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恋は戦争?

下野シモツケ


 こっちの学校のいいことは、掃除をしなくてすむことかもしれない。帰りのホームルームが終わったところで、スザクはそんなことを考えていた。
「スザクさん」
 荷物をしまっていれば、ナナリーがそう声をかけてくる。
「何?」
 今日は寄り道はしてはいけないんじゃなかったかな? と思いながら視線を向けた。
「ミレイさんが、お茶をしませんか……だそうですわ」
 学園の敷地内だから寄り道にはならないだろう。それが彼女の主張らしい。
「でも、いいのかな?」
 早く戻らなくて、とスザクは首をかしげる。
「たぶん、大丈夫だと思います。相手はミレイさんですから」
 迎えの車も、彼女がきちんと連絡をしてくれると言っていた。ナナリーはそう言い返してくる。
「じゃ、いいのか」
 たぶん、ルルーシュにも許可をもらっているのだろう。そう判断をしてうなずいてみせる。
「いいことにしましょう」
 ミレイを無視する方が怖いから、とナナリーは苦笑とともに口にした。
「いざとなれば、お兄様もそれで納得いただけるはずです」
 彼女の名をだせば、と続けた。
「あの人、最強?」
 思わずそう言ってしまう。
「お母様とは別の意味でそうですわね」
 アリエス内部では、と彼女は言い返す。そのまま、二人とも苦笑を見合わせる。
「ともかく、行こうか」
「そうですね。アーニャにも声をかけないと」
 言葉とともに彼女は自分の鞄を取り上げた。スザクもまた勢いよく肩にかける。
「じゃ、行こうか」
 そのまま手を差し出せば、ナナリーが自分のそれを重ねてきた。

「だめよ、そんなにまじめ一辺倒じゃ」
 それじゃルルーシュになってしまうでしょう、とミレイが笑いながら口にする。
「それのどこが悪いんだ?」
 スザクはそう言い返した。
「遊び心がないのは余裕がないってことよ」
 それでは、いざというときに対処をとることができない。上に立つものとして、それはどうなのか。ミレイはそう続ける。
「……それって、今考えた理屈だろう?」
 ため息とともに聞き返す。 「ばれた?」
 そう言ってミレイは笑う。
「さすがはルルちゃんのお気に入りね」
 察しの良さは十分、と彼女はその表情のまま付け加えた。しかし、それも今考えたことではないか。そんな疑問がわき上がってきた。
「……今考えられたのですか?」
 ナナリーも不審そうに問いかけている。
「そう言うわけじゃないわよ……一応ね」
 にこやかに答える彼女の視線が泳いでいた。それは、言外に認めているようなものではないだろうか。
「ミレイさんなら、仕方がない」
 ため息とともにアーニャが呟く。
「そうですね……下手をすると、お兄様でも言い負かされます」
 屁理屈だ、と彼は言うが……とナナリーもうなずいた。
 その瞬間、スザクの心の中に不安がわき上がってくる。
「あのさ」
 わからないことは早々に解決しよう。そう考えて彼女に声をかける。
「何かしら?」
 即座に彼女は視線を向けてきた。
「ルルーシュにはちゃんと許可を取ったんだよな?」
 本当に、と続ける。
「……ミレイさん、そういうお話でしたわよね?」
 同じような不安を抱いたのか。ナナリーも問いかけの言葉を口にした。
「断りは入れたわよ」
 メールで、と彼女は笑う。
「校内だし、かまわないでしょう?」
 ここ、と続けられて頭を抱えたくなった。
「……探しているよな、ルルーシュ」
 それだと、と呟いてしまう。
「パニックを起こして、フリーズされているかもしれません」
 ナナリーも頬を引きつらせている。
「……ジェレミア卿がいるから大丈夫だと思うけど……」
 きっと、ナナリー達の居場所を探そうと慌てているはず。
「軍を動かしているってことはないよな?」
 それが一番怖いんだけど、とスザクは言う。
「ミレイさんが首謀者ですから、そこまではなさらないとは思いますが……」
 いくらルルーシュでも、とナナリーは言い返してくる。
「だよな」
 いくらルルーシュでも、とスザクも苦笑を浮かべた。
「私がルルちゃんを振り回すのはいつものことだし」
 ミレイがそう言って、その話題を終わらせようとする。
「でも、ルル様ならやりかねない」
 それなのに、アーニャがしっかりと爆弾を投下してくれた。
「アーニャちゃん……いくら何でも……」
「だって、ルル様、ナナリー様が大好き。それにスザクと私がいるから」
 三人セットと言うことでミレイが首謀者だと言うことが頭から抜けている可能性がある。淡々とした口調で彼女はそう告げた。
「さすがはルルちゃん……年少者には優しいわね」
 さて、対策をとった方がいいかしら……とミレイが言う。
「……スザクさん……」
 ナナリーがそっとスザクの手を握りしめてくる。
「大丈夫だって。ナナリーとアーニャなら、何とか俺一人でもフォローできる」
 ミレイはわからない、と言ったのは、彼女が自分達よりも年長だからだ。
「それ以前に、ルルーシュが指揮を執っているなら、俺たちに危害を加えないように命令しているはずだし」
 心配はいらないのではないか、とスザクが笑ったときだ。いきなり、非常ベルが鳴り響く。
「……ルルーシュかな?」
 それとも、と呟いた。
「わかりません。でも、下手に動かない方が良さそうです」
 ミレイのためにも、とナナリーは口にする。
「だな」
 ともかく、万が一のためにスザクは立ち上がった。
「アーニャはナナリーのそばな」
 この言葉に彼女はうなずいてみせる。それを確認してからとりあえず手頃な長さの棒を手に取った。そのまま、ドアの方を見つめる。
 廊下から誰かが駆け寄ってくる足音が耳に届く。
「……ルルーシュじゃないな、これ」
 彼はこんな風に走らない。と言うことは、他の誰かだろう。でも、誰だろう、と思っていたときだった。
「ナナリー様! クルルギとアーニャも、無事か!」
 言葉とともにジェレミアが飛び込んでくる。
「それで、監禁犯はどこにいる!!」
 室内を見回しながら彼はこう叫んだ。
「監禁犯?」
 誰が、と反射的に聞き返してしまう。
「違うのか?」
「……とりあえず、お茶をしていただけだけど……ミレイさんと」
 説明を求められて、スザクはそう言った。それにナナリーとアーニャもうなずいてみせる。
「そうなのか?」
 今度はミレイへと視線を向けると彼は問いかけた。
「ルルちゃんにはそう連絡しましたけど?」
 場所だけは『校内で』としか伝えなかったが、と彼女は言葉を返す。それに、ジェレミアは盛大にため息をついて見せた。

「全く、ルルーシュったら」
 あきれたようにマリアンヌが口を開く。
「またミレイちゃんに遊ばれたのね?」
「そうはおっしゃいますが、母さん……」
 ため息とともにルルーシュが口を開く。
「ミレイが、いつもとは違うメールアドレスをつかったので……」
 自分が知らないアドレスから、あんな内容を送りつけられては……と彼は反論をする。
「姉上達に連絡をしたり、軍を動かさなかっただけでもほめてください」
 彼はそう言い返す。
「まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」
 そう告げるとマリアンヌは視線をスザク達に向ける。
「と言うことで、貴方たちもあの子に振り回されないようにしなさいね。ルルーシュが泣くから」
「母さん!」
 それにルルーシュは即座に反論をした。
「わかりました」
「とりあえず、努力します」
「……ルル様の泣き顔、見てみたいかも」
 それに、三人はそれぞれこう言い返す。
「あらあら。あなたよりもこの子達の方がしっかりとしてるわね」
 その瞬間、またマリアンヌは笑い声を上げた。




12.02.28 up
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