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恋は戦争?

風鈴草


 あの後、ものすごい騒ぎになったらしい。ナナリーがそう教えてくれた。
 しかし、彼女も先にこちらに戻ってきたせいか。詳しいことはわからないらしい。
「……ルルーシュが帰ってきたら教えてくれるのかな?」
「たぶん。私たちが知っていてもいいことは、教えてくださると思います」
 スザクの問いかけに、ナナリーはこう言った。
「やっぱ、全部は無理か」
 自分達はまだ子供だから、とスザクはため息をつく。
「たった五つしか変わらないんだけどな」
 それでも、その五歳差が大きな壁になっているような気がする。
「本当ですわね」
 同じ年だからか。ナナリーも似たような感情を抱いていたらしい。
「せめて、あと少し上だったなら、もう少し違っていたのでしょうか」
 ルルーシュは十三歳の時からマリアンヌや異母兄達の手伝いをしていたのだ、と彼女はため息をついた。
「それって、ルルーシュが人一倍優秀なだけじゃね?」
 ひょっとして、とスザクは言う。
「十三って、普通ならまだ学校に通っている年齢だろう?」
「……そう言われてみればそうかもしれません。ユフィ姉様はまだ学生ですし」
 三ヶ月しか変わらないのに、と彼女は付け加えた。
「……とりあえず、後で親しい人と年齢、紙に書いて教えてくれるか?」
 何ヶ月違いと言われても、とスザクはため息をつく。
「そうですね。私には普通だったから他のお家では違うのだと言うことを忘れていました」
 ナナリーが慌てて言葉を口にする。
「気にしなくていいって」
 兄弟という点でなければ、自分の実家もかなり複雑な親戚関係だったし、と言い返す。
「ただ、間違えたら申し訳ないだろう?」
 ルルーシュとナナリーに、とスザクは続けた。
「大丈夫です。お兄様か私がお教えしますから」
 間違えても、と彼女は微笑む。
「お母様もおっしゃっておられます。一度目の失敗は笑って許していいのだって」
 でも、二度目からは本気で怒ると言っておられました……と彼女は言葉を重ねた。
「……それはそれで怖いような気がする」
 彼女らしいと言うべきか、とスザクは心の中だけで付け加えた。
「とりあえず、今、すぐに書きますね。でも、写真もあった方がいいですわね。この前のお茶会の写真があったはずですから……」
 ちょっと待ってて、と言うとナナリーは立ち上がる。そのまま駆け出していく彼女の背中をスザクはただ見送るしかできなかった。

 玄関からまっすぐにこちらに向かってくる足音が聞こえる。
「お帰り、ルルーシュ。それにマリアンヌさんも」
 ドアが開くと同時に、スザクはそう言った。
「お兄様にお母様?」
 彼の言葉を聞くと同時にナナリーも顔を上げる。
「ただいま、ナナリー。留守番をさせて済まなかったな、スザク」
 ルルーシュは微笑みながらこう言う。
「だが、お前が来ていなくてよかったよ」
 あの混乱では別の意味で大変なことになっていたかもしれない。彼はそう言いながら空いているいすに腰を下ろした。
「そうね。でも、これからもそう言うことがない、とは言えないわよ?」
 どうするの? とマリアンヌが問いかけてくる。
「一応、シュナイゼル兄上とコーネリア姉上、それにクロヴィス兄さんには話をしてあります」
 マリアンヌが引き取った、と言うことで納得してもらった。そう彼は続ける。
「とりあえず、仲のよい者達を招いてお茶会をすることに決まりました」
 そのときはマリアンヌもいてほしい。言外にルルーシュはそう告げた。
「それはいいわね。彼らを巻き込んでしまえば、他の誰も文句を言えないでしょうし」
 きっと、彼らもスザクを気に入るだろう。平然と言い切る彼女の言葉に、スザクは首をひねる。
 自分は日本人なのに、そんなことがあり得るはずがない。ここにいる者達だけが例外なのだ。そう考えていたのだ。
「とりあえず、会ってみればわかるわよ」
 大丈夫だから、とマリアンヌは微笑む。
「そうですわ、スザクさん。お兄様方もお姉様方もお優しいから大丈夫です」
 ナナリーもそう言って笑った。
「そうそう。それでも心配ならルルーシュにひっついてなさい」
 それが一番安全だから、とマリアンヌは言い切る。
「母さん」
「だって、そうでしょう? スザク君はあなたやナナリーより強いわ。ついでに、これから、母さんが徹底的に仕込むし」
 仕込むって、何をですか? と考えると同時に背筋に悪寒が走った。
「大丈夫。十五になる前に騎士になれる程度の実力はつけてあげるわ」
 シャルルのそれにも負けないくらい、と付け加えられても意味がわからない。
「こいつをラウンズにでもするつもりですか?」
 ルルーシュがため息とともに問いかける。
「ラウンズ?」
 何だ、それと……と思わず聞いてしまった。
「お父様直属の騎士で、全部で十二人まで認められます。お母様も、元はそのお一人だったのですわ」
 ブリタニアでも屈指の実力の持ち主だ、とナナリーが教えてくれる。
「あなたの騎士に決まっているでしょう?」
 うふっとマリアンヌは笑いを漏らす。
「好きだと言ってもらえる相手に守ってもらうのが一番よ」
 だから、自分はシャルルの騎士であることをやめないのだ。そう言って笑うマリアンヌは、ルルーシュとは違う意味できれいだと思えた。

 ルルーシュのきょうだい達に会うのだから、とできる限り礼儀正しくしようと考えていた。考えていたのだが……
「姉上!」
 まさか、出会い頭に斬りかかられるとは思わなかった。気配を感じると同時によけなければ、間違いなく死んでいただろう。
「スザク、大丈夫か?」
 反射的にルルーシュの横まで退けば、彼がそう問いかけてくる。
「大丈夫だけど……反撃は、まずいよな?」
 それにこう聞き返す。
「当面は、な。たぶん、すぐに母さんから許可が出ると思うぞ」
 それまでは逃げ回れ、と彼は言う。
「了解」
 なら、ついでとばかりにルルーシュを抱き上げる。
「スザク?」
「とりあえず、マリアンヌさんのとこまで、だって」
 さすがに、それ以上の距離をルルーシュを抱えて逃げ回るのは難しい。少なくとも、今は、だ。後数年たった後なら、一日中だって逃げてみせるが……と思う。
「貴様! ルルーシュを盾にするな!!」
 背後からコーネリアの叫び声が追いかけてくる。
「とりあえず、安全なところに置くだけだって」
 そうでなければ、自分が安心できない。スザクはそう言い返す。
「だから言ったでしょ? いい子だって」
 クスクスと笑いながらマリアンヌが口を挟んでくる。
「それとも、まだ、信用できない?」
 少なくとも、ルルーシュを守ろうという気持ちだけは本物よ? と彼女は続けた。
「実力も、今の年齢であなたの初手を避けきれるだけのものはあるわ」
 これからしっかりと教育すればかなりのレベルまで行くだろう。
「ジェレミアには当分、私につきあってもらわなければいけないし、ね」
 楽しみだわ、とマリアンヌが言った瞬間、コーネリアは切っ先を下ろす。
「そうですね。とりあえず、番犬にはちょうどいい」
 ルルーシュのそばに行くことを認めましょう、と彼女は言う。
「ただし、そばに行くことだけ、だぞ!」
 それ以上のことは認めん、と彼女は叫んだ。
「そうですわ。ルルーシュのお嫁さんになるのはわたくしです」
 ユーフェミアがつややかな髪を風になびかせながら、こう宣言をする。
「……いや、それも違うから」
 ため息とともにルルーシュが突っ込みを入れるが、彼女の耳には届いていないらしい。
「何を言っているのかな? ルルーシュは私のお嫁さんになるのだよ?」
 こう言いながら、シュナイゼルが笑う。
「それは全く違う! と言うか、俺は認めていない!!」
 この叫びとともにルルーシュが暴れ出した。まだスザクに抱え上げられているというのに、だ。
「うわっ! 暴れないでってば……落とす!」
 慌ててスザクがそう言えば彼は「すまない」の一言ともに動くのをやめる。それを確認してスザクは彼の体を下ろした。
 その間にも、最後の一人は黙々と鉛筆を走らせている。
「なんか、大変だな?」
 ルルーシュも、と思わずスザクは口にしてしまった。
「……そうだな。ナナリーとお前が一番まともに思える」
 深いため息とともに彼は言い返してくる。
 それを喜んでいいものかどうか、スザクは悩んだ。

「でも、仲よさそうじゃん」
 ぼそっとスザクが言う。
「お前は何を見てそう言うんだ?」
 ため息とともにルルーシュが聞き返してくる。
「ルルーシュ、笑ってるから」
 この言葉に、彼は少しだけ驚いたように目を見開く。
「そうか」
 だが、すぐに彼はこう言って笑った。



11.10.17 up
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