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恋は戦争?

鉄線


「と言うことで、週末にピクニックに行きましょう」
 帰ってくると同時にマリアンヌがこう宣言をした。
 それは以前からの約束だった。しかし、ずいぶんと唐突だな……とスザクは思う。
「……母さん」
 同じように感じていたのか。ルルーシュがあきれたように彼女に呼びかけた。
「お時間ができたのですか?」
 しかし、ナナリーはとてもうれしそうだ。
「まぁ、そう言うところね」
 彼女がこういった瞬間、ルルーシュが複雑な表情を作る。と言うことは、やはりそれを額面通りに受け取ってはいけないのだろう。
「シャルルは抜きだけど、かまわないでしょう?」
「お父様はお忙しいから仕方がないです」
 マリアンヌの言葉にナナリーはそう言い返した。
「と言うことだから、ルルーシュ」
 小さくうなずくとマリアンヌは視線を移動させる。
「わかっています。詳しいことは後で煮詰めましょう」
 ナナリーとスザクが満足できるように、と彼は言い返す。
「いい子ね」
 さすがは自慢の息子だわ、とマリアンヌはさらに笑みを深める。
 ある意味、それはいつもの光景だと言っていい。しかし、何か、小骨がのどに刺さったような違和感を感じるのは錯覚だろうか。
 そんなことを考えながらルルーシュを見上げる。
 そうすれば、彼と視線が合う。苦笑を浮かべると、彼はスザクの頭にぽんと手を置いた。
「とりあえず、ナナリーとお前は何をしたいのか、紙に書いてこい」
 その間に日程を詰めておくから、と彼は言う。
「……俺たちに聞かせたくない話?」
 思わず、スザクはそう問いかける。
「そうなのですか?」
 ナナリーも不安そうな表情でこう言った。
「そう言うわけじゃない。ただ、いくら相手があのロールケーキが気に入らなくても、名誉は守ってやらないといけないからな」
 とりあえず、とルルーシュは口にする。
「だから、ナナリーは特に聞かないでおいてやってくれ」
 さらに彼はそう付け加えた。
「でも、お父様の浮気ぐらいではもう驚きませんわ」
 いつものことでしょう、とナナリーがさらりと口にする。
「問題はそれではないから」
 でも、ナナリーにそんなことを言わせるなんて……とマリアンヌがあきれたように呟く。
「本当に、お仕置きが必要ね」
 シャルルには、と彼女は笑った。それを見た瞬間、恥ずかしいとは思いつつも腰が引けてしまう。
「母さん……本性が出てます」
 二人が怖がっている、とルルーシュがため息をつく。彼のセリフで、怖がっているのが自分だけではないとわかった。だからといって、喜べるかというと別問題だが。
「あら」
 マリアンヌはマリアンヌで意外だったらしい。
「貴方たちのことを言っているわけじゃないのに」
 どうしてそこまで怖がるのか、と彼女は首をかしげる。
「……マリアンヌさんが本気だから、かな?」
 ルルーシュの服の裾を握りしめながらスザクが言い返す。
「お父様がかわいそうですし」
 反対側からはナナリーがこう主張をした。
「あらあら。シャルルってば、愛されているわね」
 本人が知ったら喜ぶわ、と優しい笑みを作る。
「でも、何にせよお仕置きは必要でしょう?」
 子供に心配をかけるようじゃ、と彼女は付け加えた。
「だから、そう言うことは二人の前ではやめてください」
 ルルーシュがまたため息をつく。
「わかってるわよ。そう言うことだから、二人とも。勉強でもしてきなさいな」
 終わったらお茶にしましょう。その言葉にスザクとナナリーはうなずく。
「いこう、ナナリー」
「はい」
 三十六計逃げるにしかずと言うことわざもあるし。そんなことを考えながら、スザクは彼女に声をかけた。

 いったい、その後、どのような話し合いがあったのか。はっきり言って、怖くて聞けない。
 それでも、こうして一緒に出かけられるならばかまわないか。そう思ってしまう自分の単純さにあきれたくなる。
 そんなことを考えながらスザクは荷物を抱えながら歩いていた。
「どこに行きますの?」
 ナナリーがこう問いかけている。
「すぐそこよ。本当はもっと遠くに、と思ったんだけど……」
 ちょっと時間が足りなかったわ、とマリアンヌが苦笑とともに言葉を返してきた。
「代わりに、クロヴィスとユーフェミアも参加するわ。間に合えばコーネリアも来るはずよ」
 シュナイゼル達はさすがに仕事を放り出せなかったみたい、とマリアンヌは続ける。
「だから、荷物が多いんだ」
 ジェレミアまで引っ張り出されているし、とスザクは呟く。
「まぁ、兄さんとユフィなら問題はないからな。後は、グラストンナイツの誰かが護衛として付いてくるぐらいだ」
 ルルーシュがそう言い返してくる。
「でも、後から持ってきてもらう分もあるんだろう?」
 ピクニックの弁当と言えば、サンドイッチとかおにぎりに唐揚げやウィンナーなど、冷めても食べられるものに果物ぐらいだと想像していたのに……とスザクは呟く。
「俺もそのつもりだったが、ついつい張り切ってしまったんだよ」
 ルルーシュが言葉を返してくる。
「まぁ、ジェレミアたちがいるからな。余ることはないはずだ」
 それはどうだろうか、とスザクは思う。ルルーシュの手作りなら、恐れ多くて……とか言いそうだ。それとも、その段階はすでに過ぎているのだろうか。
「ならいいけど」
 でも、ちょっとおもしろくない。そうも考えてしまう。
 何と言えばいいのだろうか。
「……ルルーシュたちだけがよかったんだけど」
 小さな声で呟いたところで、答えがわかったような気がする。
「そう言うな。ちゃんと理由があるんだから」
 ナナリーが喜ぶという、とルルーシュは言い返してきた。
「……やっぱ、シスコン?」
 思わずそう言ってしまう。
「妹がかわいくない兄はいないぞ」
 ため息混じりにルルーシュが言い返してくる。
「そんなことはないんじゃね? 俺が知っている兄妹は仲が悪かったし」
 ルルーシュとナナリーほどべったりという兄妹は見たことがない、とスザクは続ける。
「そうか? ユフィとコゥ姉上も似たようなものだぞ」
 他に同母でのきょうだいはいないが、と彼は口にした。
「つまり、ブリタニアの皇族はみんなシスコン、と」
 覚えておこう、とスザクはうなずく。
「仲が悪いよりはいいのかな」
 きょうだいがいないからよくわからないけど、と続けた。自分にいたのは従妹だけだからと続ける。
「……そういうことにしておけ」
 ため息とともにルルーシュが言い返してきた。
「目的地が見えてきたしな」
 言葉とともに彼はあごの動きである方向を示す。
 そこにはパラソルとガーデンセットがしっかりとセットされていた。
「……ピクニック?」
 シートを敷いて弁当を食べるのが自分の知っているピクニックなのだが、とスザクは呟く。
「クロヴィス兄さんの趣味だろう」
 ここまで大げさにするつもりはなかったのだが、とルルーシュは苦笑を浮かべた。
「まぁ、それは妥協するしかないな」
 クロヴィスだから、と彼は言う。
「シスコンだけじゃなくて、ブラコンも入っているじゃん、ルルーシュ」
 それに負けないくらいの存在にならないといけないわけだ、とスザクは口にする。
「絶対になってやる!」
 とりあえず、今は彼らと同じレベルになれるようにがんばろう。それが第一の目標か。スザクはそう決めた。

 なんだかんだ言って、今日のピクニックが楽しかったことは言うまでもない。
 しかし、だ。
「何でこうなっているんだ?」
 目の前の光景にスザクは思わずこう言ってしまう。
「お家、壊れていませんか?」
 さらに、ナナリーもルルーシュに問いかけている。
「壊れているな」
 ルルーシュが小さな声でそう言った。そのまま彼は視線をマリアンヌへと向ける。
「コーネリアとビスマルクがいるはずだから、確認しましょう」
 平然と彼女はそう告げた。
「……ひょっとして、今日のピクニックは……」
「偶然よ、偶然」
 マリアンヌがそう言って笑う。しかし、それを信じている人間がどれだけいるか。
 絶対嘘だ。スザクは心の中でそう呟いてしまった。



11.11.21 up
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