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恋は戦争?

プラチナ


 ランスロットの中はとりあえず一人になれる。だから、気が緩んでしまうのだろうか。スザクは無意識にため息をついてしまった。
『スザク君、どうかしたのかなぁ?』
 だが、それはしっかりと聞き耳を立てていた相手にばれてしまったらしい。即座に問いかけの言葉が飛んでくる。
「ちょっと、個人的な悩みがありまして」
 いろいろと考えてしまうのだ。そう続けた。
『何、何? いくらでも相談に乗るよぉ!』
 ロイドが即座にこう言ってくる。
 だが、はっきり言って、彼に相談をしても何の意味もない。むしろ、事態が悪化するだけではないか。
『どうしたのかなぁ?』
 スザクが口を開かないのが気に入らないという口調でロイドがさらに問いかけの言葉を口にする。
「自分で答えを出さないと意味がないことですし……」
 こう言って、スザクは断ろうとした。
『でも、そのせいでランスロットのテストに支障が出たら、意味がないでしょぉ』
 やはり、と言うセリフを彼は口にしてくれる。
 それでも、だ。
「プライバシーですから」
 だから、相談はしない。言外にそう続けた。
「テストに支障が出るというなら、解決するまで、こちらは休ませていただきます」
 元々、今日だって来る予定はなかった。ロイドがルルーシュだけではなく、本国のシュナイゼルにまで泣きついたから、渋々やってきただけだ。
『だから、それはだめぇ!』
 相談に乗るからぁ! とロイドが叫ぶ。
『ロイドさんに相談をしたら、結論が出る前にこんがらかって終わりじゃないですか』
 鈍い音ともにセシルの的確な突っ込みが耳に届く。
『第一、相談に乗れると思っていらしたんですか? ご自分がまっとうな人間関係を築いていないのに』
 無理なことを言わないでください、と彼女はさらに突っ込みを続けている。
「さすが、セシルさん」
 もう感心するしかない。
『というわけで、スザク君。しばらくこの人に説教をするから、好きなだけ悩んでいていいわよ』
 時間まで、とセシルは続けた。
『それと、今日のテストはここまででいいから。後は、時間になったら政庁に戻ってかまわないわ』
『それはだめぇ!』
 セシルの言葉を否定しようとロイドが叫ぶ。
『ロ・イ・ドさん?』
 スタッカートを効かせてセシルが彼の名を口にした。
『あぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
 いったい、自分が知らないところで何があったのだろうか。ロイドの反応に、スザクは本気でそう考えてしまう。
「じゃ、通信を切りますね」
 そのあたりはロイドの名誉のために突っ込むのはやめておこう、とすぐに思い直してスザクはこう言った。そのまま手を伸ばして通信機をオフにする。
「ルルーシュのあの態度もだけど、神楽耶は本当に何しに来たんだろうな」
 もう半月近くになるのに、未だに彼女の真意がわからない。
「ルルーシュの足を引っ張らないといいんだけど」
 ため息とともにそうはき出す。
「後は、テロか……あいつ、自分が馬鹿をすれば、ゲットーにいる人間を巻き添えにしかねない、とわかっているんだろうな」
 ルルーシュが傷つけられれば、クロヴィスはもちろん、ブリタニアに残っている者達が怒るのは目に見えている。そして、そのつけを払うのか神楽耶達だけではすまないだろう。
「さっさと追い出せればいいんだけどな」
 それは難しいだろう。
 後は、やはり神楽耶の口を割らせるしかない。そのためにはどうすればいいのだろう。
「藤堂さんに相談できるといいんだけどな」
 無意識のうちにこんなセリフがこぼれ落ちていた。

 時間になったので、ラボを出て政庁に戻ろうとしたときだ。
「クルルギ!」
 こちらに駆け寄ってくる人物が確認できた。
「……ヴィレッタ卿?」
 いったい、何故、彼女がここにいるのだろう。何かあったのだろうか。
「よかった。行き違いにならないで」
 ほっとしたような表情で彼女は言葉をかけてくる。
「……何かありましたか?」
 即座にそう言い返す。
「と言うか……」
 ため息とともに彼女は一枚のメモを差し出して来る。
「彼女がこれを欲しい、と言ったのだが……私には読めなくてな」
 ヴィレッタの言葉に『まさか』と思う。そのままメモを受け取って中身を確認すれば、そのまさかが事実だとわかってしまう。
「……日本語……何を考えているんだ、あいつは」
 読めないものを渡してどうするつもりだったのか。そう考えると同時にため息が出てしまう。
「ジェレミア卿が、お前なら読めるとおっしゃってな」
「読めます。日本語ですから」
 多少、わからない漢字はある。だが、推測で何とかできそうだ、と言うことはあえて言わないでおこう。
「これを買って来いってことか」
 と言うことは、本気で料理をするつもりなのか。それはそれで怖いことになるような気がする。
「ルルーシュ様は、何かおっしゃっていましたか?」
 ジェレミアが見たのであれば、当然、ルルーシュも知っているはずだ。だから、と思って問いかけてみる。
「クルルギに任せる、と」
 つまり、買っていっても買わなくてもいいというのだろう。
「……買い物をしてから帰ります」
 ついでに、本屋に行って簡単な日本食の作り方の本も探してやろう。もちろん、これは嫌がらせだ。
「つきあおう」
 ヴィレッタがこう言ってくれる。
「お願いします」
 彼女が好意で言ってくれているとわかったから、スザクも素直にうなずいて見せた。

 両手で抱えてきた荷物をテーブルの上に置く。
「これは、何ですの?」
 神楽耶が不審そうに問いかけてくる。
「お前に頼まれた買い物」
 何だ、はないだろう。スザクはそう言外に付け加えた。
「冷蔵庫に入れておいた方がいいのは、今は厨房に預かってもらっている。明日までに、この部屋用の冷蔵庫が用意できるはずだ」
 本当に、そこまでしなくていいのに。そう思いながら口にする。
「まぁ、せいぜいがんばるんだな」
 しかも、だ。ルルーシュはとんでもない発破を彼女にかけるつもりらしい。
「上手く作れるようになったら、藤堂さんを探してくれるってさ」
 食べさせたら喜ぶだろうな、と続ける。
「……つまり、それまでは藤堂は処刑されずにすむのですね?」
 いったい、どうしたらそうなるのか。
「ルルーシュは最初から藤堂さんも誰も殺したいって思ってないよ」
 勝手に決めつけるな。そう続ける。
「もっとも、日本人が民間人を巻き込むようなことをしなければ、だけどな」
 そんなことを考えているなら、早々に白状しろ。言外にそう告げた。
「ともかく、お礼を申し上げておきますわ」
 だが、神楽耶はこう言って強引に話題を終わらせようとする。
「近いうちに、きちんとしたものを作って見せますわ。皇の名にかけて」
 見ているがいい、と彼女は続けた。
「……期待しないで待っているさ」
 それにスザクはこう言い返す。
「くれぐれも、火事だけは出すなよ?」
 さらにそう付け加えると、さっさと体の向きを変える。
「いつまでも、減らず口をたたけると思わないでくださいませ」
 この言葉を背中にスザクはさっさと部屋を出た。とたんに、疲労感が襲ってくる。
「……ルルーシュの顔、見に行こう……」
 そうしよう、とスザクは呟く。そうすれば、少しは気分が浮上するような気がする。そんなことを考えながら、歩き出した。



12.06.25 up
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