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恋は戦争?

シベライト


「そうか」
 スザクの話を聞き終わったルルーシュは小さくうなずいてみせる。
「どうやら、神楽耶殿も何かに巻き込まれようとしている、と言うことだな」
 調べさせるか、と彼は呟く。
「ともかく、ご苦労だったな、スザク」
 彼女のことは心配するな、とルルーシュが微笑んでくれる。
「ルルーシュに迷惑さえかからなきゃ、それでいいよ、僕は」
 そんな彼にスザクはそう言い返す。
「でも、何をしでかすつもりなんだ、あいつら」
 いやな予感しかしないんだけど、と付け加える。
「とりあえず、調べさせてはいるが……」
 まだはっきりとしたことはつかめていない。その事実が気に入らない、と彼は言う。
「あちらの姫も、かなり自制心が強い方のようだしな」
 これではクロヴィスが手玉にとられても当然だろう。彼は基本的に人が良い。だから、とルルーシュはうなずく。
「……そう言えば、さ」
 ふっとあることを思いついてスザクは口を開いた。
「あの人達ってどこにいるんだろう」
 彼らが神楽耶から離れることはないと思うが……と眉を寄せる。
「あの人達?」
 誰のことだ、とジェレミアが問いかけてきた。
「藤堂鏡志郎とその部下四人」
 スザクはそれにこう言い返す。
「奇跡の藤堂か」
 ルルーシュが静かな声でそう告げる。
「確か、日本解放戦線と行動を共にしていると聞いた覚えがあります」
 さらにジェレミアがこう言ってきた。
「それが事実であれば、厄介ですな」
 彼は日本で唯一、ナイトメアフレームを撃破した男だ。敵に回せばこれ以上怖い相手はいないかもしれない。彼はそう続ける。
「……しかも、藤堂さんは桐原のじじいの子飼い、みたいなものだし」
 六家が動いているのであれば、当然、手を貸すのではないか。スザクはため息をつく。
「だが、逆に言えばあの男をこちらに引き込んでしまうか……無力化すればいいと言うことか」
 しかし、とルルーシュは視線を彷徨わせ始める。
「母さんが彼に興味を持っているようなんだよな」
 下手に処分できない、と彼はそのまま告げた。
「俺も……藤堂さんがいなくなるのは寂しいかな」
 日本で、自分のことを心配してくれている人がいるとすれば、彼だけだ。だから、とスザクは口にしてみる。
「もっとも、ルルーシュにとって危ない相手、となったら話は別だけど」
 そのときは、無条件でルルーシュをとる。スザクはそう言いきった。
「そうならないように気をつけるがな」
 ルルーシュはそう言って笑う。
「ともかく、だ。少しでも早く藤堂鏡志郎とその部下の居場所をつかまないとな」
 話はそれから、だ。ルルーシュはそう言った。
「ジェレミア。兄さんには許可をもらってある。軍を動かして捜索してくれ」
「Yes.Your Highness」
 ルルーシュの言葉に彼はすぐにうなずいてみせる。
「僕は?」
 何をすればいいのか。スザクはそう問いかけた。
「お前は当面、俺の護衛だ」
 とりあえず、そばにいればいい。そう彼は言う。
「確かに、それがよいだろうな」
 ジェレミアもそう言ってうなずいてみせる。
「そうすれば、皆の目に触れる。あちらが何を考えているかわからないが衆目を集めてしまえば、うかつに手出しはできまい」
 彼はさらに言葉を重ねた。
「その方が、この国の人間にはいいだろうしな」
 特に軍人達には、とルルーシュは付け加える。
「……何か、考えているのか?」
 この国の者達を利用することを、と言外に問いかけた。
「母さんがな。何というか、この国の人間が持つ気質を気に入ったらしい」
 アッシュフォードに頼んで、新しいメイドをアリエスに入れる程度には、とルルーシュは苦笑を浮かべる。
「新しいメイド?」
 気がつかなかった、と心の中で呟いてしまう。
「篠原咲世子さんと言って、武芸の達人でもあるそうだよ」
 ナナリーのそばに付いている、とルルーシュは教えてくれた。 「ジェレミアとお前は、これから、俺とともに国を離れることが多くなるだろうからな。アーニャも、お前と入れ替わるように士官学校に入学したし……」
 結局はそう言うことだ。そう言われて納得をする。
「と言うところで、早速動くぞ」
 早々にめどだけでもつけてしまいたい。そうでなければ、ゆっくりとこのエリアの改善に取り組めないからな。ルルーシュはそう言いきる。
「わかった」
「全力で取り組ませていただきます」
 スザクとジェレミアはそれぞれこう口にすると、頭を下げた。

 クロヴィスは政治には向いていない。そう言っていたのは誰だっただろうか。しかし、その言葉は正しいと思う。
「すまないね、ルルーシュ……一応、調べさせてはいるのだが」
 苦笑とともにそう告げる彼にルルーシュは一瞬だけ視線を向ける。
「ご自分で、ではなかったようですね、兄さん」
 そして、こう言う。
「……それは……」
「どうせ、兄さんのことです。部下に仕事を押しつけて絵でも描いていらしたのでしょう?」
 その瞬間、周囲のものが小さく苦笑を浮かべる。つまり、ルルーシュの指摘は正しい、と言うことだろう。
「ひょっとして、俺たちが送ったメールにも目を通されていないのではありませんか?」
 さらにルルーシュはクロヴィスに向かって問いかけの言葉を口にした。
「そんなことは……ないと思うよ?」
 いくつかは読んだかな、と彼は言い返してくる。
「なるほど。政策に関しての提言は無視して、それ以外を読んだ、と言うことですね」
 わかりました、と言うルルーシュの表情が怖い。
「それでは、兄さんがしてきたことについて、兄さんの口から説明をしていただきましょうか」
 徹底的に、と彼は微笑む。それはマリアンヌが怒っているときに浮かべる微笑みとそっくりだ。
「ルルーシュ……それよりも、まずはお茶にしないか?」
 それを知っているのだろう。クロヴィスはそう言って、彼を懐柔しようとする。
「その前に仕事をするべきだ、と思いますが?」
 あるいは、仕事をしながらでもいいと思う……とルルーシュは反論をした。
「できれば今日中に、ライフラインの再開発案を作ってしまいたいのですよ。シュナイゼル兄上に相談しないといけませんし」
 できれば、ロイド達特派が押しかけてくる前に細々としたことを片付けてしまいたい。ルルーシュはそう主張する。
「しかし、ルルーシュ……」
「今まで逃げ回っていたつけが回ってきたと思ってください」
 自分が来た以上、今までのように甘い考えでは困る。その言葉とともに笑みを深めた。
「俺をアリエスから引っ張り出した責任は、きちんととってくださいね」
 それが『後悔してくださいね』と言っているように思えたのは自分スザクだけではないと思いたい。実際、周囲の者達はしっかりと凍り付いていた。
 同時に、どうしてルルーシュが焦っているのか。わかるような気がする。
 おそらく、神楽耶達からテロをする理由を取り上げようというのではないか。
 彼女たちがそれであきらめてくれればいい。
 しかし、無理だろうな……と思う。
「……そう言えば、クロヴィス殿下は何を言われてあいつの言うことを聞かされたんだろう」
 神楽耶のことだ。どうせ屁理屈も理屈のうちと言ってあれこれとやらかしたのは想像が付くが……とスザクは口の中だけで呟く。
 だが、周囲が静まりかえっていたせいでほとんどのものの耳に届いてしまったようだ。
「聞きたいか、スザク」
 にやり、と笑いながらルルーシュが口を開く。
「ルルーシュ!」
「もちろん、知っていますよ? あぁ、俺だけじゃなくてシュナイゼル兄上もですね」
 ひょっとしたら、シャルルの耳にも届いているかもしれない。彼はそう続ける。
「……本当なのかい?」
 嘘だと言ってくれ、とクロヴィスの顔に描かれていた。
「残念ながら本当ですよ」
 甘いですね。そう言って微笑むルルーシュは本当に美人だ。しかし、美人過ぎて怖い。
「ルルーシュゥ!」
 クロヴィスのこの叫びに同情できないのは、ある意味自業自得だからなのだろうか。
 これ以上、墓穴を掘らないで欲しい。そう祈るしかないスザクだった。



12.05.02 up
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