恋は戦争?
文目
いったい、これは何なのだろう。
いや、わからないわけではない。問題なのは、どうして自分の目の前にこれがあるのか、と言うことだ。
「……靴箱に入っていたらラブレターっていえるんだろうけど」
ここでそんなものが自分宛に来るはずがない。
第一、ブリタニアの一般家庭ならともかく、
アリエス離宮でそんなことをしても自分の目に触れるはずがない。その前に誰かが片付けるはずだ。
と言うことは、これは自分に見せてもかまわない。いや、見せなければならないと判断された手紙なのだろう。
「でも、何で俺なんだよ」
そこがわからない。
「……俺なんて、ただのおまけだぞ」
マリアンヌが興味を持ったから、ここにいるだけだ。まぁ、そうでなかったとしてもルルーシュのそばにいられるように画策しただろうが。
「ともかく、ルルーシュに相談しよう」
それが一番確実だろう。そう判断をして手の中のそれを持ったまま彼の執務室へと向かう。
「クルルギか」
そうすればルルーシュの元へ書類を運んできたらしいジェレミアと行き会った。
「……ジェレミア卿?」
と言うことは、ルルーシュは忙しいと言うことだろうか。
「それ、全部、ルルーシュの書類だよな?」
確認のためにそう問いかける。
「半分はそうだ。後の半分はルルーシュ様に頼まれていた資料だが……それがどうかしたのか?」
「相談したいことがあったんだけど、忙しいなら後にしようかと思ったんだよ」
ルルーシュのそばにはいたいが、邪魔をしたいわけではないから……とスザクは言い返す。
「そうか」
それで彼は納得したらしい。
「急ぎの書類はない。だから、かまわないのではないか?」
むしろ相談しない方がまずいのではないか、と彼は言う。
「マリアンヌ様がおられぬ以上、アリエスの主はルルーシュ様だ」
それに、と彼は続ける。
「ナナリー様同様、お前にも相談をされることが嬉しい、と思っておいでのようだからな、あの方は」
彼の言葉をどこまで信用していいものだろうか。そう思う。でも、その言葉が嬉しいと思うのも事実だ。
「じゃ、手早く済ませよう」
相談を、付け加えると足を速める。
「焦らなくてもいいのだが」
苦笑とともにジェレミアがこう言ってきた。
「いいじゃん」
少しでも早くルルーシュの顔が見たいのだから、とスザクは心の中だけで呟く。
「そう言うところはまだまだ子供だな」
ジェレミアが小さな声で言う。
「悪いかよ!」
「そうは言っておらん。お前が来てからルルーシュ様は楽しそうだからな」
ならば、何が言いたいのか。そう思いながら彼をにらみつける。
「ただ、もう少し大人になってくれればルルーシュ様も安心されるだろう。そう思っただけだ」
あくまでも自分の私見だ、と彼は言う。
「それよりも着いたぞ」
いいのか? と彼は続けた。それがごまかされたように聞こえるのは、先ほどのセリフが引っかかっているからだろう。しかし、それをいつまでも引きずっているわけにはいかない。そう判断をして大きく深呼吸をする。
「ルルーシュ、俺だけど。入っていい?」
そして、ノックとともに室内に声をかけた。
『開いている』
入ってこい、とすぐにルルーシュが言葉を返してくれる。
「忙しいとこ、ごめん。ちょっと、相談したいことがあって」
ドアを開けながらこう言った。
「相談?」
ルルーシュがペンを片手に視線を向けてくる。
「さっき、これもらったんだけどさ」
彼の元に歩み寄りながら、手にしていた封筒を差し出す。そんなスザクの背後から当然のようにジェレミアが入室してきた。しかし、ルルーシュは彼に一瞬視線を向けただけで、スザクの次の言葉を待っている。
「何か……招待状って言われたんだけど」
どうすればいいのだろうか。
「俺なんかが行っていいのかどうか、わからないし……」
そもそも、何で自分が呼ばれるのか、理由がわからない。
「珍獣扱いされるのは絶対いやだしさ」
この言葉に、彼は小さくうなずいてみせる。と言うことは実際にそう言う状態になっているのだろうか。
そう考えている間に、ルルーシュはペンを置くと手を差し出してくる。その手にスザクは封筒を乗せた。
「中を見るぞ?」
かまわないな、とルルーシュが確認してくる。スザクは小さく首を縦に振ることでかまわないと告げた。それを確認して、彼は中から折りたたまれたカードを引っ張り出す。
そんな動きもきれいだよな、と思う。
自分と違って洗練されている。やはり、これは性格の差なのだろうか。それとも、と考えずにいられない。
「……ここなら、大丈夫だ」
ざっと中を確認した後、彼はそう言った。
「そうなのか?」
ブリタニアの貴族の名前なんて全然知らないけど、とスザクは言い返す。
「アッシュフォードはうちの後見だ。それに、この午餐会には俺とナナリーも出席する」
スザクをどうするか、悩んでいたところだ……と彼は続けた。
「お前も参加するはずだな、ジェレミア」
「はい。アッシュフォード伯から招待状をいただいております」
ルルーシュの問いかけに彼は即座に言葉を返す。
「ですから、ルルーシュ様がお忙しいときには、私が彼の面倒を見させていただきます」
お任せください、と彼は続けた。
「そうだな……アッシュフォードなら心配いらないと思うが、それが確実か」
ジェレミアの礼儀作法はお手本になる、とルルーシュも言う。
「と言うことだから、スザク。安心しろ」
微笑みとともにそう言われる。
「ルルーシュの笑顔を見られるのは嬉しいけど……何か喜べない」
スザクは素直に自分の気持ちを口にした。
「何で、俺まで呼ばれるのか。そこがわかんねぇもん」
ジェレミアについては、妥協するにしても、だ。
「たぶん、母さんがお前を気に入っているのと、あれこれと自慢しているからだろうな」
ついでに、アッシュフォードもナイトメアフレームを開発している。優秀な人材を確保しておきたいのかもしれない。彼はそう続ける。
「あそこの開発担当は、ロイドのけんか相手だ」
言葉とともに彼は深いため息をついた。
「そんなにすごいのか?」
ルルーシュがあんな表情をするくらい、と思わずジェレミアに問いかけてみる。
「ものが壊れると言うことは少ないが……空気は凍り付くな」
公式の場であろうとなかろうと関係なく、と彼もため息をついた。
「ルルーシュ様はともかく、ナナリー様のお耳には入れたくないような言葉も交わされる」
困ったものだ、と彼はそのまま続ける。
「しかも、アッシュフォード主催となれば、あの二人にとっても気軽に参加できるからな」
だからこそ、スザクにも招待状が送られてきたのだろう。そうも彼は言った。
「マリアンヌ様がおいでなら、一言で納めてくださるのだろうが」
今回は仕方がない、と彼はさらに続ける。
「もうそろそろ帰ってくるんじゃねぇの?」
一月になるし、とスザクは言う。
「ナナリーとの約束は破らないだろう、マリアンヌさん」
だから、帰ってくるんじゃないのか? と付け加えた。
「そうであってくれればいいのだが」
「確かに、母さんならあり得るな」
当日までに帰ってくる可能性はある、とルルーシュもうなずく。
「と言うより、そうあってほしいと思うぞ、俺は」
さらに彼はそう告げる。
「とりあえず、ルーベンに参加者を確認しておこう」
それが無難だ、と彼は言った。
「ともかく、当日は俺たちと一緒に行けばいい。安心……できない要素がもう一つあったな」
彼女がどう出るかわからない、と呟いている。その声を聞いた瞬間、ジェレミアも複雑な表情を作った。
「……まだ、誰かいるのかよ」
とんでもない人間が、と思わず呟いてしまう。
「説明しがたい方でな。実物をその目で見るのが一番だろう」
「ものすごく怖いんだけど、そのセリフ」
参加するのをやめた方がいいのではないか。そう思わずにいられない。
「大丈夫だろう。お前が俺たちの家族同様だと知っているはずだからな」
家族、と言ってもらえたのは初めてだ。
それはものすごく嬉しい。
しかし、それだけでは物足りないと思っていることも否定しない。
「絶対、別のセリフも言わせてやる」
スザクは小さな声でそう呟いていた。
12.01.16 up