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恋は戦争?

ホークアイ


 藤堂の居場所の情報は予想もしない場所から飛び込んできた。
「……草壁中佐?」
「そうだ。知っているか?」
 ルルーシュの問いかけに、スザクは小さくうなずいてみせる。
「あんまり好きじゃないけどな」
 と言うよりも、大嫌いだった。彼と官房長官であった澤崎は、一見、ゲンブを支えているようで、上手い具合に操っているように思えたのだ。
「確か、中華連邦寄りの人間だったはずだけど?」
 そのあたりのことは桐原の方が詳しいだろうが、彼に聞くのははばかられる。ルルーシュも同じように判断したのではないか。だから、自分に聞いてきたような気がする。
「……そうか」
 スザクの言葉にルルーシュは小さくうなずく。
「ならば、素直に信じない方がいいな」
 彼はさらにそう続ける。
「藤堂鏡志郎との仲はどうだ?」
 ジェレミアがこう問いかけてきた。
「最悪」
 もう、この一言しかない。
「そのあたりも関係しているようだな」
 今回の件には、とルルーシュは言う。
「ルルーシュ様、どうしましょうか」
「そうだな……本人が来ないとも限らない。他の誰かが彼の身柄を確保すればややこしいことになる」
 だから、とルルーシュは続けた。
「ジェレミア。確実に確保してこい」
「Yes.Your Highness」
 ルルーシュの言葉にジェレミアはすぐに返答をする。
「僕も行く?」
 スザクも即座に問いかけた。
「いや、いい。お前が動けば逆に目立つ」
 あちらに気づかれる可能性がある。そう言われては納得しないわけにいかない。
「それに……あいつが来る」
 心底いやそうにルルーシュが言った。
「そういえば、そうでしたね」
 同じように、ジェレミアもまたいやそうな表情を作っている。この二人が同時にそんな表情をすると言うことは、答えはひとつしかないのではないか。
「……ロイドさんか」
 二人セットでその反応と言うのは彼しか考えられない。
「と言うことは、完成したのか」
 彼ご自慢のナイトメアフレームが、とうんざりとした表情でスザクは言った。
「ルルーシュのそばにいられる時間が減るじゃん」
 彼が来れば、絶対に実験につきあわされる。下手をしたら丸一日拘束、と言う可能性だってあるだろう。
 それでは、意味がない。
「あきらめろ」
 ルルーシュがこう言ってくる。
「時間制限をつけてやる。それで妥協をしろ」
 そう言われても納得できない。
「やだ」
 ずっと一緒にいるために努力してきたのに、とスザクは言外に告げる。だが、そんな彼の様子を見て、ルルーシュは小さな笑みを漏らす。
「ルルーシュ?」
 笑われなければいけないようなことをしただろうか。そう思いながら彼の名を呼んだ。
「あぁ、すまない」
 そうすれば、彼はすぐに謝罪の言葉を口にしてくれる。
「ただ、そんな反応をすれば昔と変わらないな、と思っただけだ」
 安心した、と彼は言う。
「ずいぶんと行儀がよくなっていたからな。お前が努力した結果だとはわかっていても、ちょっと違和感を覚えていたんだ」
 そんなことを言われても、とスザクはため息をつく。
「背伸びをする人間は嫌いじゃない。だが、たまには素の姿も見たいと思うだけだ」
 言葉とともに彼はスザクを手招く。そうすれば、即座に頭をなでられる。
「僕はもう、子供じゃないのに」
 反射的にそう口にする。
「お前の髪の毛の感触が好きなだけだ」
 何を言っても反論されて終わりじゃないか。そう考えるだけでますます頬が膨らんでくる。
「そこまでにしておいてください、ルルーシュ様。クルルギが切れます」
 ため息とともにジェレミアが言葉を口にした。
「そうなると、手がつけられなくなるかと」
「……そうなのか?」
「たまに八つ当たりをされましたから」
 だから、どうして隠しておきたかった過去をあっさりとバラしてくれるのか。
「ともかく、だ。お前はそのままでいい」
 それよりも、とルルーシュはそれた話題を戻そうとする。
「もう少し、草壁に関する情報も欲しいな」
 いやな予感がする、と彼は続けた。
「わかりました」
 ジェレミアはそういうと頭を下げる。
「では、私は指示を出してきます」
 そのときだ。スザクの頭の中で仮説が形をとろうとする。しかし、それがなんなのか、上手く言葉にならない。
「あぁ、頼む」
 ルルーシュの言葉に彼はそのまま出て行った。
「……まさかと思うけど」
 ようやくそれらしいものができたので、スザクは口を開く。
「何だ?」
「神楽耶の結婚相手、って中華連邦の『誰か』って可能性はないか」
 この言葉に、ルルーシュは考え込むようにあごに拳を当てた。
「可能性はないわけではないな」
 そのまま、彼は言葉を口にする。
「だが、現在の天子は女性だと聞いた記憶もある」
 しかも、スザク達よりも幼い年齢ではなかったか。
「中華連邦って、同性同士の結婚、認められていたっけ?」
 記憶にはない。だが、同性同士の結婚が認められている国も存在しているのだ。
「……いや、あそこは同性婚は認められるどころか禁止されているはずだ」
 ブリタニアと違って、と彼は続ける。
「じゃ、他に誰かいるのか?」
 神楽耶と年齢が釣り合うような人間が、とスザクは呟く。
「それに関しては調べておこう」
 ルルーシュは即座にそう口にした。
「ブリタニアとしても、神楽耶嬢が中華連邦に縁づかれると困る」
 彼はかすかに眉根を寄せるとそう続ける。
「そのくらいなら、名目だけでもいい。誰かと婚約をさせる方がいいな」
 できれば避けたいことだが、と彼はため息をついた。
「それに関しても、後で考えてみよう。拙速な行動は避けた方がいいだろうしな」
「……本当に厄介事しか持ち込まないんだから、あいつは」
 スザクにしてみれば、そうとしか言いようがない。
「そう言うな、スザク」
 苦笑とともにルルーシュは口を開く。
「彼女はお前に甘えているのかもしれないぞ」
 何を言われたのか、一瞬、理解できなかった。
「……ありがた迷惑」
 だが、意味を認識した瞬間、こんなセリフが口から飛び出してしまう。
「先に縁を切ったのはあっちの方なのに、都合のいいときだけそんなこと言われても嬉しくない」
 むしろ、ウザイ……と心の中で付け加えた。
「ともかく、それに関しては俺が調べておく。お前は心配しなくていい」
 任せておけ、と彼は言う。それに、スザクは小さくうなずいて見せた。
「いい子だ」
 ルルーシュはそう言って微笑む。
「子供じゃない」
 もう、とスザクは視線をそらす。
「そう言うところが子供だよ、まだ」
 確かにそうかもしれない。初めて会ったときのルルーシュと今の自分は同じ年齢だ。だが、あのときのルルーシュの方がずっと大人だったようにスザク思う。
「……ルルーシュを守れる人間になりたいのに」
 ついでに甘えてくれるともっと嬉しい。
「将来に期待しておく」
 ルルーシュはそう言って笑った。
 その笑顔を何時間でも見ていていたい。そういうクロヴィスの気持ちがいやと言うほど理解できるスザクだった。



12.05.21 up
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