恋は戦争?
アマゾナイト
神楽耶がまっとうな料理を作れるようになった。と言っても、確実なのはまだ味噌汁とご飯ぐらいだ。卵焼きはたまに焦がす。
「何か文句ありまして?」
それでも作れるようになったからか。彼女はこう言って胸を張る。
「何も言ってないだろう?」
ため息とともにスザクはそう言い返す。
「上達されたと感心しているだけですよ」
ルルーシュはルルーシュで微笑みを浮かべる。
「……そうですね、神楽耶様。明後日、時間がとれますので三人でちょっと出かけましょう。おにぎりを作っていただけますか?」
それと卵焼きを、と彼はその表情のまま続けた。
「ついでに、たこさんウインナーでもセットすれば? 彩りを考えれば緑のも欲しいけど」
キュウリにハムでも巻いておけ、とスザクは笑いながら言う。そのくらいならば、失敗することはないだろう。
「お弁当ですわね。わかりました」
しかし、それが神楽耶に火をつけたらしい。即座にこう言い返してくる。
「煮物も作ってみせますわ」
こうなれば、と彼女は言い切った。
「……食べられるものなら、何でもいいよ」
スザクはため息とともにこう呟く。
「お従兄様!」
「本当のことだろう? 味がしみていないならともかく、焦げているのは食えない」
とりあえず、料理に関しては言うべきことは言う。そのスタンスのまま、スザクは言葉を口にした。
「それよりも、和え物の方をがんばった方がよくないか? ごま和えとかさ」
唐揚げは難しいから言わないでおこう。心の中でそう呟く。
「……ごま和えですね。煮物の他に作ってみせます」
ここまで言われたら引き下がれない。彼女はそう言う。
「あきらめるんだな、スザク」
笑いながら、ルルーシュが口を挟んでくる。
「神楽耶様を本気にさせたんだ。責任を持つのはお前の役目だ」
そうだろう、と彼は続けた。
「ルルーシュが、そう言うなら、仕方がない」
ため息とともにスザクはこう言い返す。
「そのときは神楽耶に責任を取ってもらおう」
自分は責任を取らないからな、と先に宣言をしておく。
「もちろんですわ」
きっぱりと神楽耶は言い切る。これで大丈夫だろう。スザクはそう確信をしていた。
そして、当日。
神楽耶の手には三段重ねのお重がある。
「持ってやるから、よこせよ」
落とされると後が厄介だ。そんなことを考えながら、スザクは手をさしのべる。
「……本当に変わられましたわね、お従兄様」
驚いたように神楽耶がこう言ってきた。
「後で文句を言われるのがいやなだけだよ」
それならば、先に手を出していた方がいい。スザクはそう言う。
「どちらにしろ、女性にものを持たせるのは、男としては問題だからな」
ルルーシュがからかうように口を挟んできた。
「ジェレミアが、今、車を回してくる。トランクに入れておけばいい」
さらに彼は指示を口にする。
「わかった」
確かに、その方が倒したりしなくていい。何よりも、自分が楽だ、とスザクは思う。
「それで、どこに行きますの?」
神楽耶が問いかける。
「内緒です。危険な場所ではありませんが、あまり他人に知られたくない場所ですから」
誰が聞いているかわからない。そうなれば、危険なのは自分達だけではすまなくなる。ルルーシュはそう続けた。
「桐原公が待っていることはない、とお約束させていただきます」
「……わかりましたわ」
ルルーシュにここまで言わせて、ようやく神楽耶は納得したらしい。小さくうなずいてみせる。
「さて……ジェレミアも来たようだし、荷物を載せたら出かけるぞ」
言葉とともにジェレミアが運転する車がルルーシュの前でぴたりと止まった。
「いいな。後で運転を教えてもらおう」
免許が取れるまでは敷地内だけでいいから、とスザクは呟く。
「そうだな。そうしてもらえると、あれこれと楽か」
ルルーシュがそう言って微笑む。
「考えておこう」
と言うことは大丈夫だろう。そう考えながら、スザクはお重をトランクに入れるために車の後部へと回った。
やっぱり目的地はここだったか。調布にある軍の刑務所の建物を確認してスザクはうなずく。
「ルルーシュ様?」
しかし、事情を知らない神楽耶には違和感しかないらしい。不思議そうに問いかけている。
「ここは、今は私の管轄下にあります。元は刑務所ですが、今は、表だって保護できない者達を集めておく施設ですよ」
ここならばブリタニア軍も手出しをできない。ルルーシュはそう説明する。
「どうしてですの?」
確かにルルーシュは偉いと思うが、と神楽耶は問いかけた。
「マリアンヌさんが最高責任者だから。さすがに、あの人に逆らえる人間はブリタニアにはいないよ」
苦笑とともにスザクは言う。
「スザク……いくら本当のことでもあまりおおっぴらにしないでくれないか?」
苦笑とともにルルーシュが言葉を口にする。
「そのおかげで、元日本軍の重要人物も保護できていますよ」
さらに彼はそう付け加えた。
「まさか!」
それだけで何かを察するところは『さすが』と言っていいのだろうか。
「藤堂鏡志郎とその部下達がいますよ」
ルルーシュの言葉に驚いたのは神楽耶だけだけではなかった。
「え?」
「マジ? いつの間に……」
スザクも思わずこう問いかけてしまう。
「……ご存じなかったのですか?」
あきれたように神楽耶が言ってくる。
「仕方ないだろう。ここしばらく、桐原のじいさんの襲撃を受けたり、そのせいで延期になったランスロットのテストを徹夜でしていたりしたからな。ルルーシュと顔を合わせるときは、大概お前と一緒だったし」
どこで話をする時間があるんだよ、と言外に告げた。
「ただでさえ、桐原のじいさんにお前のことをばれないように気を遣って疲れているのに」
ばらしてもよかったのか、とスザクはさらに付け加える。
「それは……申し訳ありませんでしたわ」
桐原のことは知らなかったのだろう。彼女はすぐに謝罪の言葉を口にした。
「まぁ、いいけどな」
こっちが勝手にやったことだ。スザクはそう言う。
「それよりも、いつ、仙波さん達が合流したんだ?」
そのまま視線をルルーシュへと移動した。
「お前が桐原公と話をした翌日かな?」
ルルーシュは確認をするようにジェレミアの後頭部へ問いかけの言葉を投げかける。
「そう記憶しております」
ジェレミアはすぐに言葉を返してきた。
「理由については、彼らも教えてくれませんが……とりあえず、藤堂ともにあそこでおとなしくしているようです」
「と言うことですよ、神楽耶様。理由をお知りになりたければ、ご自分でお聞きになってください」
今から顔を合わせるのだから、とルルーシュは微笑んだ。
「やっぱり、今日の弁当は藤堂さんに食べさせるつもりだったんだ」
このセリフはルルーシュに向かっていったつもりだった。しかし、何故か神楽耶が頬をこわばらせる。
「……そうだったのですか? なら、もう少しまじめに作るのでしたわ」
スザクに食べさせる予定だから、いつものように作ったのに。彼女はそう続ける。
「どういう意味だよ」
反射的に大声で問いかけた。
「簡単ですわ。お従兄様であれば、見た目なんて気になさらないでしょう」
どうしてそうなるのか。自分だって、見た目はちゃんと気にする。
「……ルルーシュの手料理が最高と思っている人間に向かって言うセリフか?」
味はもちろん、見た目だって最高なのに。そう続ける。
「本当に変わられましたわね。昔はそんなものを気にする方がおかしいとおっしゃっておられましたのに」
神楽耶はため息とともにこう言ってきた。
「一緒に食べてくれる人がいたからな」
一人で食べるなら、何を食べても同じだ。しかし、誰かと食べるなら話は違う。
「そういうことにしておきましょう」
わざとらしいため息とともに神楽耶はそう言った。
「そろそろつきます」
スザクがさらに何か文句を言おうとしたときだ。ルルーシュがこう言ってくる。
「話はそこまでにしておけ」
さらに彼はそう続けた。ここまで言われては、スザクにはもう何も言えなくなる。
「わかった」
不本意だけど、と口にすると同時に、車は門の中に吸い込まれていった。
12.09.03 up