INDEX

恋は戦争?

甘橙


「貴様! ここで何をしている!!」
 少し早めに起きたから、軽く走ろうか。そう思って庭に出た瞬間、こんなセリフを投げつけられる。
「……何って……」
 そう言いながら、スザクが振り向けば、見覚えのない相手が自分をにらみつけているのがわかった。
「朝のランニング」
 ルルーシュとマリアンヌの許可は取ってある、とスザクは言い返す。
 それ以前に、敷地内ならば自由にしていいと言われているのだ。何故止められなければいけないのかがわからない。
「そういうあんたは、何をしているわけ?」
 気に入らない。その感情を隠さずに問いかけた。
「私はこの離宮の警護だ!」
 そう言って相手は胸を張る。
「ふぅん」
 だから、それがどうしたのか。スザクにしてみればそうとしか言いようがない。
「それよりも、早めにランニングを終わらせて戻らないと、マリアンヌさんに怒られるんだけど」
 何よりも切実なのだが、と相手をにらみつける。
「……貴様のような人間があの方に親しげな口をきいても許されると思っているのか?」
 しかし、今度はこんなセリフを投げつけられた。
「言いも悪いも……そうしろって言われてるんだけど」
 彼らから、と言う。
 それをどうして他人からいちゃもんをつけられなければいけないのか。
「貴様! いくらあの方々がそう言われたからとはいえ、拒むのが当然であろう」
 ナンバーズのくせに、と彼が付け加えた瞬間、スザクの中に怒りがわき上がってくる。
「……勝手なことを……」
 自分達が好きで『ナンバーズ』と呼ばれているわけではない。ブリタニアが勝手にそう呼んでいるんじゃないか。そう怒鳴りつけたい。
 それをしないのは、それを言えばルルーシュ達が悲しむと知っているから、だ。
「何も知らないくせに!」
 だから、こう言うだけですませる。
「そうね。あなたが間違っているわよ、ジェレミア・ゴッドバルトくん?」
 その後を続けるように声をかけてきたのはマリアンヌだった。
「まだまだ成人もしていないどころか幼年学校に通うような年齢の子供に何を言っているの」
 その言葉とともに白刃がジェレミアの首筋に押し当てられる。
「何よりも、ルルーシュに言われなかったかしら? ここにいる子供は、みんな、私が我が子同然に思っていると。その子を別称で呼ばないでね?」
 シャルルにも認めさせたのだから、と彼女は微笑んだ。
「……マリアンヌさん。俺、気にしてないから」
 自分のことを言われるのは、とスザクは口を開く。
「でも、日本人のことを馬鹿にするのだけは許せないけど」
 自分達は正々堂々と戦った。それで負けただけなのに、何で直接戦ったわけでもない連中にここまで言われなければいけないのか。
「こいつは軍人なんだろう? なら、弱いものを守るのは義務じゃないのか?」
 ルルーシュもマリアンヌも、少なくとも戦争が終わった後は弱いものを虐げるようなことはしなかった。それなのに、と続ける。
「そうなんだけどね。まぁ、彼の場合、ブリタニア至上主義が行き過ぎているのよ」
 それ以上に、ルルーシュ至上主義だけど……と彼女は笑う。
「そうそう。スザク君をいじめるとルルーシュに嫌われるわよ、ジェレミア君」
 ルルーシュの命の恩人だし、と彼女が付け加えた瞬間、ジェレミアの表情がこわばる。
「……エリア11での?」
「そう言うこと」
 わかったなら、態度を改めるのね……と言うと同時に、彼女は剣を退いた。
「スザク君、ごめんね。この離宮の人間にはきちんと言っておいたんだけど、軍人にはまだだったわ」
 そのまま視線を向けてくる。
「気にしてないです。ここが特別だって、わかっているし」
 これからだって似たようなことを言われるのはわかりきっているし、と口にする。
「だから、マリアンヌさんとルルーシュとナナリーがわかってくれれば、それでいいや」
 彼らだけはどんなときでも自分の味方だろうと思うし、と付け加えた。
「いい子ね、本当に」
 その瞬間、マリアンヌが微笑む。
「と言うことで、先に戻っていて。それから昨日教えた型をおさらいしていてね」
 その表情のまましっかりと指示を出してくれた。
「はい」
 何故、とは思う。しかし、逆らってはいけないことも知っている。だから、スザクは素直にその指示に従った。

 今日もいやになるくらいしごかれてふらふらになりながら建物へと戻る。
「……とりあえず、汗を流さないと……」
 しかし、階段を上るのも辛い。
「いっそ、一階に引っ越しちゃだめかな」
 部屋、と呟きながら階段の手すりに手をかけたときだ。背後に人の気配を感じて慌てて振り向く。
「……ルルーシュか」
 びっくりしたな、と思わずため息をついた。そのまま、その場に座り込んでしまう。
「大丈夫か?」
 これは予想していなかったのか。ルルーシュが驚いたように声をかけてくる。
「ごめん。体力が尽きた」
 しばらくここに座り込んでいれば回復するだろうか。しかし、今の自分はかなり見苦しい格好になっているような気がするし……とぐるぐると考えていた。
「今日はさらに激しかったようだからな」
 仕方がないな、と彼は笑う。
「ジェレミア」
 そのまま視線を移動する彼につられるようにスザクも顔の向きを変えた。そうすれば、今朝会った人間が経っている。しかも、頬に赤いアザをつけて、だ。
「Yes.Your Highness」
 言葉とともに彼はスザクに近づいてくる。
「暴れるなよ」
 そして、この言葉とともに彼の体を肩に担ぐように抱え上げた。これがお姫様だっこでないだけマシなのだろうか。そんなことを考えたのは混乱しているからかもしれない。
「このまま、彼を部屋へ連れて行けばいいのですね?」
 その間にもジェレミアはルルーシュに確認を求めている。
「あぁ。こちらだ」
 彼は即座に歩き出す。
「……ルルーシュ?」
 何でこんなことになっているのか。説明してほしい、と視線だけで問いかける。
「とりあえず、シャワーを浴びてしまえ。話はそれからだ」
 その間にお茶の用意をしておいてやる、とルルーシュが言い返してきた。
「マリアンヌさんとナナリーも?」
「いや。母さんとナナリーには遠慮してもらった。ジェレミアの名誉のためにもな」
 その言葉にスザクは首をかしげる。
「これの名誉?」
 それがどうして二人がお茶に顔を見せないことにつながるのだろうか。そう思わずにいられない。
「ちゃんと説明するから、まずはおとなしく着替えてこい」
 苦笑ともにルルーシュがそう言った。彼がこう言うならきちんと教えてくれるのだろう。
「……わかった」
 でも、どこか釈然としない。
 と言うより、この男が気に入らない、と言った方が正しいのか。それは間違いなく、最初の印象が最悪だったからだ。そんなやつの名誉なんてどうでもいい。むしろ、どこかに投げ捨ててやりたい。
 自力で動ければ、こんなこともされないですむのに。
 こうなれば、早々に体力をつけるしかない。ランニングの距離を伸ばすべきだろうか。それとも、と考えているうちに部屋の前までたどり着いた。
「ここでいい」
 とりあえず、汗を流して着替えるぐらいの体力はあるだろう。それよりもジェレミアに部屋の中に入られるのはいやだ。ここには日本から持ってきたものがあちらこちらに置いてあるのだ。
「……ルルーシュ様?」
「あきらめるんだな、ジェレミア。今回だけは俺も怒っている」
 スザクにそう言われるのは自分の言動のせいだろう、とルルーシュは言い返す。
「とりあえず、スザクを下ろせ。その後のことは自分で考えろ」
「……Yes.Your Highness……」
 ためらいの後で、ジェレミアはスザクの体を解放する。
「おい!」
 次の瞬間、彼はその場に土下座をした。
「先ほどは失礼した。謝って許してもらえるとは思えないが、二度と同じことは言わぬ故、ルルーシュ様の元に来ることだけは認めてほしい」
 スザクとスザクの国をおとしめるつもりはなかったのだ、と彼は言う。
「ルルーシュ?」
「頑固だが、自分の非を認められない人間ではないからな、ジェレミアは」
 だから、本気で言っている。彼はそう言う。
「何で?」
 いきなりどうしたのか。
「ナナリーに『嫌い』と言われたのが効いたんだろう。お前に許してもらえなければ自分の前に顔を見せるな、とも言われていたな」
 本当に余計なところだけマリアンヌに似た、とルルーシュはため息をつく。
「ってことは、こいつの頬が赤いのは?」
「ナナリーだ」
 見事に跳び蹴りを、と彼は額を抑えている。よほどショックだったのだろう。
「そっか……さすがはナナリー。ルルーシュのために強くなるって言うのは本気だったんだ」
 よかったな、ルルーシュ……とスザクは笑った。
「大丈夫。俺もすぐに強くなってルルーシュを守ってみせるから」
 そう付け加えたのは本気だ。
「だから、そいつの一人や二人、気にしないって。外に出ればもっといるんだろう?」
 そいつらからはルルーシュが守ってくれるんだろう? と続ける。
「あぁ」
 お前の方がナナリーよりマシかもしれないな、とルルーシュはため息をともにはき出す。
「でも、俺の方が年上なんだぞ?」
「知っているよ。でも、ルルーシュなんだから仕方がないじゃん」
「確かに、ルルーシュ様だから、私も微力ながら力をお貸しするのだ」
 さらにジェレミアまでが口を開く。
「嫁を守るのは男の甲斐性って言うもんだし」
 そう言った瞬間、ルルーシュは深いため息をついた。
「それは違う。お前にはもう少しブリタニア語の勉強が必要だな、スザク」
 覚えていろ、と彼は言う。
「ルルーシュが教えてくれるならいいよ」
 即座に言い返したこのセリフを後悔する日が来るとスザクはこの時はまだ思っていなかった。



11.11.07 up
INDEX
Copyright (c) 2011 All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-