恋は戦争?
ファイヤーオパール
「お久しぶりです、神楽耶様」
言葉とともに藤堂は頭を下げる。
「元気そうで何よりですわ」
そんな彼に向かって神楽耶は微笑みかけた。
「あなたの行方がわからなくなって心配していましたが……ルルーシュ様が保護していてくださったとは僥倖です」
そして、彼女はそう告げる。
「たまたまです。条件が合わなければ、いくら私でも保護するのは難しかったでしょう」
ここがクロヴィスの支配していたエリアで、ルルーシュの指示が徹底できていたからこそ可能だった。これが別のエリアであれば間に合わなかっただろう。ルルーシュはそう言った。
「藤堂のことはスザクの話を聞いた母さんが興味を示していたから、余計にかな」
だから、自分だけの力ではない。そう彼は続けた。
「その四人に関しては、私が見つけ出したわけではありませんしね」
そう言いながら視線を四聖剣へと向ける。
「決まっているだろう。ここに藤堂さんがいるからだ」
四聖剣の中の紅一点の千葉がそう言いきった。
「そうですね。藤堂さんに変な虫がつかないように見張っておかないと」
さらに朝比奈が胸を張ってこう続ける。
「……それって、まるで藤堂が深窓の姫君みたいではありませんか」
神楽耶がそう口にした。その瞬間、スザクは振り袖を着て窓際におかれた椅子に座っている女装の藤堂を脳裏に思い描いてしまった。
はっきりいって、気持ち悪い。
同じような想像をしたのだろう。藤堂だけではなく仙波と卜部もいやそうな表情を浮かべている。いや、さすがの千葉も少しだけげんなりとした表情を作っていた。
「藤堂さんなら似合いそうですけど」
しかし、朝比奈はへらへらと笑っている。やはり、彼はそうなのだろうか。その様子にスザクはそう判断をする。
「……わたくし、間違いましたか?」
言葉の選び方を、と神楽耶が首をかしげた。
「ブリタニア語は難しいですわ」
彼女はこう続ける。
「絶対、わざとのくせに」
スザクはそう呟く。
「ともかく、いい時間だからさ。続きの話は、お弁当食べながらにしようぜ」
味はちょっと怖いけど、とさりげなく付け加える。
「わたくしが作った料理に文句がありますの?」
即座に神楽耶が文句をつけてきた。
「今までの惨状を覚えているからだろう!」
料理と言えない消し炭の山とか、と付け加えれば神楽耶は恨めしげににらみつけてくる。
「とりあえず、おにぎりと卵焼きは大丈夫だと思うけど」
神楽耶作でも、とスザクはそれを無視して口にした。
「……心配するな、スザク君。もっと壊滅的な人間がここにいる」
神楽耶をフォローしようとしているのか。藤堂がこう言った。
「確かに。ひょっとしたら、神楽耶様の方がお若い分、伸びしろがおありになるかもしれん」
さらに仙波がこう言ってくる。
「あぁ、それはあるかも。とりあえず、食べられるものが増えてきたしな」
ルルーシュほどじゃないけど、と続けたのは無意識だ。
「ルルーシュ様と比べないでいただけます? ルルーシュ様のお料理は、確かにほっぺが落ちそうなくらいおいしいですけど」
それだけは認めざるを得ないのか。神楽耶もルルーシュの料理に関してはしっかりとほめている。
「あくまでも趣味の範囲内ですよ」
ルルーシュは苦笑とともに言葉を口にした。
「謙遜しなくてもいいのに」
「おいしいのは事実ですわ」
スザクと神楽耶が異口同音にそう言ったからか。ルルーシュの苦笑はさらに深まる。
「と言うことで、料理を広げたいんだけど」
とりあえず、とスザクは仙波達へと視線を向けた。
「ちょっと待て。今、場所を作る」
仙波はそう言うと、気軽に立ち上がる。その後に卜部も続いた。しかし、千葉と朝比奈は動く様子がない。
「年長者だけを働かせるな」
あきれたように藤堂が言葉を口にする。それでようやく動き出した彼らは、ちょっと、要注意かもしれない。スザクはそう考えていた。
ちょっと焦げているのと形の悪さに目をつぶれば、神楽耶の料理は合格点を与えてもいいような気がする。
「そろそろまじめな話をした方がいいだろうか」
箸を置くと同時に藤堂がこう言ってきた。
「そうしてもらえるなら」
ルルーシュもまた言葉とともに箸を置く。
「そもそも、何故、我々を自由にさせているのか。それを伺いたい」
自分達は先日まで反政府勢力の一員だったが? と彼は続けた。
「だが、あなた方は民間人は巻き込んでいない」
自分達に反抗する理由は理解できる。だから、それに関しては重要ではないのだ。
「何よりも、あなたはスザクの武芸の師匠だ。それだけでうちの母が興味を示してくれたのでね」
この二点が大きいか、とルルーシュは言った。もし、どちらか一つでも条件がかけていればきっと、自分は興味を示さなかっただろう。そうも続ける。
「なるほど。それならば、スザク君に感謝すべきなのかな?」
藤堂が視線を向けてきた。
「指示を出したのはルルーシュです」
自分はきっかけを作っただけだ。だから、感謝はルルーシュにして欲しい。スザクは言外にそう告げる。
「お従兄様。藤堂の気持ちも考えてあげてくださいな」
素直にブリタニアの皇子に感謝の気持ちを表せないのだろう。神楽耶が口を挟んできた。
「そういえば、神楽耶様は何故?」
図星だったのか。話題を変えようとするかのように藤堂が問いかけてくる。
「家出中ですわ。ルルーシュ様のところが一番安全ですもの」
自宅は安全ではなくなった。神楽耶はさらに言葉を重ねた。
「それと、もう一つ」
そのまま、視線をルルーシュへと移す。
「ルルーシュ様の人となりを、改めて確認させていただきたかったのですわ」
日本人のために最善の道を選ぶために、と彼女はそのまま言い切った。
「一番いいのは、ブリタニアから独立すること。しかし、それは現実的に無理でしょう」
残念ですが、とため息とともに言葉を吐き出す。
「いったい、どこと比べているんだよ」
スザクが低い声で問いかける。
「今年に入って、妙に澤崎の使いと名乗る者達がやってきておりますの。彼らが持ってきたものの中に釣書もありましたわ」
神楽耶がすぐにそう言い返してきた。
「桐原のじいさんは、お前にはもう、別の婚約者がいるって言ってたぞ。EUにいる日本人だとさ」
どこまで本当なのかはわからないが、とスザクは言う。
「……おそらくは、断るための口実でしょうね」
ため息とともに神楽耶が言葉を返してくる。
「あちらにいる方々と連絡を取れたとは聞いておりませんから」
「そうでしょうな」
神楽耶の言葉に藤堂も同意をする。
「日本と中華連邦。どちらがましか。桐原公も答えはわかっておられるはず」
さらに彼はこう続けた。
「もっとも、それがいつまで続くかはわかりませんが」
言葉とともに彼はルルーシュの顔をまっすぐに見つめる。
「少なくとも、兄が総督の間は現状維持できるでしょう」
他のものが総督になった場合、どうなるかはわからない。言外にルルーシュはそう告げる。
「例外があるとすれば、ここが衛星エリアに昇格したときでしょうか」
いずれそうなるだろうが、とルルーシュは続けた。
「もっとも、あなた方があちらと手を結んでいるという証拠が出れば、いくら私でもかばいきれません」
つまり見つからなければいいと言うことか。スザクはそう判断をする。
「少なくとも、わたくしや藤堂達は関係ないと申し上げます。そのために、ルルーシュ様のところへ参ったのですもの」
外部との接触を断つためにも、と神楽耶は言う。
「同じ日本人とはいえ、澤崎は信用できません」
きっぱりと彼女は断言をする。
「開戦の原因にも、あの男が関わっているようです。その背後に何者がいたらしいこともです」
それ以上はどうしてもわからなかった。神楽耶はそう続ける。
「我々もです」
卜部が初めて口を開く。
「ただ、あの男のところに中華連邦の人間が出入りしていたことだけは事実ですが」
何か、ものすごくきな臭い。そう考えるのは自分だけではないだろう。
「なるほど……そう言うことならば、ここでゆっくりされるがいい」
ルルーシュが静かな口調でそう告げた。
「おそらく、近いうちに動きがあるでしょう。少なくともそれが終わるまでは」
その後のことは、そのときに話し合おう。彼のその言葉に藤堂達は静かに首を縦に振って見せた。
12.09.10 up