文章修行家さんに40の短文描写お題


01. 告白

 視界が歪む。鼓動はさらに高まっていく。
 それでも、藤色の瞳だけははっきりとわかる。
 喉が渇く。
 だが、視線をそらすわけにはいかない。
――そして、ゆっくりと唇に言葉を乗せた――




02. 

 微かに視線をそらす。
 一瞬、手を握りしめる。
 そのまま、そっとと息を吐き出した。
 ゆっくりと瞬きをしてから今度は視線を合わせてきた。
――君が嘘を付くときの癖――




03. 卒業

 差し出される花束。
 舞い飛ぶ紙吹雪。
 耳に届く歓声。
 その中に、黒髪を見つけて息をのむ。
 しかし、そこには大切だったアメジストは存在していなかった。
――俺は、忘れない――



04. 

 また一枚、写真を増やす。
 それは、自分のための記憶。
 アルバムの中にしまうと、もう二度と視線を向けることはない。
 だが、そこに存在している。
――それでも私は一人だった――



05. 学ぶ
 
 ページをめくる。
 そして、そこに書かれた文字を読む。
 頭の中でまとまったイメージをコンピューターでシミュレートした。
 何度も、何度も。
――でも、世界は見えていなかった――



06. 電車

 窓の外で、彼女が微笑んでいる。
 人々が、その微笑みを見つめている。
 それを見ていられなくなって、視線をそらす。そこにも彼女の微笑みがあった。
――自分には向けられない微笑み――



 07. ペット

 ソファーの上で丸くなっている。その柔らかそうな腹部が小さく上下していた。それなのに、手を伸ばすと同時に手の甲に赤い線が刻まれる。
――酷いよ、アーサー――



08. 

 黒のキングを握りしめる。そのまま、その先端をなで続けた。堅くて冷たいはずのそれから温もりを感じるのは、それだけの時間、続けていたからか。
――それだけ、緊張をしているのか――



09. おとな

 笑顔が向けられている。その唇が綴る言葉は耳障りがいい。
 しかし、離れると同時にその唇が綴るのはさげすみの言葉だけだ。
――それを、あの子にだけは気付かせたくなかった――



10. 食事

 下ごしらえをしよう。
 その身を覆っている余計なものを取り去り、隅から隅まで磨き立てる。
 そして、新鮮なまま、食卓へと乗せるのだ。
――だから、大人しく食べられて?――



11. 

 幾万もの文字が並んでいる。
 それらが描き出しているのは、一人の女性の偉業だ。
 しかし、それすらも彼女の全てを描ききることが出来ない。
――彼女は気まぐれだから――



12. 

 君が微笑んでいる。
 その側で、彼女たちが静かに語り合っている。
 君の視線が僕の姿をとらえた。そのまま、君は僕を手招いてくれた。
――もう二度と見られない光景――



13. 女と女

 青い瞳がにらみつけてくる。
 それを受けて、琥珀が細められた。
 次の瞬間、顔が歪められる。
 その手が振り上げられた。
 真っ直ぐに迫ってくる。
――最後まで、あいつを信じられなかったお前の負けだ――



14. 手紙

 ペン先が、何度も紙の上に下ろされる。
 しかし、それが動き出すことはない。
 気が付けば、付けられたインクが乾いている。
 だが、まだ文字は綴られい。
――いいわけは、出来ないから――



15. 信仰

 彼がいれば大丈夫。
 彼がいれば負けるはずはない。
 そういう者達の言葉が重いと感じないのか。その背は今日もまた真っ直ぐに伸ばされていた。
――君は辛くないのか?――



16. 遊び

 白のボーンが、ボードの上から消える。しかし、その代わりに、黒のビジョップを奪われた。それでも構わずに、次の駒へと手を伸ばす。
――怖いものを知らなかった幼い日――



17. 初体験

 スロットルへと手を伸ばした。ペダルを踏み、ゆっくりと前進させようと試みる。
 だが、次の瞬間、鈍い音を立てて機体が転がった。
――こんなはずではなかったのに――



18. 仕事

 モニターに映し出される文字を手早く読み取っていく。
 優先順位を決めそれ以外は切り捨てる。
 そのまま、行うべき内容を文字で記した。
――残される者達へ、せめてもの謝罪――



19. 化粧

 目の前に並べられる、様々な道具。どうして、これほどまでに多くのものが必要なのか。考えた瞬間、思わずため息がこぼれ落ちてしまった。
――普通、男には必要ないと思いますが?――



20. 怒り

 大きく空いた穴。そこには、土塊しか残されていない。
 ここから再び命が芽吹く日が来るのだろうか。
 問いかけても、誰も言葉を返してくれない。
――いったい、自分は何を作ってしまったのか――



21. 神秘

 自分の回りにはたくさんの人がいる。
 それなのに、一人きりでいるような感覚がするのはどうしてだろうか。
 でも、一人にはなりたくない。
――それが後悔の始まり――



22. 

 唇をかみしめる。そのまま、真っ直ぐに相手の顔を見つめた。
 彼は視線をそらす。
 だが、すぐににらみ返してきた。
 目をそらせない時間が続く。
――負けるものか――



23. 彼と彼女

 ふっと目を細める。
 無意識のものらしい笑みが口元に浮かんでいる。
 それは記憶の中のものによく似ていた。
 顔立ちは、似ていないのに、ね。
――やはり兄妹なんだ、君達は――



24. 悲しみ

 薄紅色のドレスが赤く染まっていく。
 そのまま、ゆっくりと体が崩れ落ちていく。
 その代わりに、黒ずくめの姿が視界の中に現れた。
――どうして……――



25. 

 その体は、もう、動かない。
 休息に温もりが失せていく。
 同時に、見つめている自分の脳裏に、かつての姿が色鮮やかによみがえってきた。
――あの時のお前は、間違いなく生きていた――



26. 
 何度、手を伸ばしても、掴むことが出来ない。

 与えられたと思った瞬間、奪われる。
 だから、何よりもそれが欲しかったのだ。
 以前は……
――今は道連れがいるからな――



27. 芝居

 口元に皮肉げな笑みが浮かんでいる。
 背筋は真っ直ぐに伸ばされていた。
 いつもと変わらないその態度。
 だから、強がりだと気が付かなかった。
――知っていたら、私は……――



28. 

 抱きしめれば、腕が余る。もちろん、柔らかな感触は伝わってこない。
 同じ性だから、というだけではないそれに、思わず眉根がよってしまった。
――どうして、一人で全部背負おうとするの?――



29. 感謝

 人々が笑っている。自分のために出来ることをしている。
 そして、誰かのために手を差し伸べている。
 そんな当たり前の日常が目の前にある。
――それを真に与えてくれた人の名をののしりながら――



30. イベント

 うんざりとしている表情は嬉しい。
 こう言うときに困らせなくてどうするのか。
 でなければ、完璧すぎて誰も彼に近づけないような気がするから。
――何よりも、自分が楽しい――



31. やわらかさ

 卵色のそれがふるふると震えている。その上に、焦げ茶のとろりとした液体をかける。それと卵色の物体をスプーンですくうと口へと運んだ。
――一瞬だけの幸せ?――



32. 痛み

 呼吸をすることも出来ない。こめかみを何かが叩くような音がする。意識を失うことすらも出来ない。ただ、乾いた瞳で世界を見つめるだけだ。
――怒りと痛みはよく似ている――



33. 好き

 自然と、視線が向いてしまう。
 気が付けば、相手のことを考えている。
 無理矢理無視をしようとした。
 でも、どうしても出来なかった。
――君を嫌いになれなかった――



34. 今昔(いまむかし)

 ここには、壮大な宮殿があった。美しいそこには大勢の人々がいた。自分の母もその中の一人だった。
 しかし、今は、巨大な穴が残されているだけ。
――それも、自分の罪――



35. 渇き

 目に映る全てのものが色あせてしまう。
 それでも、風は吹くし雲は流れていく。
 世界は変わらずにあるのに、自分だけがそれを楽しめない。
――だって、君がいない――



36. 浪漫

 馬の蹄がリズムを刻んでいる。
 それに車輪の音が合いの手を入れていた。
 それに身を任せながら、ゆっくりと進んでいく。
 世界もまたゆっくりと進んでいく。
――いつか、また会いに行けるだろうか――



37. 季節

 淡いピンクが風に舞うとどうして白くなるのだろうか。
 目の前に広がる花びらのカーテンを見ながら、そう思う。
 その潔さに、別の白が思い浮かんだ。
――死に衣装だ、と君は笑ったね――



38. 別れ

 まだ温かい体が、自分の腕からもぎ取られる。
 忠実な騎士の手によって、その体は連れ去られた。
 永遠に、私の前から。
――それが、私への罰なのでしょうか――



39. 

 触れる肌。
 刻む鼓動。
 肉を裂く感触。
 その瞬間、心の中をよぎったのは歓喜だろうか。
 それとも、悲しみか。
 今でも、わからない。
――その瞬間、君は永遠になった――



40. 贈り物

 白い雪が降りそそぐ日。
 一時だけ見せられた夢。
 それが覚めた瞬間、思い出す。
 今日がいったい何の日だったかを。
 心の痛みと共に。
――今日は、君の誕生日だったね――







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10.06.28 up