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恋は戦争?

アポフィライト


「そういえばスザク」
 ふっと思い出したというようにルルーシュが口を開く。
「何?」
「スメラの姫は、お前の親戚だったか?」
 珍しい名前を聞いた。そう思うと同時に、厄介な……とも思う。
「神楽耶なら、従妹だけど?」
 どうかしたのか、と聞き返す。
「兄さんがやり込められたらしい」
 この言葉に、思い切り頭を抱えたくなる。
「神楽耶なら、やってもおかしくないと思うけど……相手を見てやってくれればいいのに」
 そう知れば、自分が知ることはなかったのではないか。スザクはここ数年、連絡も取っていない相手に向かって文句を言いたくなる。
「しかし、今、あのエリアには問題があってな」
 元々、独立心が旺盛なエリアだが……とルルーシュは言った。しかし、それは自分に気を遣ってくれているのだろう。スザクにもその程度のことはわかっている。
「だから、総督の交代、などと言ったことはしたくないんだ」
 下手な人材は回せない。できれば、自分とも親しくしている人間を配置しておきたいと言うのが本音だ。彼は素直にそう告げる。
「その方がいろいろと無理が利くからな」
「……俺のことも含めて?」
 スザクはそう問いかけた。
「それは関係ないな。お前に関しては母さんも絡んでいる」
 だから、何も心配はいらない。その言葉に苦笑を浮かべるしかできなかった。本当に彼女は最強なのか、と思わずにいられない。
「それで……神楽耶のことで俺に何をしろと言うわけ?」
 こちらに来てから、一度も連絡を取ったことはない。だから、自分が知っているのは子供の頃の彼女だけだ。
「……皇の姫がお前に『会いたい』と言っておいでだ」
 こちらに協力をするための交換条件として、と彼は言う。
「今更……」
 その言葉を聞いた瞬間、こうはき出してしまった。
「今まで、全然連絡を取ろうともしなかったくせに」
 いや、それ以前に、父が死んだときにも何も言わなかったではないか。
「……俺がルルーシュの騎士候補になったから、か?」
 だから、いきなり連絡をしてきたのだろうか。そう呟く。
「どうだろうな。単に、お前の居場所を知らなかった、と言う可能性はあるぞ」
 慰めるかのように彼はそう言ってくる。
「……どこへでも勝手に行けって言われたけどな」
 何をしても責任はとらない。だから、二度と連絡をしてくるな。そう言われた、とも続ける。
「それなのに、あちらから連絡をしてくるのはおかしくないか?」
 見栄も外聞もないのか。そう付け加える。
「スザク……」
「まぁ、あいつらがそう言ってくれたおかげで、俺はルルーシュ達と会えたからいいんだけどね」
 しかし、それとこれとは別問題だろう。
「言った方は忘れていたかもしれないけど、言われた方はずっと覚えているもんなんだよな」
 ゲンブの葬式ですら、本当に形式的に顔を出してくれただけだ。どうすればいいのかわからない自分を放置して、さっさといなくなったのも彼らだ。
 そんなことすら思い出してしまう。
「あの頃の神楽耶が悪いわけじゃない。それはわかっているけど……やっぱり、六家の一人だからな」
 彼女の顔を見れば、あの頃のことを思い出さずにはいられない。
「確かに、父さんは間違っていたのかもしれないけど……それでも、日本のために最善を尽くそうとしていたんだ」
 だから、と膝の上で拳を握りしめる。
「落ち着け、スザク」
 そんな彼に、ルルーシュはそっと声をかけてきた。
「お前の父君は、自分の信念を捨てなかった。そう言うことだ」
 自分もそれは疑っていない。ルルーシュはそう言ってくれる。
「ただ、非難されるべきことがあるとするなら……早々に自決をしたことか」
 最後まで責任をとるのが国の代表の役目かもしれない。彼はそう続けた。
「……わかってる……でも、父さんはあんな時に自分で死を選ぶような人じゃなかった」
 例え死刑になったとしても、最後まで持論を声高に叫ぶ人間だった……と続ける。
「私も、そう聞き及んでいます」
 ジェレミアが静かな声でそう言った。
「……そうか」
 何かを考え込むかのようにルルーシュは言葉を切る。
「ルルーシュ?」
 どうかしたのか? とスザクは言外に問いかけた。
「やはり、エリア11に行くしかないか……スザクには辛い現実が待っているかもしれないが……」
 それでも、自分の目で確認しなければいけない。ルルーシュは呟くようにそう言う。
「仕事?」
 だとしたなら、自分の好悪は脇に置いておくしかないか。そう考えながら問いかける。
「まぁ、そんなところだ」
 ルルーシュはすぐにうなずいて見せた。
「気になることがあってな。俺だけならばともかく、母さんやシュナイゼル兄上も同じことが気にかかっているらしい」
 だから、今回のことは渡りに船、と言えるのかもしれない。彼はそうも続ける。
「そう言うことなら仕方がないよ。神楽耶にあえばいいのか?」
 そして、何かを聞き出せばいいのだろう。でも、何を、と思いながらルルーシュの顔を見つめる。
「……いやなら、やめてもいいぞ」
 ルルーシュはそう言ってきた。
「方法はいくらでもあるからな」
 大丈夫だ、と彼は続ける。
「いいよ……別に、どうでもいい相手……とまでは言わないけど、ルルーシュより大切な存在なんていないから、どう思われてもかまわないし」
 だから、とスザクは笑った。
「手っ取り早く終わらせたいなら、手伝うよ」
 それがみんなのためになるのだろう? と言う。
「……馬鹿だな、お前は」
 微苦笑とともにルルーシュはそう言った。
「ですが、騎士としてはほめられるべきかと」
 ジェレミアが口を挟んでくる。
「わかっている」
 ルルーシュはそう言ってうなずく。
「だが、本当にいいのか?」
「当然。ルルーシュが一番だし、ナナリーやマリアンヌさんを悲しませるのは絶対にいやだからさ」
 スザクのこの言葉に、ルルーシュはようやく納得したらしい。
「わかった。それでは、近いうちに俺たちとともにエリア11へ行ってもらう」
 彼はそう言いきった。
「そのために何を準備すればいいのかは、ジェレミアに相談しろ」
 かまわないな、とそのままジェレミアへと視線を向ける。
「もちろんです」
 お任せください、と彼はうなずいて見せた。
「あぁ、明日からでいいぞ。今日はスザクのお祝いだからな」
 マリアンヌも今日は帰ってくると言っていた、と彼は続ける。
「お前も同席しろ」
 さらにジェレミアに向かってこう言った。
「ですが……」
「かまわない。ナナリーも喜ぶ」
 ここまで言われては引き下がるわけにはいかないのだろう。
「Yes.Your Highness」
 彼はそう言った。その表情が嬉しそうだったのは否定できない事実だろう。
「お前の部屋はそのままにしてある。とりあえず着替えてこい」
 視線をスザクに戻すと彼はこう言ってくる。
「……でも、ルルーシュは仕事があるんだろう?」
 なら、自分もそばにいる、と彼は続けた。
「明日からな。今日はナナリーにつきあってやってくれ」
 今日の仕事を彼女が邪魔をしないように、とルルーシュが言い返してくる。
「そうでないと、俺の仕事が終わらない」
 ナナリーが邪魔しに来ると言うことなのだろうか。
「それと……マリアンヌ様がお戻りになったら、あの方のお相手も頼もう」
 さりげなくジェレミアがそう言ってくる。
「……そっちの方が大変そうだ」
 本当に誰も代わっていないんだな、と心の中で呟く。
「まぁ……がんばれ……」
 ルルーシュのその一言がスザクの言葉に対する答えだった。



12.04.04 up
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