすばらしい試合に少し興奮されすぎたようだ」
 さりげなくオデュッセウスが前に出てくる。
「すばらしい試合をした者達を、まずはたたえようではないか。そして、優勝した二人に惜しみない称賛を与えよう」
 その言葉を合図に閉会式が粛々と進み始める。ひょっとして、ブリタニアの皇族はこういうときの対処になれているのだろうか。そう思いながらも、スザクも式に臨んでいた。
 後で、ルルーシュの機嫌を取るのだけは大変かもしれない。それだけが不安なスザクだった。

 しかし、今回のことで国民の皇族に対する好感度が上がるとは、誰も予想していなかったに違いない。







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