恋は戦争?
スファレライト
唐突に神楽耶が押しかけてきた。
「前触れもなく、何の用事?」
会いたくもないのに、何故、こうして顔を合わせなければいけないのか。そう思いながらスザクは問いかける。
「彼がブリタニアに捕まったというのは事実ですか?」
珍しくも感情を隠さずに神楽耶は問いかけてきた。それが誰のことを言いたいのか。わからないはずがない。
「ノーコメント」
しかし、だ。それを告げるわけにはいかない。
「お従兄様!」
スザクのそんな態度にじれたように神楽耶は怒鳴りつけてくる。
「僕はあくまでもルルーシュの騎士だからね。優先すべきなのはルルーシュのことだよ」
神楽耶達が自分達に隠し事をしているように、と言外に続けた。
「わたくし達は隠し事など……」
「しているだろう?」
違うのか? と口にしながらスザクは神楽耶の顔をにらみつける。
「それも、ルルーシュを傷つけることを」
それだけは絶対に許せない。
「あぁ、そうだ。もし、藤堂さんがブリタニアに捕まったとしても、殺されることはないと思う。少なくとも、マリアンヌさんが会うまでは」
このくらいならば教えてもいいだろうか。そう思いながらスザクは口にする。
「……それは本当ですの?」
「少なくとも、ルルーシュの指示はそうなっていた」
それを無視できる人間はここにはいない。
「ブリタニアの軍人なら、それに逆らうとは思えないけど?」
ルルーシュだけではなくマリアンヌの指示もある以上、と続けておく。
「わかったなら、帰れ」
これ以上つきあってやれるほど、自分は暇ではない。
今だってルルーシュを一人にしてしまっているのだ。
政庁内だって、安全とは言いがたい。だから、少しでも早く彼のそばに戻りたいのだ。
「……いやですわ」
それなのに、神楽耶はこう言ってくれる。
「藤堂の安全がわかるまで、お従兄様のそばにいます」
さらにこんな宣言をしてくれた。
「お前な……」
何、馬鹿なことを言っているのか。そう思わずにいられない。
「不本意ですが、お従兄様の部屋の隅にでも置いてくだされば結構です」
だが、彼女は一歩も引く気配を見せない。
「……お前が我慢できるはずがないだろう!」
そんな生活、と叫ぶ。
「僕は自分の権利を譲るつもりはないし、食事その他もお前の分はないんだぞ? 包丁を持ったこともないくせに、何を言っているんだよ」
結局は、昔のように自分をこき使おうとするに決まっている。それを認める気はない、とスザクは言う。
「できますわ。わたくしは皇の女ですもの」
やってやれないことなどない。彼女はそう言って胸を張る。
「……嘘付け」
スザクは即座にそう言った。
「どうせ、すぐに人に押しつけようとするくせに」
今までに何度同じようなセリフを口にして失敗しているのか。自分はよく知っている。
「今度は本気ですわ」
いつも、最初は本気と言うだろう。そう突っ込んでやろうか。スザクがそう考えたときだ。
「そこまでおっしゃるなら、私の客と言うことで部屋を用意させましょう」
背後からルルーシュの声が響いてくる。
「ルルーシュ?」
いつの間に、と思いながらスザクは振り向く。
「お前が飛び出したきり帰って来ないからな。気になって見に来ただけだ」
「ごめん。すぐに戻るつもりだったんだけど、さ」
神楽耶がだだをこねてくれたから、と続ける。
「いや、いい。どうやら、神楽耶様にはご事情がおありのようだ」
きれいな笑みでルルーシュはそう口にした。しかし、それが作った笑顔だと神楽耶にはわかっているのだろうか。
「よろしいのでしょうか」
おずおずとした口調で神楽耶は問いかけている。しかし、やはり彼女も本心を隠しているように思えた。
まるで、狐と狸の化かし合いだ。とてもではないが、自分にはつきあいきれない。そう心の中で呟く。
「かまいませんよ。ただ、外部との接触は制限させていただくことになるでしょうが」
覚悟の上だろうし、とルルーシュは続ける。
「むしろ、その方がありがたいかもしれませんわね」
だが、神楽耶の答えは予想していたものと違った。
「わたくしがここにいると知られたくありませんもの」
それは本心から出た言葉だとわかる。
「桐原のジジィが大騒ぎするだろう。お前の行方がわからなければ」
「勝手に騒いでいていただけばいいのです」
言葉とともに彼女は表情を歪めた。
「桐原のジジィが何かやったのか?」
今回の神楽耶の暴走の理由は彼にあるのではないか。そう判断をして問いかける。
「知りません!」
即座に彼女は怒鳴り返してきた。
「じゃ、草壁さん?」
ぼそっと気になっていた名前を口にする。その瞬間、神楽耶の表情がこわばった。
「……あの男が関係しているようですね」
ルルーシュも何かを気づいたのだろう。そう告げる。
「そういえば、お前にも会いたいそうだぞ」
草壁は、とルルーシュはここで言ってくれた。彼には彼なりの計算があるのだろう。しかし、スザクには違う。
「何考えてんだよ、あの人!」
反射的に叫んでしまった。
「俺に聞くな、俺に。いくら俺でも、他人の心の中まではわからない。推測はできるがな」
ルルーシュはため息とともに言葉を重ねる。
「あちらの天子は女性だろう?」
だから、適当な男性と結婚させて取り込んでしまえばいい。そう考えているのではないか。
「中華連邦で何かあったのかもしれない」
調べさせてみるか、とルルーシュは続ける。
「……草壁さんに会った方がいいの、僕?」
とりあえず、とスザクは問いかけた。
「いや。それはしなくていい」
ルルーシュはすぐにそう言ってくる。
「神楽耶様と違って、クサナギ中佐は何をしてくれるか、わからないからな」
彼はさらに言葉を重ねた。
「大事なお前をそんな場所に行かせる必要はない。少なくとも、今はな」
それ以外に方法がないというのであれば、話は別だが。それは指揮官として当然の言葉だろう。
「あらあら……ひょっとして、わたくしはのろけを聞かされているのでしょうか」
真顔で神楽耶が問いかけてくる。
「そう思われたければご自由にどうぞ。ただし、スザクが私はもちろん、ヴィ家にとっても大切な存在だと言うことは事実ですから」
きれいな微笑みとともにルルーシュは言葉を口にした。それがとても嬉しいと思う。でも、もう少し別の言葉も欲しい。
「とりあえず、部屋を用意させますので、今しばらくここでお待ちを」
スザク、とルルーシュは続けた。
「何?」
「お前は俺の護衛だ。神楽耶様のそばには別のものを手配する」
「わかった」
自分はそれでかまわない。むしろ、その方がいいとスザクは思う。
「ご心配なく、神楽耶様。ここであなたを傷つけさせるようなまねはしませんから」
自分の名にかけて、とルルーシュは付け加える。
「信用させていただきますわ」
神楽耶が偉そうな口調でそう言った。
「では、今はこれで」
ルルーシュはそういうときびすを返す。
「勝手なことをするなよ?」
スザクは神楽耶に念を押すように言葉を投げつけた。
「わかっていますわ」
不満そうな表情で神楽耶は言い返してくる。それを無視して、スザクはルルーシュの後を追いかけた。
「厄介事にならなきゃいいけど」
ルルーシュが認めた以上、自分が口を出すことではない。それはわかっていても、どこか違和感が抜けない。
「お前もジェレミアもいる。だから、大丈夫だろう」
しかし、それもルルーシュのこの言葉であっさりと治まる。そんな自分の単純さにスザクは同反応をすればいいのか、と本気で悩んでしまった。
12.06.04 up