INDEX

恋は戦争?

クリソーラ


 目の前に並べられた料理に、神楽耶も目を丸くしている。
「ルルーシュ、どうしたの、これ」
 嬉しいけど、とスザクはスザクで口にした。」
「気分転換にな。たまにはこういうのもいいだろう?」
 ルルーシュがそう言って笑った。
「日本食は久々だから、自信はないがな」
 確かに、こちらに来てからは作っていない。だが、ブリタニアにいた頃はよく作ってくれていた。そして、そのどれもが料亭の料理と言っても納得できるものだった。
「大丈夫。ルルーシュはものすごく料理が得意じゃん」
 スザクはそう言って笑う。
「……ルルーシュ様はどうして和食を?」
 神楽耶が不思議そうに問いかけた。
「旨い、と思ったからですね。それに、スザクが喜ぶ」
 おいしそうに食べてくれるから作りがいもあった。そう言われて、どんな表情を作ればいいのか。スザクにはすぐにわからなかった。
「ヘルシーですからね。ダイエットになると言っていた人間もいますし」
 神楽耶にはわからないだろうが、スザクにはそれがマリアンヌだとわかってしまう。
 彼女にダイエットが必要なのか。悩むところではある。だが、それは指摘しない方がいいだろう。
「ともかく、暖かいうちにどうぞ」
 ルルーシュは微笑みながら言葉を口にした。
「いただきます!」
 ルルーシュはもちろん、神楽耶にも遠慮する必要はない。それに、先ほどから腹の虫がなっているのだ。だから、とスザクはお箸を手にするとこう言った。
「……お従兄様……」
 あきれたように神楽耶がにらんでくる。
「ルルーシュのご飯は、本当においしいんだぞ? 冷めたらもったいないじゃないか」
 スザクはきっぱりと言い切った。
「それとも、なんだ? 自分の料理より見た目も味も上の料理は食べたくないって?」
 からかうような口調でさらにそう付け加える。
「そんなことはありませんわ」
 即座に神楽耶はそう言い返してきた。
「見た目通りのものなのかどうか。それが心配なだけですわ」
 それは負け惜しみと言っていいのだろうか。
「お前が作るものよりまずいものはないと思うけどな」
 違うのか? と問いかければ、神楽耶のまなじりが切れ上がる。
「……その言葉、覚えていてくださいませね」
 その表情のままこんな言葉を口にすると、彼女は洗練された所作で箸を手に取った。それだけはさすがだとほめていいのかもしれない。
 だが、それも実際に料理を口に運ぶまでだ。
「嘘……」
 こう呟くと、彼女は凍り付いたように動きを止める。
「……だから、旨いって言ったじゃないか」
 ルルーシュの料理は、とスザクはため息とともに告げる。
「人の話を疑うのもいい加減にしろよ」
 さらにこう付け加えた。
「普通、信じられると思います?」
 それに神楽耶は反論をしてくる。
「せいぜい、作れてお菓子程度だと思っておりましたのよ?」
 高貴な家の人間なら、と彼女は続けた。
「それもできない人間が言うセリフじゃないよな」
 お菓子も作れないくせに、とスザクはあざ笑うかのように告げる。
「スザク。そこまでにしておけ」
 苦笑とともにルルーシュがそう言う。
「うちの母さんの教育方針が、かなり型破りだとお前も知っているだろう」
 さらに彼はそう付け加える。
「そうかもしれないけどさ。でも、頭から決めてかかっている方が悪いじゃん」
 第一、とスザクは神楽耶をにらみつけた。
「自分ができないのに、頭ごなしに決めつけるのは馬鹿のすることだって、言った人間がそこにいるからさ」
 昔の話だが、とスザクは言う。
「……確かに、そう言いましたわね……」
 否定はしない、と神楽耶が言い返してくる。
「ですが、あなたの言葉をどこまで信用していいものか。わたくしにはわかりませんでしたもの」
 日本人としての矜持を捨てたスザクを、と彼女は続けた。
「……日本人としての矜持って、なんだよ」
 そもそも、とスザクは聞き返す。
「日本食を食うこと? それとも、作れること?」
 そんなのは習慣であって矜持じゃない。さらにそう付け加えた。
「僕が僕としていることじゃだめなのか?」
 自分が自分として存在していること。それでは、とスザクは問いかける。
「僕は自分自身が今まで経験してきたことを否定しないぞ」
 こう言いながら、神楽耶をにらむ。
「ルルーシュだって、マリアンヌさんだって、アリエスで竹刀を振り回そうと気にしてないし」
 マリアンヌに至っては、逆に推奨をしてくれている。
 ルルーシュの他のきょうだい達だって、日本を否定していない。
「第一、一番悪いのは戦争をふっかけた人間だろう?」
 自分の父も含めて、とスザクは言う。
 ブリタニアで過ごしていた時間で、素直にそう言いきれるようになった。だからといって、彼らがそういう意味で自分を非難したことはない。神楽耶達が、終戦後あれこれ言ってくれたにもかかわらずだ。
「……おっしゃりたいことは、それだけですか?」
 神楽耶は不満そうにそう問いかけてくる。
「とりあえずは、だけどな」
 スザクはそう言い返す。
「反論は後にしてくれよ」
 できれば、とさらに付け加えた。
「旨い飯は気分よく食べたいから」
 ルルーシュの手料理は滅多に食べられないのだ。だから、少しでもおいしく食べたい。
「そうですわね。それは否定しませんわ」
 珍しくも神楽耶が素直にうなずいてみせる。
「悔しいですが、本当においしいですわ」
 さらに彼女は付け加えた。
「お褒めいただいて光栄の至りです」
 ふわりと微笑むと、ルルーシュはそう言う。それに見とれたのか。神楽耶の箸が止まる。
「ルルーシュ……そう言う笑顔は身内以外には見せなくていいって」
 正確に言えば、自分以外には見せて欲しくはない。だが、マリアンヌやナナリーは見て当然の人間だから妥協するしかないとわかっている。ジェレミア達も、だ。
 でも、それ以外の人間には見せる必要がないと思う。
「そうか?」
「そうだよ! ナナリーとかユーフェミア殿下に質問すれば、絶対同じ答えを言ってくれると思うけど?」
 さらにこう付け加える。
「……ナナリーとユフィもか。なら、そうなのかもしれないな」
 しかし、ルルーシュがこうあっさりと納得するとは思わなかった。
「何か間違っていません?」
 神楽耶がそう言って首をかしげている。
「何かって、なんだよ」
 スザクは負けじとそう聞き返す。
「……何かですわ」
 うまく言えませんけど、と彼女は負けじと口にする。
「それじゃわかんないだろう」
 わかるように説明をできなければ意味がないのではないか。そう続ける。
「……真理ですわね」
 スザクに言い負かされたのは悔しいが、と神楽耶は顔をしかめた。
「ともかく、お従兄様はお従兄様だと認めて差し上げます」
 ものすごく気に入らないが、と彼女の顔に書いてある。
「別にお前に認めてもらわなくてもいいよ。それより、ルルーシュ。ご飯、おかわりしていい?」
 もう興味がないとばかりに視線を移動した。
「もちろんだ。たくさん食べて大きくなれ」
 小さな笑いとともにルルーシュが言葉を返してくれる。
「親子ですわね、まるで」
 神楽耶のこのセリフはきれいに無視して、スザクは彼に茶碗を手渡した。



12.07.23 up
INDEX
Copyright (c) 2011 All rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-