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恋は戦争?

スピネル


 藤堂の身柄を確保した。その連絡があったのは朝食後のことだった。
「そうか……会えるか?」
 ルルーシュはそうジェレミアに問いかけている。
「お望みとあらば……ただ、できればあちらにも落ち着く時間を与えて欲しいと思います。あくまでも私の勝手な考えですが」
 藤堂にしてみれば不本意な状況であることは間違いない。そんなところにのこのこと顔を出すのはまずいような気がする。
 スザクですら、そう考えるのだ。ルルーシュがわからないはずがない。
「確かにそうかもしれないな」
 彼はそう言ってうなずいた。
「どのみち、俺もすぐには動けない」
 クロヴィスがまた厄介事を押しつけてくれたから、とルルーシュはため息とともに告げる。
「クロヴィス殿下が、何を?」
 藤堂の件で最近政庁にいなかったからか。ジェレミアはクロヴィスのことを知らないらしい。
「……敵前逃亡」
 スザクは小声で呟く。
「敵前逃亡?」
 意味がわからないというようにジェレミアは繰り返す。
「今日の会見の予定をすっ飛ばして逃亡中」
 もう少し詳しく説明してもいいのだろうか。ともかく、ルルーシュの制止が入らないから大丈夫だろう。そう思って少しだけ詳しく告げた。
「今日の会見の相手、と言えば……あぁ、中華連邦の」
 ひょっとして、ルルーシュだけではなくクロヴィスの予定もすべて把握しているのか。少し考えただけでジェレミアは納得したというようにうなずいてみせる。
「……中華連邦って、藤堂さんのことに関係しているのかな?」
 あるいは神楽耶達と、とスザクは無意識のうちに口にしていた。
「可能性は否定できないな」
 時期が時期である以上、とルルーシュもうなずく。
「ぼろを出すとは思えないが、かまをかけてみるか」
 それがいいかもしれない、と彼は続ける。
「今日はお前が付き添え、ジェレミア」
 しかし、これは予想もしていなかった一言だ。
「僕じゃだめなの?」
 ルルーシュへと視線を向けるとこう問いかけた。
「ロイドが到着した」
 それに対する彼の返答がこれだ。
「へっ?」
「しゃしゃり出てこられると厄介だ。だから、見張っていろ」
 意味がわからないと首をひねるスザクに、ルルーシュはさらにこう言った。
「何、それ……人身御供?」
 それとも生き餌? と意味のわからないセリフをスザクは口にしてしまう。
「違うな」
 即座にルルーシュが言葉を口にする。
「似たようなものだが、微妙に違う」
 どこが違うというのだろうか、とスザクは心の中で呟く。
「今回だけは言うことを聞け。理由は後で教えてやるから」
 小さな子を説得するかのようにルルーシュは言葉を重ねる。
「……わかったよ」
 ここまで言われては引き下がらないわけにいかない。スザクはため息とともにうなずいて見せた。

 相変わらず、ロイドはランスロット以外、目に入っていないのではないか。自分と会話を交わすのも、とりあえずランスロットを動かせるからではないか としか思えない。
 本当は、彼につきあうよりもルルーシュのそばにいたかった。心の中でそう呟いたときだ。
『スザク君、今日はどうしたのかなぁ?』
 それを読み取ったかのようなタイミングでロイドが声をかけてくる。
『数値が下がっているよぉ! これじゃ、ランスロットの実力の半分も出せないじゃ……』
 しかし、彼の言葉は妙な音ともに途切れた。同時に、モニターから彼の姿が消える。
『ごめんね、スザク君』
 代わりにセシルの声が耳に届く。それで何があったのかわかってしまった。
「いえ。それよりもロイドさんは……」
『気にしなくていいわよ』
 微笑みだけですべてを納得させられる彼女は、特派最強の人物だ。
 それよりも、どうして自分の周りにはこんな人しかいないのだろうか。
『でも、確かにシンクロ率が落ちているわ。何か心配事でもあるのかしら?』
 本当に心配してくれている、とわかる声音でセシルが問いかけてきた。
「……ルルーシュが、今日、中華連邦からの使者に会っているんですが、あまり評判のよくない人みたいで……」
 だから、とスザクは付け加える。
『あぁ、そういうこと』」
 納得、と彼女はうなずく。
『でも、お一人で行かれたわけではないんでしょう?』
「ジェレミア卿が同行されているけど……こういうときに一緒に行けなくても、専任騎士なのかなって考えたら止まらなくなったんです」
 言葉にしたことで、スザクは自分が何を落ち込んでいたのか、はっきりとわかった。同時に、ますます落ち込みたくなる。
『中華連邦の使者、ね』
 どうやら、復活したらしいロイドが口を挟んできた。かすかだがキーボードを叩く音もする。どうやら、どこからか情報を入手しようとしているらしい。
『あぁ、この人かぁ』
 やがて目的のデーターを見つけたのだろう。ロイドは納得したようにうなずいている。
『これじゃ、ルルーシュ様が君をおいていてても仕方がないねぇ』
 ロイドはさらに言葉を重ねた。
『そうなんですか?』
 セシルがこう言ってモニターから姿を消す。
『……これ、本当なんですか?』
 次の瞬間、彼女のこんな声が耳に届く。
『ブリタニア軍の情報局のデーターが間違っていなければ、だけどねぇ』
 それにロイドが言葉を返している。
『確かに、これではスザク君を連れて行くのはためらいますよね』
 セシルがため息とともにそう言う。
「ロイドさん? セシルさん?」
 だから、何の話なのか。スザクは言外に問いかけた。
『今日の会談は何時までの予定?』
 それにセシルが聞き返してくる。
「十五時半にあちらの大使館を出る予定だったと」
 確か、と記憶を探りながらスザクは言い返す。
『なら、話しても大丈夫かなぁ……そろそろ終わる頃だし』
 もうそんな時間だったのか。そう思いながらスザクは自国を確認する。そうすれば、確かに十五時を過ぎていた。
『ごまかすのも難しいからストレートに言うけどぉ。この人、女性よりも同性の方が好きなんだよねぇ。それも十八歳以下の男の子』
 どんな美形でも十八を過ぎると対象から外れるらしい。ロイドはそう続ける。
『要するに、オデュッセウス殿下のど……』
 本日二度目の鈍い音が周囲に響く。確かに、それは口に出してはまずいセリフだろう、とスザクですら思う。
『ともかく、ジェレミア卿がご一緒なら何も心配いらないわ』
 セシルがスザクをなだめるようにこう言ってくる。
『でも、顔を見ないと安心できないのでしょう? だから、今日の実験はここまでにしましょう』
「いいんですか?」
 反射的にそう聞き返す。
『だめぇ! 今日の予定はまだ終わってないよぉ』
『何を言っているんですか。ロイドさんはこれから私とあれこれお話をしないといけないでしょう? スザク君にかまっている余裕はないはずです』
 セシルの言葉が微妙に怖い。
『セシル君……あのね』
 ロイドの声が微妙に震えているのは錯覚ではないだろう。しかし、ここで下手に彼に味方をして、せっかくのチャンスを無駄にするつもりはない。
「じゃ、僕は先に上がりますね。セシルさんも疲れない程度にしてください」
『わかっているわ。気をつけて帰ってね』
 彼女のこの言葉をかけると同時に、スザクはランスロットのハッチを開ける。ワイヤーを使って下りるのももどかしいとばかりと飛び降りた。

 着替えもそこそこに政庁に戻れば、ちょうどルルーシュも帰ってきたところだった。
「スザク?」
 どうしたのか、と彼は問いかけてくる。予定ではスザクが戻るのはもっと後だったからだろう。
「ロイドさんがまた、セシルさんにお説教されていて、テストどころじゃなくなったから」
 それだけで彼にも事情が飲み込めたらしい。
「……懲りないな、あいつも」
 苦笑とともにうなずいてみせる。そんな彼のそばにスザクは駆け寄った。
「まぁ、いい。お茶にしよう」
 こう言ってルルーシュはスザクの頭に手を置く。身長差があるのだから、仕方がない。それはわかっていても、やっぱり悔しい。
 追い越すのは無理でも、絶対に追いついてみせる。心の中でスザクはそう呟いていた。

 その日からスザクが飲む牛乳の量が倍増した。



12.05.29 up
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