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恋は戦争?

小菊


 重苦しい雰囲気のエントランスを抜ければ、コーネリアともう一人、がっしりとした体格の人間が確認できる。その体を包んでいる白いマントにはブリタニアの紋章が刻まれていた。
「ナイト・オブ・ワンのビスマルク・ヴァルトシュタイン卿だ」
 ルルーシュが彼のことをそう教えてくれる。
「ナイト・オブ・ワンって……確か、ブリタニアで一番強い騎士、だっけ?」
 皇帝には十二人の直属の騎士がいて、その中でも特別なのが《ナイト・オブ・ワン》だと聞いた記憶があるけど……とスザクは聞き返す。
「とりあえずはそうだ」
 苦笑とともにルルーシュがうなずいてみせる。
「現在でも、一番強い騎士はマリアンヌ様ですからな」
 二人の会話に別の声が割り込んできた。
「ダールトン、来ていたのか」
 ルルーシュが知っている相手らしい。ふっと微笑むと彼に声をかけている。
「姫様がおられますからな」
 それに、と彼は声を潜めると続けた。
「ここで席を外しますと、マリアンヌ様がどのような反応をされるかが怖い」
 自分では彼女に太刀打ちできないから、と告げる彼もかなりの実力の持ち主なのではないか。
「わかってたけど、マリアンヌさんって、すごい」
 普通なら、男がふがいない……と言いたいところだ。しかし、今までマリアンヌにしごかれてきたから、彼女が常人ではないと身にしみている。彼女と普通の男性を比べたら、男性の方がかわいそうだ。
「まぁ、母さんだからな」
 そう言いながらも、ルルーシュはどこかうれしげだ。
「しかし、何があったんだ?」
 彼はその表情のまま問いかける。
「襲撃されたのはわかるが」
 いったい、どこの馬鹿だ? と彼は続ける。
「……本人達は否定しておりますが、第七皇子殿下の関係者かと」
 母君が后妃の座を与えられなかったこと、そして、本人に実力がないせいで重要な役目を与えられていないこと。その二点を逆恨みしてのことらしい。
 ダールトンは声を潜めるとそう教えてくれる。
「またか」
 ため息とともにルルーシュがそう言う。
「ナナリーが生まれてからなかったのに」
 全く、気を緩めたとたんこれか……と彼はため息をついた。
「どちらにしろ、母さんが情報をつかんでいたから、この程度ですんだのだろうが」
 人的被害は少ないのだろう? との問いかけにダールトンは「皆無です」と言い返している。
「なら、後はあのロールケーキ次第か」
 言葉とともに彼は視線を向けてきた。
「お前はナナリーと一緒にユフィのところに行っていてくれ。これ以上、何もないとは思うが……念のためにな」
 万が一の時には、ナナリーを安全な場所に……と彼は続ける。
「俺がいなくてもナナリーなら大丈夫のような気がするけど? マリアンヌさんにそっくりだし」
 身体能力的に、とスザクは言い返す。それよりもルルーシュのそばにいたい。
「だから、だ。それにユフィがいると、どの方向に暴走されるかわからない」
 それが怖い、と彼は呟く。
「確かに、愚息共ではお止めするのは難しいかと」
 実力はあるのだが、どうしても女性の扱いは下手で……とダールトンは苦笑を浮かべた。
「ユフィ相手では仕方がないだろうな」
 そう言うことだから、とルルーシュはスザクの肩に手を置く。
「わかったよ」
 本当は一緒について行きたいけど、彼らは自分を遠ざけたいらしい。
「後でちゃんと説明してくれよ」
 スザクの言葉にルルーシュはうなずいて見せた。

「しかし、久々ですわね」
 ユーフェミアがそう言いながら三人分のお茶を用意していく。
「そうなのですか?」
 ナナリーが驚いたように彼女を見つめる。
「そういえば、ナナリーが生まれてからなかったって、ルルーシュが言ってた」
 スザクがそう告げた。
「っていうより、あの様子だと誰かがさせないようにしていたのか?」
 でも、その頃のルルーシュは五歳か? とスザクは首をひねる。
「お父様でしょうか」
「お姉様か、シュナイゼルお兄様かもしれませんわ」
 ナナリーの言葉を受けてユーフェミアがこう続けた。
「どちらにしろ、守られていたんだ」
 すごいな、とスザクは言う。
「でも、それなのにどうしてでしょうか」
 自分が何か悪いことをしたか、とナナリーが不安そうな表情を作った。
「えっと……確か何番目かの皇子が優秀なルルーシュを逆恨みして、とか言ってたな。詳しいことは、今、確認中だってさ」
 後で教えてくれると言っていたよ、とスザクは慌てて口にする。
「だから、ナナリーのせいじゃないって。自分が馬鹿なのにルルーシュは悪いって言う方が悪いじゃん」
 その理屈もわからない奴は放っておけば? と続けた。
「ルルーシュが優秀なのは誰が見ても認めざるを得ないことだろ? ルルーシュ自身もそうあるように努力してたんだし」
 悪いことではないだろう、と逆に聞き返した。
「そうですわ。スザク君の言うとおり、ルルーシュはもちろん、ナナリーにも悪いところはありません」
 だから、安心して……とユーフェミアも微笑む。
「問題なのは、どうすればもう二度と馬鹿を出さないかでしょうが……」
「そのあたりは、ルルーシュとコーネリア殿下が何とかするからって……ダールトンさん――だったかな?――が言ってた」
 報復したいなら、根回しが終わってからにしてくれ……とルルーシュからの伝言、と続ける。
「根回し、ですか?」
「そう。何か、クロヴィス殿下がシュナイゼル殿下とオデュッセウス殿下を呼びに行ったって聞いたし」
 彼にお使い以外の使い道はない、と言っていたけどいいのだろうか……とスザクは心の中で呟く。確か、現在日本エリア11に駐留しているのは彼の直属ではなかっただろうか……とも思うし。
 そんな人間が上で自分のふるさとは大丈夫なのか。
 きっと、周囲の人間ルルーシュが何とかしてくれる。そう考えることにした。
「なら、仕方がありませんわね」
 ため息とともにユーフェミアが口にする。
「お母様も我慢してらっしゃるのでしょう? なら、ナナリーも我慢します」
 爆弾を送りつけるとか、ナイトメアフレームで突っ込むとかしないようにします……とナナリーは言ってくれた。
 これがルルーシュが心配していたことなのか、とスザクは納得する。
「……後で、カマキリの卵でも探してきて送りつけておくぐらいにすれば?」
 自分が日本にいた頃、よくやっていた嫌がらせだ。しかし、女性陣にはものすごく効果があった。
「細かいから、捕まえるの、難しいんだよな」
 生まれてきた子供は、と続ける。
「そうですわね。きれいな小箱に入れて送りつければ、すぐには捨てられませんわね」
 ついでに、自分の母の名前を借りれば確実だろう。ユーフェミアもそう言って微笑む。
「でも、今の季節、カマキリの卵はあるのでしょうか」
 もっともな疑問だ。
「調べてみましょう」
 庭師ならば知っているだろうか、とナナリーが言う。
「そうですね」
 言葉とともに二人とも腰を浮かせる。
 ひょっとして、自分はまずいことを言ってしまったのだろうか。スザクは不安になってくる。それでも、これが一番穏便な内容であるような気がする。
「後で、ルルーシュに報告しておこう」
 後は彼が何とかしてくれるはずだ。そう結論を出すと、スザクもまた彼女たちの後を追いかけていった。

「……まぁ、無難なところだな」
 スザクの報告を聞いたルルーシュが苦笑とともにそう言い返してくる。
「確かに……また、爆弾騒ぎにならないだけマシでしょうか」
 いったいどこで覚えられたのか、とビスマルクがため息をつく。その瞬間、マリアンヌがさりげなく視線をそらせたのがわかった。
「母さん?」
「私じゃないわよ? この前、ロイドのところに行ったときにね……」
 彼がおもしろがってあれこれと教えていた、と彼女はそのまま告げる。
「そうか……ロイドか」
 後で覚えていろ、と彼は小さな声で付け加えた。
「とりあえず、ご苦労だったな、スザク」
 だが、彼はすぐに優しい表情になると、こう言ってくる。
「あんなのでよかったのか?」
 逆効果だったような気もするけど、とスザクは聞き返す。
「十分だ。人死ににつながらないからな」
 そういう問題なのだろうか。とりあえず、ルルーシュにほめられたからいいことにしよう、と結論を出すスザクだった。



11.11.28 up
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