「……日本のごちそうといえば、寿司か」
 しかし、とルルーシュは小さなため息をつく。にぎり寿司はもちろん、巻き寿司とやらもそれなりの技量がいる。そばに教えてくれるものがいればともかく、今の自分では難しい。
「となると……ちらしか」
 これならば、材料さえ揃えば何とかなる。
「……多めに作れば、多少はスザクの口にも入るだろう」
 特派の食生活は貧しいのか、ルルーシュが差し入れに行けば本人の口に入る前に他の者達に食い尽くされてしまうこともあった。
 最近は、それを防止する意味もあって、スザクの分は最初から別にしておくことにしている。
 だが、それすらも奪われてしまうこともあるのだ。
「後は……彩りにおひたしか? あぁ、のりで巻いていけばいいか」
 あれは見た目が綺麗だから、とルルーシュは呟きながら、材料を用意していく。
「後は……唐揚げか」
 寿司に合うかどうかはともかく、スザクが好きだから、これは欠かせないだろう。
「……デザートは、果物か……あっさりとしたケーキならば大丈夫か?」
 いっそ、ゼリーか何かの方がいいかもしれない。
 それならば、オレンジと甘夏があるから、それでゼリーを作って持っていこう。のどごしもいいだろうし、と脳内で献立を組み立てていく。
「よし」
 大丈夫だと判断したところで、ルルーシュは作業に取りかかった。

 しかし、予想以上に大量に出来てしまったのは、やはりすし酢とご飯の割合がわからなかったからかもしれない。
 それをお重に詰めて、なおかつ勢いで追加したサラダ等をまとめればかなりの量になってしまった。
「……持っていくしかないな」
 義兄達は戻ってきたとしても手をつけてくれるかどうかわからない。ならば、とルルーシュは開き直る。
「……アッシュフォード学園まではタクシーを使えばいいか」
 多少の贅沢をしても、これらを無事に持っていく事が先決だ。そう判断をして、料理を入れた鞄を持ち上げる。
「……やはり、作りすぎたか」
 ずしりと来る重さによろよろとしながらもルルーシュは歩き出した。
 それでも、帰りには軽くなるんだろうな、とそんなことも考えてしまう。作った料理をおいしく食べてもらえるのが嬉しい、と心の中で呟きながら玄関を出たときだ。いきなり、目の前に皇族専用車が停車した。
「ルルーシュ!」
 中からユーフェミアが声をかけてくる。
「……ユーフェミア殿下」
「ユフィです!」
 そう呼んで、と言っているでしょう? と彼女は頬をふくらませてみせた。しかし、すぐにそれを和らげる。
「スザクの所に行くのでしょう?」
「……はい」
「わたくしも、ですわ。なら、ご一緒しませんか?」
 そうすれば、特派のトレーラーまで乗り付けられる。そう彼女は続けた。その言葉に、ルルーシュは思わず頷いてしまった。

 二人揃って現れたルルーシュとユーフェミア――と言うよりは、皇女であり副総督であるユーフェミアの方だろうか――に特派の面々は慌てている。
「スザク!」
 しかし、それを気にすることなくユーフェミアは奥にいるスザクに声をかけた。
「ルルーシュと一緒にお祝いに来ましたわ」
 お時間はありまして? と手を振っている彼女の隣で、ルルーシュは苦笑を浮かべることしかできない。
「スザク君……お二人のお相手をして上げて」
 セシルはセシルで困ったような微笑みを浮かべながら彼に命じている。
「あぁ、それならばキッチンを貸してください。スザクのお祝いに料理を作ってきたのですが、ちょっと作りすぎたので……よろしければ、皆さんにも」
 お茶も用意するから、とルルーシュは付け加えた。その瞬間、あちらこちらから歓声が上がる。
「あら、ルルーシュくん。それならば、副総督とスザク君の分だけでいいわ。みんなの分は私が用意するから」
 しかし、セシルのこの言葉に何故かその歓声はしぼんでしまった。その理由は、今ならわかる。
「……ルルーシュ」
 大丈夫なのだろうか、と悩んでいる彼の耳に、スザクの声が届いた。
「あぁ。でしたら、取り分けますので……ユーフェミア殿下もご一緒されますか?」
「もちろんですわ」
 当然でしょう? と言い切られて、ルルーシュだけではなくスザクもどう反応をすればいいのか、悩む。だが、彼女がそのつもりなのであれば、それ以上何も言えない。
「やっぱり、キッチンを貸してください。取り分けますから」
 彼女の分を、と言外に付け加えればセシルも納得してくれたのか。
「手伝うわね」
 今日は何を作ってきたの? と口にしながら歩み寄ってくる。その途中で、スザクに「控え室にご案内をして」と言うのを忘れないあたり、流石だ。
「ちらし寿司です。後は、いつもと代わり映えしませんが……」
「ルルーシュ! 大好き!!」
 その瞬間、スザクがこう言って抱きついてきた。
「スザク!」
 お前は……とルルーシュは相手をにらみつける。
「料理を落とすだろうが!」
「大丈夫だよ。そうしたら、僕が全部食べるから」
 と言うよりも、自分のために作ってきてくれたんだから、全部食べる権利がある! と彼は言い切った。
「他にもプレゼントはある! だから、我慢をしろ」
 二人のいつものじゃれ合いに、いつものように笑い声が響いてくる。
「ずるいですわ。わたくしも交ぜてください」
 そんな彼等にユーフェミアまでもが抱きついてきた。こうなれば、本気で収拾がつかないような気がする。
 それでも、こんな日々が幸せだと思ってしまう自分がいることに、ルルーシュは気付いていた。







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