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恋は戦争?

苧環


「ただいま!」
 言葉とともにルルーシュの執務室をのぞき込む。その瞬間、見知らぬ相手を見つけてしまった。金髪の後ろだけを三つ編みにした、やたらと背の高い男――年齢はルルーシュと同じくらいだろうか――がルルーシュの向かいにいる。
「お帰り。今日はけんかしてこなかったか?」
 いったい誰だろう。仕事の相手ならば遠慮した方がいいのだろうか、と考えていればルルーシュがこう問いかけてくる。
「ナナリーにちょっかいをかけてきた馬鹿以外は、な」
 そう言う連中をたたきのめすのは許容範囲だろう? とスザクは聞き返す。
「まぁ、それはそうだな」
 と言うよりも、そういう馬鹿はきちんと排除しなければいけない。彼はそう続ける。
「それで、ナナリーは?」
「アーニャと一緒。友だちができたからさ」
 女の子達と一緒により道をしてくると言っていた。そうスザクは続ける。
「ヴィレッタさんが護衛として付いているし……あそこは安全だと思うぞ」
 見覚えのある人がいたから、と笑った。
「……見覚えがある人間?」
「ロイドさんとジェレミアさん……かな?」
 何か頼まなかったか? と聞き返せば、ナナリーの寄り道先がどこかわかったようだ。
「昨日、そんな話をしていたのを聞いてたから、ナナリーに教えておいた」
 いけなかったか? とスザクは聞き返す。
「いや。あいつらがいるところであれば大丈夫だろう。ナナリーには友だちが必要だろうしな」
 ルルーシュのその言葉にスザクは引っかかりを覚える。
「……そういえば、ルルーシュの友だちって……」
 誰? と呟いてしまう。
「ミレイさんは、そうなんだよな?」
「あぁ。他にも何人かいるが、なかなか会いに行けない」
 勝手に押しかけてくる奴はいるが、と彼が呟いたときだ。スザクは背後に不審な気配を感じる。
「誰だよ!」
 攻撃してくる相手にはしっかりと反撃しろ。それがマリアンヌの言葉である。だから、遠慮することなくその気配に向かって攻撃をしかけた。
「うぉっ!」
 同時に妙な声が耳に届く。
 体の向きを変えると、スザクは声がした方をにらみつけた。そうすれば、先ほどの男がバランスを崩している確認できた。
「スザク……とりあえず、それは敵ではない。安心しろ」
 性格はともかく、とルルーシュが言う。
「じゃ、変態?」
 気配を消して近づいてくるとは、とスザクは聞く。
「マリアンヌさんも、そういう奴は遠慮なく攻撃していいって言っていたし」
 だから、自分は悪くない……と主張した。
「わかっている。今のはジノが悪い」
 ルルーシュが同意をしてくれたからいいことにしておこう。スザクは心の中でそう呟いた。
「悪いのは私、ですか?」
 大きな図体――ちょっとうらやましいと思ったことは否定できない――をしているくせに、何というか、捨てられた犬のような空気を背中に背負いながら相手――ジノが言う。
「お前がスザクの実力を試そうと考えなければよかっただけだ」
 マリアンヌが認めているのに、とルルーシュが言い返す。
「第一、こいつはまだ、小学生だぞ」
 そんな相手に帝国最強の騎士ナイト・オブ・ラウンズの一員が本気を出すな。彼はさらにそう付け加えた。
「……ナイト・オブ・ラウンズって、ビスマルクさんの部下?」
 反射的にスザクはそう問いかける。
「ヴァルトシュタイン卿をご存じなのか?」
 ジノが聞き返してきた。
「最近、マリアンヌさんが忙しいときに、たまに剣の稽古につきあってくれるけど?」
 それがどうかしたのか、と聞き返した。
「……あのヴァルトシュタイン卿が剣の稽古を……」
 うらやましい、とジノは呟く。
「それだけ母さんがスザクに期待していると言うことだ」
 いろいろな意味で、とルルーシュは付け加える。
「まぁ、それは俺も同じだ。だから、お前はお前の役目をしっかりと果たせ」
 何か話が微妙な方へと進んでいるような気がするのは錯覚だろうか。
 空気が読めない、と日本にいた頃は何度も言われていたが、こちらに来てからそんなことを言っていられたくなった。だから、少しは読めるようになったような気がするんだけど、と思いつつスザクはルルーシュを見上げる。
「まぁ、こいつは幼い頃に《友だち》として選ばれてここに来たんだ。アーニャみたいなもの、と言えばわかるか?」
 確か、彼女は行儀見習いと言うことでここに来ている。しかし、実際はナナリーの遊び相手件護衛候補らしい。確かに、自分が一緒に行けないところがあるから同性の方がいいのだろうな、とスザクは思う。
「それなりに母さんに気に入られていたんだがな……それが認められない心の狭い大人が一人いたんだよ」
 誰とは言わないが、と付け加えられると逆に特定できるような気がするのは自分だけではないはずだ。
「と言うわけで、士官学校を卒業すると同時に、ジノはラウンズになったと言うわけだ。母さんも、それならば他の相手を探すと決めたようだしな」
 やはりか、と思いながらスザクはうなずく。
「ですが……私はルルーシュ様の騎士になりたいんです!」  今でも、とジノは言う。
「陛下は説得して見せます。ですから……」
 先にルルーシュの許可がほしいのだ、と彼はそのままルルーシュにすがりつこうとする。その彼を、スザクは反射的に突き飛ばしていた。
「お前!」
 ジノがそう言ってスザクをにらむ。
「ルルーシュが『いい』って言ってないだろ!」
 友だちだとしても、とそれにスザクは言い返す。
「そう言うことだ」
 ルルーシュも笑いながらうなずいてみせる。
「そんな……ルルーシュ様!」
 こんな子供ではなくても、とジノは食い下がってきた。
「別にかまわないさ。ジェレミアも、今からいろいろと教え込んでいるようだし、お前よりも扱いやすいそうだ」
 ジェレミアの性格を考えればそうだろう、とルルーシュは言い返す。
「第一、お前を騎士にしたら、兄上達とのバランスがとれないだろう?」
 いろいろな意味で、と彼は続けた。
「だからといって、その海のものとも山のものとも付かない子供ですか!」
「俺は枢木スザクだ!」
 どこの馬の骨扱いされるいわれはない、とスザクは言い返す。だけではなく思いきり相手の弁慶の泣き所を蹴飛ばした。
「こら!」
「今のはお前が悪いな」
 怒ろうとした彼をルルーシュが止める。
「第一、そう言うセリフは母さんの判断に反対しているととられかねないぞ?」
 いいのか? と彼は逆に聞き返した。
「……それは……」
 さすがに、とかすかに頬を引きつらせている。
「そうだな。お前が一月、母さんの特訓につきあえたら考えてやってもいいが……」
 さらに追い打ちをかけるようにルルーシュは選択肢を突きつけた。
「無理です! エニアグラム卿ですら、週に一度でも地獄だったと言われているのに」
「スザクは、ここに来てから母さんがいるときはほぼ毎日、特訓につきあっているぞ。その上で学校に行ってナナリーのフォローもしている」
 子供にできることをお前ができないはずがないよな? とルルーシュはさらに詰め寄った。
「……そうですが……」
 しかし、とジノはまだ何か言おうとしている。
「仕方がない。妥協してやろう。母さんには許可を取る。来週から一週間、スザクと同じ生活を送れ」
 それができたら、シャルルに口添えしてやる……とルルーシュは先に口にした。
「ルルーシュ様、それは……」
「できるだろう? スザクですらできることだ」
 無理ならあきらめろ、と彼は続ける。
「母さんが認めないからな」
 その瞬間、ジノがどのような表情をしたか。スザクはしっかりと見てしまった。

「なぁ、ルルーシュ」
 がっくりと肩を落として帰っていくジノを見送りながらスザクは彼に声をかけた。
「何で、あいつはあんなに悲壮な表情をしていたんだ?」
 マリアンヌの特訓を受けるだけだろう? とスザクは続ける。
「それがあいつにとっては地獄の入り口と同じなんだ」
 それでも、意地でもやめられないだろう。彼はそう言って笑った。
「あきらめればいいのにな」
「まぁ、気持ちはわかるけどな」
 ルルーシュのそばにいたいという、とスザクは言う。そのまましっかりと彼の腕に抱きついた。
「どうした?」
「何か、何かだから」
 上手くいえないけど、と続ける。
「大丈夫だ。ジノは絶対に一週間耐えきれない」
 ルルーシュはきっぱりとした口調でそう言いきった。
「だから、安心しろ」
 その言葉に、スザクは小さくうなずいてみせる。でも、何故そう言いきれるのか。スザクにはすぐにわからなかった。

 もっとも、すぐに理解できた――いや、させられたが。それについては、ジノの名誉のためにあえて広めない方がいいだろうともスザクは考えていた。




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