学校へ行き、リヴァル達とたわいのない会話をする。
 時には、政庁へ向かいユーフェミアのフォローをしつつお茶を共にする。それにコーネリアが同席するのも、いつものことだ。
 そして、それらの時間も含めて多くの時間をスザクと共有している。それすらも日常と感じられるようになって久しい。
 別に、それに関しては文句はない。ないのだが、とルルーシュはため息をつく。
「いい加減、結論を出さないといけないだろうな」
 この状況はとても心地よい。しかし、とルルーシュは心の中で付け加える。この状況がいつまでも続くとは思えない。
「何よりも、あいつのためにならない」
 今はよくても、いずれ困った事態になるのではないか。だからといって……とため息をついたときだ。
「何が誰のためにならないって?」
 いきなり背後から声がかけられる。それに慌てて振り返ろうとした。しかし、それよりも早く、彼の腕がルルーシュの体を背後から抱きしめる。
「……スザク……」
 頼むから脅かすな、とそう言い返す。
「ぼーっとしていたのはルルーシュだろう?」
 自分が帰ってきたことにも気がつかなかったではないか。そう言い返されては反論のしようもない。でも、とルルーシュは口を開く。
「それでも、声をかけるのが礼儀だろうが」
 スペアキーを取り上げてやろうか。そんなことも考えてしまう。
「うん。次から気をつけるよ」
 でも、とスザクは口にする。
「それで? 誰のことを言っているの?」
 本当にしつこい。そう言いたくもなるが、同時に彼は何かを察しているのかもしれない。ルルーシュはそんな気持ちになった。
「……わかっているなら、聞くな」
 とりあえず、こう言い返す。
「だって、僕が間違っているかもしれないでしょ?」
 だから、きちんと確認しないと……といいながら彼は抱きしめる腕に力をこめた。
「スザク……痛いぞ」
 もう少し、力を緩めろ……とルルーシュは告げる。
「やだ」
 ルルーシュを補充しないと元気も出てこない。スザクは真摯な口調でこう告げた。
「だから、傍にいることだけでいいから、認めて」
 自分の気持ちを受け入れて欲しいとは言わないから、と彼はさらに言葉を重ねる。それでも、ずっと傍にいてルルーシュを守るから、とも。
「……バカだな、お前は」
 どうしてそこまで自分を優先できるのだろうか。その理由はわからない。もちろん、彼が傍にいることが嫌なわけがない。
「俺よりも、もっと素敵な相手に出逢えるかもしれないのに、自らそのチャンスを手放すつもりか?」
 たとえ名誉ブリタニア人であろうと、ラウンズという身分があれば問題はないはずだ。
「ルルーシュ以上の人間なんていないよ」
 相手が皇女様であろうとも……とスザクは笑う。
「僕にとって、ルルーシュ以上の人間なんていない」
 真顔でそう言われて、ルルーシュは自分の顔が紅くなったのを自覚した。同時に、嬉しいと思ってしまうのはどうしてなのか。そう思ったときだ。
「……見ていて微笑ましいけどね」
 あきれたような声が飛んでくる。
「……V.V.様?」
 何故、彼がここにいるのだろうか。そう思いながら視線を向ける。そうすれば、スペアキーを見せつけるように手にしている彼の姿が確認できた。
「アンドレアスからビスマルクが預かったらしくてね」
 それを拝借してきたのだ。そう言ってV.V.は微笑む。
 しかし、問題なのは彼ではない。
「……何故……」
 彼の背後にいる人間だ。
「決まっているんじゃないかな」
 ルルーシュを抱きしめたままのスザクが口を開く。
「君に会いに来られたんでしょう」
 V.V.がいるなら、正規ルートを通らなくてもいい。そして、何かあれば直ぐに戻れるだろう。
 それはそうなのかもしれないが、とルルーシュはため息をつく。
「だからといって、皇帝陛下が一市民の家へ護衛もなく訪ねてきていいのか?」
 万が一のことがあったらどうするんだ? とルルーシュは思わず問いかける。
「ここまでおいでになれば僕もいるし……アーニャも一緒だから」
 第一、あの特徴的な髪型をしていなければ、直ぐには彼が《シャルル・ジ・ブリタニア》だとわからないのではないか。
 そう言われても……反論しようとしかけて、ルルーシュはあることに気がついた。
「……髪……」
 あの特徴的な巻き髪が今は普通に下ろされている。ある意味、それは慣れ親しんだ姿だ。だから、気にならなかったのか。ルルーシュはそう心の中で呟く。
「こうしておけば、よく似ている別人で通用するからね」
 しかも、自分が傍にいると親子にしか見えないし……とV.V.は笑いながら付け加えた。その瞬間、シャルルが思いきり嫌そうな表情を作ったのは否定できない。
「まぁ、たまにはいいんじゃないかな」
 さらにライまでもが顔を出す。
「……ここのセキュリティはいったいどうなっているんだ?」
 いくらシャルル達とはいえ、こうも簡単に侵入できてどうする。ルルーシュは思わずこう呟いてしまう。
「落ち着いて、ルルーシュ」
 混乱しているのがわかったのだろうか。スザクが耳元で囁いてくる。
「とりあえず、お茶でも出したら?」
 確かに、訪ねてきた相手をいつまでも立たせておくのは礼儀に反するのではないか。しかも、相手は一応、この国で一番偉い相手だ。
「そう、だな」
 お茶ぐらいは出すべきだろう、とルルーシュは頷く。
「……とりあえず、適当に腰を下ろしてください」
 言葉とともにお茶を用意しようときびすを返す。
「手伝おうか?」
 即座にスザクがこう声をかけてきた。
「いい。それよりも、あちらの相手をしていてくれ」
 気持ちは嬉しいが、あれこれ壊されそうで怖い。どうしてもというのであれば、後で特訓を受けてからにしてくれ。そうも続けた。
「……しかたがないね」
 こう言って、スザクは引き下がってくれる。それを確認してから、ルルーシュは今度こそキッチンへと向かった。

 シャルルはルルーシュの作ったお菓子をいたく気に入ったらしい。その事実に気付いて、ルルーシュはさりげなく、自分の前に置かれていたそれを彼へと差し出す。
「ところで、さ」
 不意にスザクが口を開く。それに、何故かルルーシュは嫌なものを感じてしまった。
「……今、必要な話か?」
 反射的にこう聞き返す。
「今じゃないと意味がないかな?」
 というよりも、シャルルとルルーシュが同席していないと……とスザクは爽やかな笑顔で付け加える。それがルルーシュの疑念を確実なものへと変えてしまった。
「……何もしゃべるな、お前は!」
 反射的にこう命じる。
「え〜! 何で?」
 シャルルとならいつでも話しているぞ、とスザクは即座に反論をしてきた。二日に一度はルルーシュのことを報告しているから、と彼が付け加えた瞬間、シャルルが、気まずそうに視線をそらす。
「陛下、ルル様の話を聞いた後は嬉しそう」
「……まぁ、その位は妥協してやってくれないか?」
「気にかけて貰っていると言うことだよ」
 さらに、その場にいた他の三人が口々にスザクを擁護するようなセリフを口にした。それに、スザクは満足そうな笑みを浮かべる。
「とりあえず、言ってみよ」
 さらにシャルルがこう言っては、もうルルーシュには止めようがない。それでも、自分は不本意だと告げるために盛大にため息をつく。
「ここで『息子さんを僕にください』というのは、やっぱりお約束かな、と」
 その瞬間、周囲の空気が凍り付いた。
「……クルルギ?」
 今一度言ってみろ、とシャルルが聞き返す。
「ずっと一緒にいるためのお約束の言葉ですが?」
 一種の様式美のようなものだ、というセリフには納得できる。そして、その前のセリフも間違いではないということも知っていた。だが、と思いながらルルーシュは立ち上がる。
「それは結婚の許可をもらいにいく時のセリフだろうが!」
 そして、手近にあったお盆を掴むと、このセリフと共にスザクの頭に振り下ろした。
 もっとも、あっさりと避けられてしまったが。
「本当に仲がいいね」
 この一連の流れを見て、あっさりとこう言えるV.V.は凄いと言うべきか。
「大丈夫だよ、シャルル。ルルーシュが大学を卒業するまでは、僕も傍にいるから」
 さらに微笑みながらライが口を挟んでくる。
「もっとも、ルルーシュが許可を出したら、邪魔はしないけどね」
 そのあたりは妥協してよ? と彼は続けた。
「流石に、馬に蹴られたくないから」
 この言葉に、ルルーシュはどう反応をしていいのかわからない。
「大好きだよ、ルルーシュ」
 満面の笑みと共にスザクはこう言ってくる。
「儂は認めんぞぉ!」
 シャルルの雄叫びが室内に響いた。
 ある意味、今後のことを考えれば頭が痛くなってくる。それでも、こんな日常がいやではない。だから、構わないか。
 スザクのことも嫌いではないし。
 いつかはそうなるのかもしれない。でも、今は……と思いながらルルーシュはお盆を握り直す。
「そう言うことは、義父上の前でやれ!」
 ついでにいっぺん殺されてこい。この言葉とともにまたそれを振り下ろす。今度は間違いなくスザクの脳天にそれはヒットをした。






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09.09.04 up