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恋は戦争?

ペリドット


 その報告が届いたのは、夜明け前のことだった。
「……とうとう動いたか」
 普段は低血圧でなかなか起きてこないルルーシュも、今はしっかりと覚醒しているらしい。
「ジェレミア卿が出かけていたのは、キュウシュウだったのか」
 中華連邦があれこれとちょっかい出しているらしい。そんな噂があったから、ルルーシュがそれなりの手を打っているとは思っていた。しかし、腹心を向かわせていたとは考えても見なかったのだ。
「あいつなら俺の指示を待たなくても適切な対処を取ってくれるからな」
 だから、安心して任せられる。ルルーシュにそう言われるジェレミアがうらやましい。スザクは素直にそう考えてしまう。
「あいつも、お前がここにいるから安心してあちらに行けたんだぞ」
 そんなスザクの内心を読み取ったかのように、ルルーシュはこう言ってくる。
「お前が一緒に行動するようになる前は、あいつは絶対に俺から離れなかったからな」
 他にも部下はいたが、と彼は笑った。
「あいつに信頼されるとは、かなりのものだぞ」
 そう言われても、とスザクはため息をつく。
「こっちに残されたってことは、まだまだだってことだろ?」
 周囲には自分が《ルルーシュの騎士》だと認められていないと言うことではないか。
「そう言うわけではない。ただ、ジェレミアの方が軍人達は慣れ親しまれていると言うことだな」
 自分よりも十も年上だから、とルルーシュは口にする。
「こればかりは、な。俺が母さんに勝てないのと同じだ」
 経験だけはどうしようもない。彼はそう付け加える。しかし、それにはすぐにうなずけない。
「マリアンヌさんには、誰も勝てないだろう」
「……例が悪かったか」
 スザクの訴えに、ルルーシュは苦笑を浮かべた。
「ともかく、お前がそばにいないと俺が寂しいんだ」
 早口で言われたセリフを、どう受け止めればいいのだろうか。
「……ルルーシュ?」
 判断がつきかねて、思わず聞き返してしまう。
「ともかく、だ。ロイドには出撃すると言っておけ」
 あちらが動く前に叩く、とごまかすようにルルーシュは口にする。
「俺は兄さんに許可をもらってくる。お前はロイドに連絡をしたら、すぐに追いついてこい」
 スザクが本気で走ればすぐだろう。ルルーシュはそう言って笑った。
「……だから、ルルーシュ、今のは……」
 どういう意味? とスザクがそのものずばりの問いかけを口にしたときには、すでに彼は廊下へと出るところだった。普段の彼の行動から考えれば信じられない。
「やっぱり、ごまかされた」
 悔しい、とスザクは呟く。
 だが、ルルーシュがこんな風に慌てると言うことは、今のが彼の本音だと言うことではないか。
 そういえば、彼の耳が赤くなっていたような気もする。
「期待していいのかな?」
 これは、と呟く。
 ならば、今まで以上にがんばらないといけないか。心の中でそう呟く。
「仕方がない。ロイドさんに連絡をするか」
 彼がどのような状況になるのか。想像に難くない。それでも、ルルーシュの命令だから。自分にそう言い聞かせると行動を開始した。

「何で、移動が特派のトレーラー?」
 これではランスロット以外運べないではないか。スザクはそう問いかける。
「他のものは、すでに海上から移動して、明朝にはハカタに上陸するはずだ」
 ルルーシュがしれっとした表情でそう言ってきた。
「つまり、クロヴィス殿下に指示を仰ぐ前に独断で移動させていたってこと?」
 スザクが確認をするように問いかける。
「演習だ」
 最初から予定していた。ルルーシュはそう言いきる。
 しかし、とスザクは心の中で呟く。それならば、ルルーシュは自分で立ち会おうとするはず。だが、そんなスケジュールは組まれていなかった。
 と言うことは、やはり、口実なのか。
「そういうことにしておく」
 あまり突っ込まない方がいいだろう。スザクはそう判断をする。
「何でもいいよぉ! ランスロットが実戦で活躍できるんならぁ」
 第一、ここで舞い上がっている人物がいるではないか。
「ロイドさんらしいセリフ、ありがとう」
 実際に動かすのは自分だけど、と思う。
「……脱出装置はつけたんだろうな」
 ふっと思い出した、と言うようにルルーシュが問いかける。
「ついてないなら、実戦には出さないぞ」
 さらに念を押すようにこう言った。
「そんなぁ」
 ロイドが悲鳴のような声を上げる。
「そう言ったはずだ」
 自分は一度口にした言葉を翻すような人間ではない。ルルーシュは見下すような口調で言い切った。
「そうしていると、本当にマリアンヌさんそっくりだ」
 今の口調も、とスザクは言う。
「これで『無能よね』と言ったら、ロイドさんでも凍るかな?」
 軍の偉い人がよく凍り付いていたけど、とスザクは笑いながら言った。
「どうだろうな。ロイドなら『予算削減』の方が有効だと思うが」
 ルルーシュはあくまでもまじめな口調を作って言い返してくれる。
「ちょっと、二人ともぉ! そこまで言わなくていいでしょう」
 いったいどちらのセリフに反応したのか。ロイドが騒ぎ出す。
「ルルーシュ様。お願いですから、そこまでにしておいてください」
 騒ぎを聞きつけたセシルが顔を出した。
「ちゃんと脱出装置はつけましたから……作動するのも確認しています」
 その点は安心してくれていい。彼女はそう付け加える。
「セシルさんが保証してくれるなら大丈夫だね」
 スザクが言葉を口にすると同時に笑う。
「あぁ、そうだな」
 ロイドなら適当にごまかすかもしれないが、とルルーシュは付け加えながらもうなずいて見せた。
「それもひどいですよ。僕の評価は、どうなっているんですかぁ!」
 ロイドがまた騒ぎ出す。
「うるさいですよ、ロイドさん」
 言葉とともにセシルが彼の後頭部をどこからか取り出したファイルで殴りつける。
 当然のごとく、ロイドはそのまま床になつく。
「全く……ルルーシュ様の前だというのに、少しは空気を読みなさい!」
 そんな彼の後頭部に向かってセシルがそう言う。
「そこまでにしておけ」
 苦笑とともにルルーシュがそう言った。
「とりあえず、脱出装置が作動するならいい。お前にも暴れてもらうぞ、スザク」
 ランスロットは少々壊してもかまわない。ルルーシュは笑いながらそう言った。
「そうすれば、それを名目に兄上に研究費の増額の許可をいただけるからな」
 さらに、しっかりとロイドのセリフを封じてみせる。
「ルルーシュってば、やっぱり、かっこいい」
 そう言うところが、とスザクは手放しで感心して見せた。
「そうか?」
 ルルーシュはどこか嬉しそうな表情を作る。
「いつでもかっこいいけど、さ。今日は特にかっこいい」
 そう言うところも大好きだ、と付け加えた。
「お前も十分だと思うが……とりあえず、今日は目立っていい。遠慮はいらない」
 しっかりと実力を見せろ。そうすれば、あれこれ言う者も少なくなるだろう。
「本国にも中継されるぞ」
 ぼそっと付け加えられたセリフが微妙に怖い。
「マリアンヌさんも見るよね?」
「当然だろうな」
 スザクの言葉にルルーシュはうなずいてみせる。
「……だそうです、ロイドさん。邪魔しないでくださいね?」
 マリアンヌが見ているなら、とスザクは続けた。
「わかってるよぉ! あの方に逆らうなんて怖いことできるかぁ」
 そのセリフも問題ありだと思うのだが。
「いつもこんな風に聞き分けがいいと楽なのにな」
 まぁ、ルルーシュが笑っているからいいのか。そう考える自分に問題があると、スザクは考えてもいなかった。



12.10.01 up
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