結婚許可
その1
閉会式でのことがあったからか。スザクとシャルルの直接対面は、ごく内輪で行われることになった。
そうして正解だったな、と今更ながら認識をする。皇帝のあんな姿を国民に見せるわけにはいかないだろう。
何故か、ブリタニア皇帝は柱に抱きついて動こうとしないのだ。
「往生際が悪いわよ、シャルル」
言葉とともにマリアンヌがシャルルの襟首をつかんでいる。
「お父様、みっともないです」
さらにナナリーが彼の腕に抱きつくようにして引っ張っていた。
「あそこまで往生際が悪いとは……国民の目にはさらせないね」
「それだけルルーシュを嫁にやりたくないのでしょうが。本人の意思を考えると妥協せざるを得ないでしょう」
シュナイゼルとコーネリアがこんな会話を交わしているのが耳に届く。
「その気持ちはわかりますわ。日本は遠いですもの」
ユーフェミアがため息混じりに言葉を口にしている。
「ルルーシュが本気でなければ、邪魔をしているところです」
本気だとわかったからあきらめているが、と彼女はさらに言葉を重ねた。
「いっそ、二人でブリタニアにすめばいいんです」
そうすれば、いつでも会えるから。ユーフェミアはそう言って微笑む。
「それは二人が決めることだぞ、ユフィ」
コーネリアがため息をつく。
「そうだね。私たちがいくらあれこれ言っても決めるのは二人だ」
シュナイゼルもそう言ってうなずく。
「もっとも、こっそりと圧力をかけるくらいは許されるかな?」
とりあえず、と彼は笑いを漏らす。
「ルルーシュの心証をよくするためにマリアンヌ様とナナリーの応援をしてこようか」
言葉とともにシュナイゼルが動き出した。
「そうだな。このままではいつまで経っても話が進まない」
「ナナリー一人ではかわいそうですわね」
コーネリアとユーフェミアの姉妹もまた、彼の後を追いかけていく。
「全部聞こえているぞ」
全く、とルルーシュが呟いた。
「私が動けばあのロールケーキはさらに意固地になるだろうし……任せておくしかないのか」
それはそれで面倒なのだが、と彼女は付け加える。
「当事者が出ていくと話がややこしくなるからね。マリアンヌさんに任せておくのが一番じゃないかな?」
スザクはそう言って苦笑を浮かべた。
「しかし、話をする前段階でこれって、すんなりと許可がもらえそうにないね」
そのときはどうするべきか。スザクは小声でそう付け加える。
「そのときは駆け落ちでもするさ」
ルルーシュは明るい口調で言葉を返してきた。
「あちらの出した条件をクリアしたのに交渉の席に着かないような奴とは、縁を切っても痛くもかゆくもないし」
さらに彼女がそう付け加えたときだ。
「ルルーシュ! お前は本気なのか?」
しっかりとこちらの会話に耳を澄ましていたらしいシャルルが叫ぶように口を挟んでくる。
「最初から本気ですよ。気づかなかったのですか?」
あきれますね、とルルーシュは言い返す。
「私は許可をもらわなくてもいいと思っていたのですけど、スザクが礼儀を尽くしたいと言うから顔を出したんです」
それが何か? と言い返すルルーシュの周囲の気温が下がっているような気がするのは錯覚だろうか。誰に問いかけることもできないスザクだった。
その2
「身分をくれてやる。だから、ルルーシュとの結婚をあきらめるがよい」
まさか、こんなセリフを言われるとは思わなかった。
「身分よりもルルーシュの方がいいです」
それにスザクはきっぱりと言い返す。
「身分が必要なら、自力で手に入れますし」
さらにこう付け加えた。
「……ブリタニアを敵に回すぞ?」
「そのときは、ルルーシュをつれて逃げるから、大丈夫です」
逃げ切れる自信はある。だから、とスザクは笑って見せた。
「金銭面はどうなのだ?」
そう来るか、と心の中で呟く。
「とりあえず、皇コンチェルンの株は持っていますし、日本でそれなりの不動産もありますから普通に暮らすくらいなら問題はないです」
もちろん、それに甘えるつもりはない。ちゃんと就職をするつもりだ。
「少なくとも、ルルーシュに苦労をかけるつもりはありません」
さすがに、ゲンブのように政治家にはなれないだろう。だが、軍人なら特性があるらしい。そうでなかったとしても、桐原がそれなりに相談に乗ってくれるはずだ。心の中でそう呟いた。
「それなら、ブリタニアの騎士になればいいわ。そうすれば、ルルーシュも皇族のままでいいでしょうし」
騎士と結婚をする皇族がいない訳でもない。そう言ってきたのはユーフェミアだ。
「スザクさんはラウンズにも負けませんものね」
ナナリーも嬉しそうにそう言う。
「ごめん……さすがに皇につながる人間が他国の騎士になるのはまずい」
そうできれば楽だけど、とスザクは二人に言い返す。
「あぁ、そう言う口実もあったな」
ルルーシュがどう言ってうなずく。
「ブリタニアと日本の絆を深めるために降嫁する、と言うことにすれば皆は納得するか」
もっとも、とルルーシュは微笑む。
「私も、スザクだから結婚したいと思ったのだし。そうでなければ、結婚なんて考えもしなかったな」
ついでに出奔していただろう。彼女はそう続ける。
「シャルル。いい加減にしないと孫の顔を見られないどころか、ルルーシュが帰って来なくなるわよ」
マリアンヌが援護射撃をしてくれた。
「往生際が悪いわね、本当に。娘の幸せを願うなら、さっさと許可を出しなさい」
そうでなければ、と彼女は言葉を重ねる。
「私もナナリーを連れて家出をするわよ」
この一言がシャルルには一番の恐怖だったのだろうか。
「マリアンヌ……」
完全に血の気が失せている。
「何なら、貴方たちも一緒に来る? シュナイゼルとオデュッセウスは悪いけど居残りね」
ブリタニアが立ちゆかなくなるから、と続けるあたり、マリアンヌは本気らしい。
「母さんならやるな」
前例がある、とルルーシュが呟く。
「わかった!」
だから、シャルルはあんなに慌てているのだろう。
「当面は、それをルルーシュの婚約者として認めてやろう」
マリアンヌに家出をされるよりはその方がマシ、と考えたのか。彼はそう言いきった。
「ただし、結婚は二人が大学を卒業するまで認めん! それまでに不埒なまねをしたり、ルルーシュの婿としてふさわしくない行動を取ったら即座に婚約は解消だ!」
よいな、と言う彼の目尻がぬれているような気がするのは錯覚ではないだろう。
「そんな日は永久に来ないだろうからかまわないですよ」
なぁ、とルルーシュがスザクに同意を求めてくる。それにスザクはうなずき返す。
「もちろん。でも、キスぐらいは解禁してください」
それもなしだと辛い、と思わず本音を漏らしてしまう。
「恋人なら、そのくらいは当然よ。母さんが許可をします」
マリアンヌが即座にこう言ってきた。
「ちなみに、あなたに拒否権はないわよ」
そう言う彼女がやはり最強なのかもしれない。そのおかげで婚約が認められたのだからいいか。スザクはそう考えることにした。
小休止?
アリエス離宮に戻ってきたときにはもう、星がはっきりと見えていた。
「……疲れた」
スザクはそう呟いてしまう。
「あのロールケーキがあそこまで往生際が悪いとは思わなかったからな」
苦笑とともにルルーシュが言葉を口にする。
「それだけ、お姉様にそばにいて欲しいのですわ」
ナナリーがシャルルを擁護するようにこう言った。
「……それが鬱陶しいんだ」
もう少し方っておいてくれればいいのに。ルルーシュはそう付け加えた。
「兄上や姉上方はもちろん、ユフィにもここまで鬱陶しいくらいまとわりついていないぞ」
唯一の例外はマリアンヌぐらいだ。しかし、彼女の場合、妻なのだから当然なのかもしれない。
「私にも自主性はあるのだしな」
その言葉には納得できる。
「ルルーシュは好みがはっきりしているもんね」
服にしても友人にしても、だ。しかし、だからと言ってすべての人々を拒絶しているわけではない。単に、知人から友人へ昇格するためのハードルが高いだけだろう。
「そう言う私がスザクを選んだんだという意味を理解できない父親なんて必要あるか?」
日本に行ってからの学費や生活費は自分で稼いでいた。シャルルから受けたものは妨害だけだし、とルルーシュは続ける。
「まぁ、そのおかげでスザクと出会えたから、いいけどな」
これ以上、邪魔されなければ、だ。ルルーシュは力一杯、そう主張した。
「それに関しては、私とお母様で何とかします」
ナナリーがそう言ってくる。
「任せておいてください」
にっこりと微笑みながら彼女はそう続けた。
「当てにしている」
同じような微笑みを浮かべるとルルーシュはうなずいてみせる。
「もっとも、あのロールケーキを封じても別の問題が出てくるだろうがな」
結婚式が近づけば近づくほど、と彼女はため息混じりに口にした。
「……それは、もう覚悟している」
乾いた笑いとともにスザクはそう言い返す。
「最悪、式はこちらで披露宴は二回?」
いや、式自体二回になるのだろうか。
「どちらにしろ、神楽耶と、こちらの代表と話をつめてもらうことになるかな?」
もう、丸投げするのが一番無難なような気がする。
「ルルーシュと結婚できるなら、どんなことでも我慢できるよ」
スザクはそう付け加えた。
「でも、さすがに暗殺者を送られるのは勘弁して欲しいけどね」
これは冗談のつもりだった。しかし、だ。
「……母さんにしっかりと頼んでおこう」
ルルーシュは真顔でこう呟く。
「大丈夫ですわ。お母様はスザクさんがお気に入りですもの」
さらにナナリーもこう言ってみせる。
「日本に帰るまで、これ以上の厄介事が起きなければいいな」
スザクはささやかな願いを口にした。
実際、結婚式までさらに紆余曲折があったのだが、それはまた別の話と言うことで。
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