恋は戦争?
白粉花
「スザク、暇なら付いてこい」
ルルーシュが顔を出した。そう思うと同時にこう言ってくる。
「どこに行くんだ?」
言葉を返しながらすぐに彼に駆け寄った。そのまま周囲を見回すがナナリーの姿はない。
「俺だけ?」
「ナナリーを連れて行くと、またろくでもないことを教えかねないからな、あいつは」
だから、今回は彼女は留守番なんだ……とルルーシュは言う。
「まぁ、カリーヌが来るそうだからな。文句は言われないだろう」
自分は仕事だし、と続ける彼の口調はいつものものだ。しかし、だ。何かが引っかかる。
「……ひょっとして、その人、苦手?」
ついつい、そう問いかけてしまった。
「ノーコメントにしておく」
かわいい
異母妹には変わりないのだが、と彼はため息をついた。つまりそう言うことか、とスザクは納得する。
「……それで、どこに行くんだ?」
とりあえず話題を変えよう、とこう問いかける。
「変態のところだ」
いやそうな表情で彼はそう言う。
「あの
腹黒兄の友人だ、と言えば想像が付くか?」
さらに彼はそう付け加える。
「ナナリーに余計なことを教えるって言う?」
確か、そう聞いたような気がするけど……とスザクは聞き返す。
「あぁ……ものすごく強烈な人間だから、覚悟しておけよ」
何か楽しげにそう言ってくる。
「了解」
苦笑とともにスザクはうなずいて見せた。
しかし、ここまで強烈な人間だとは思わなかった。
スザクの存在に気づいた瞬間、データー取りだと言ってあれこれとさせられたのだ。マリアンヌの特訓に比べればマシだと言っても、人前で服をはぎ取られたのはうれしくない。
こうなったら、相手の鼻を明かすことで憂さを晴らすか。
そう考えていたのに、だ。
「ルルーシュ様ぁ、本当に、この子、十歳?」
身体能力がマリアンヌレベルなんだけど、とものすごくうれしそうな表情で言われてしまう。
「ねぇ、ね……今度はあれに乗ってみない?」
さらにスザクの腕をとるとこう言ってきた。
「ロイド……いい加減にしろ」
いい加減にしろ、とスザクが叫ぶ前にルルーシュが彼を注意する。
「でもぉ! こんな逸材、滅多にいませんよぉ」
それも、自分が自由にいじくることができる、と彼は続けた。
「甘いな。スザクの鍛錬に関しては母さんの管轄だ」
あれに乗せたければ、マリアンヌの許可を取ってこい……とルルーシュは笑う。
「そんなぁ!」
せっかくの逸材なのにぃ、と彼はじたんだを踏み始めた。
「ルルーシュ……こいつ、いくつ?」
ジェレミアと同じくらいに見えるけど、実はルルーシュと同じくらいの年齢なのか? とスザクは問いかける。
「意外と観察力があるな」
それに感心したように彼は言う。
「ジェレミアと同級生だそうだ」
普通は、誰も信じないのだが、とさらに言葉を重ねた。
「……頭の中身は別のようだけど」
「と言うより、精神年齢だな」
頭の中身は、ある意味ではブリタニアでもトップクラスだ……とため息混じりに教えてくる。
「自分の興味があることに関しては、天才的だが、そのほかのこととなると、お前以下のレベルだな」
「ひどぉい!」
ルルーシュ様ぁ、とロイドが叫んだときだ。周囲に鈍い音が響く。そして、次の瞬間、彼が前のめりに倒れた。
「申し訳ありません、ルルーシュ殿下。ちょっと席を外していたうちに、うちの上司が……」
細いがしっかりとした筋肉が付いている女性がそう言って頭を下げている。
「……この人も、パイロット?」
どこかマリアンヌやコーネリアと似た感じの体つきに、スザクはそう判断をした。
「……一応、テストパイロットはつとめることはありますけど……」
「おもしろい子だろう? 母さんのお気に入りだ」
自慢げにルルーシュは笑う。
「いずれ、ナイトメアフレームに乗せてみたいと思って連れてきたが……」
「ロイドさんが暴走したわけですね」
ため息とともに彼女は告げる。
「でも、それだけではありませんでしょう?」
他にも理由があったのではないか、と彼女は問いかけてきた。
「お前たちが日本に行くと聞いてな」
頼みたいことがあったのだ、とルルーシュは言う。
「クロヴィス殿下に、ではなく……でしょうか」
彼女がそう問いかけてくる。
「兄さんに頼むと大事になるんだ」
それでは意味がない、と彼は続けた。
「言葉は悪いが、セシル達ならば買い物も一般人レベルでできるだろう?」
「まぁ……そうですわね」
確かに、自分達には警護の者が付くことはないし、どこに行こうと何も言われないだろう……と彼女はうなずく。
「そう言うことだ」
苦笑と主に彼はうなずく。
「まぁ、それに関してはお前に頼むのが確実だな」
ロイドではある特定の商品以外は当てにならないだろう、とルルーシュは言う。
「……何、それ?」
こういうときに口を挟んではいけないとわかっている。それでも、ついつい問いかけてしまった。
「和菓子、だったか? あれを母さんが気に入ってな……」
かといって、おおっぴらに買いに行けるわけではないから……と彼は言葉を返してくる。
「……桐原のじーさんに相談すればいいのに」
それこそ、彼であれば最高の職人を手配してくれるだろう。
「この前連絡したけど、さ。何か、伝統工芸を規制するどころか推奨しているからって、感謝されてるみたいだぞ」
だから、ルルーシュ達の頼みなら無条件で聞き入れてくれるような気がする。
「お金払う、っていうなら、余計に、さ」
もっとも、受け渡しをする人間は必要だろうけど……と笑う。
「なるほど。それについては母さんに話しておこう」
ルルーシュはそれにうなずいて見せた。
「でも、そう言うことなら、俺、食べたいものがあるんだよな」
思い出したようにスザクは口にする。
「何だ?」
即座にルルーシュが聞き返してきた。
「こっちのプリンもおいしいんだけど、あっちで喰ったごまプリンと和三盆のプリンがめっちゃうまかったんだよ」
他にも、あそこの季節のプリンは新作が出るたびに人が並んでいたな……とスザクは続ける。
「でも、まだ、店、残ってるのかな」
問題があるとすれば、それだけ……と続けようとしたときだ。
「プリン!」
言葉とともに背後から抱きつかれる。気配は感じていたのに避けられなかったなんて、マリアンヌ以来だ……と思いながら視線を向ければ、ロイドが目を輝かせていた。
「どこ! その店、どこなの!!」
今すぐ教えろ! と彼は叫ぶ。
しかし、教えろと言われても……とスザクは思う。この状況で話をできる人間なんて、いないに決まっている。
「ロイド。スザクを放せ」
ルルーシュが助け船を出してくれなかったらどうなっていただろう。
「俺も興味がある」
だから、教えてくれるだろう? と彼は微笑む。それにスザクは何とか首を縦に振って見せた
それを確認したのだろう。ロイドはスザクから手を放した。
「……プリンでスイッチが入るのかよ」
ため息とともにそう告げる。
「だから、つきあってるんだよ」
苦笑とともにルルーシュが言い返してきた。
「プリン同盟なのか」
この言葉にルルーシュの苦笑が深まる。思い切り納得するしかない、とスザクはため息をついた。
「ルルーシュって、プリンが関わると、俺ぐらい簡単に売り渡しそうだよな」
日本のあの店から特派経由で届いたプリンを口にしながら、スザクはそう言う。
「そんなことはないぞ……たぶん」
その、一瞬の間はなんなのか。
「少なくとも、アリエスから追い出すことはない」
ナナリーが悲しむし、自分も寂しくなるからな……と彼は告げた。
「……そういうことにしておく」
ため息とともにスザクは言う。そして、また、プリンをスプーンですくった。
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