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恋は戦争?

ソーダライト


 キュウシュウでは中華連邦の将軍とともに来た旧日本国の官僚さわざきがとんでもない宣言をしていてくれた。
「傀儡政府になるとわかりきっているだろうに」
 ジェレミアからの報告を聞いた瞬間、ルルーシュは吐き捨てるようにそう言う。
「日本という名前を取り返すことができれば、何を売り渡してもいいと考えているのか?」
 日本人という名称は返ってくる。だが、その結果、中華連邦のいいように使われるのはわかりきっているはずだ。
「……それとも、それが狙いか?」
 このエリアを中華連邦の属国にする。それが、と彼は続けた。
「日本を侵略した俺たちが言うのはおかしいがな」
 苦笑とともに彼は言葉を口にする。
「それでも、ルルーシュ達は日本人が築いてきたあれこれを認めてくれているじゃないか」
 スザクは即座にそう言う。
「それだけでも十分って、そう言っている人もいる」
 自分達が受け継いできたものを絶やすことなく次世代につなげられる。そして、それを正当に評価してくれる人間がいる、それだけで十分だという人間もいるのだ。
 そして、ルルーシュはもちろん、クロヴィスもそういうことに称賛を惜しまない。
 いや、逆にそのような産業に彼らは助成までしてくれている。
 それと同じことを、日本に戻ってからもしてもらえるのか。そう言っている人間もいるらしい。
「まぁ、神楽耶からの又聞きだけどさ」
 だが、彼女がこのようなことで嘘をつくはずがない。だから、真実なのではないか。
「日本人の勤勉さと手先の器用さは、決して他の追随を許さないからな」
 昔から、とルルーシュは言う。
「ともかく、だ。ジェレミアからさらに詳しい報告があり次第、戦端を開くことになる。準備をしておけ」
 雰囲気を変えようとするかのように彼はスザクの顔を見つめてくる。
「ただし、死ぬなよ?」
 できれば、けがもするな。そう付け加えたのは彼の本音だろう。最近、本当によく本音を見せてくれるな、とスザクは心の中で呟く。
「Yes.Your Highness」
 同時に、こう口にした。

 中華連邦のナイトメアフレームが確認された。
『スザク! 出撃だ』
 コクピットで待機していたスザクの元へルルーシュの命令が届く。
「ランスロットで相手を蹴散らせばいいんだよな?」
 確認するようにスザクは聞き返した。
『そうだ。ただし、無理はするなよ?』
 エナジーフィラーが切れても、すぐに迎えに行けないからな。ルルーシュはそう言ってくる。
「了解!」
 そんなドジは踏まない。心の中だけでスザクはそう付け加えた。
「ランスロット、出撃します!」
 言葉とともにトレーラーからランスロットを発進させる。
『いいデーターをたくさん取ってきてねぇ』
 そんなスザクへのはなむけの言葉、なのだろうか。ロイドのこんなセリフが追いかけてくる。もっとも、次の瞬間、セシルにしっかりとお仕置きをされていたようではあるが。
「ロイドさん、あれが楽しみになってない?」
 最近は、と呟かずにいられない。
「回数、増えているもんね」
 こちらに来てから、と苦笑とともに付け加える。そして、セシルの方もそれを楽しみにしているようなのだ。
 何よりも、これが彼らのコミュニケーションだというのは間違いないはずだ。
「学生時代からのつきあいって言ってたっけ」
 だからなのだろうか。
 別に学校には行かなくてもいいけれど、そう言うつきあいはうらやましいかもしれない。
「士官学校は最低だったからな」
 ぼそっと付け加えると同時に、忘れていた怒りがわき上がってくる。
「ちょうどいいや。八つ当たりの相手が出てきた」
 目の前に中華連邦のナイトメアフレームが飛び出してきた。それに向かってヴァリスの照準を合わせる。そのまま、引き金を引いた。
 一瞬遅れて、相手が四散する。
「……気をつけないと……予想以上にエナジーを消費するな、これ」
 シミュレーションではわからなかったが、とスザクは呟く。
「だったら、ソードかな?」
 近づかなければいけないが、こちらの方がエナジーの消費は抑えられるのではないか。
「ロイドさんに、もう少し何とかしてもらわないと」
 この点については、と呟く。
「でないと、戦場に切り込まないといけないし……かといって、ランスロット一機だと囲まれたら厄介だもんな」
 マリアンヌぐらい強くても、こういうときには僚機とともに突撃しているのだ。もちろん、戦場で一機だけになったのであれば話は別だろうが。
「ともかく、あれの動きが遅いのが救いかな?」
 だからといって、気を抜いていいと言うことではない。
 一機を撃墜している間に別の一機がランスロットに照準を合わせようとしていたらしい。もっとも、こちらの動きについてこられないのか。ランスロットがとっくに通り過ぎた場所に着弾している。
 だが、とスザクは眉根を寄せる。
「威力だけは十分以上かも」
 直撃すれば、ランスロットでもただではすまないのではないか。
「止まったら、アウトだな」
 かといって、無作為に動いていてもエナジーを消費するだけだ。
「こうなると、早々にたたきつぶすしかないか」
 結局は、と苦笑を浮かべる。
「まぁ、相手の動きもだいたいわかったし、何とかなるよな」
 と言うより、何とかしないといけないのか。すぐにこう言い直す。
「好きに暴れていいって言われているし、やるしかないよな」
 言葉とともに深呼吸を一つする。
「運が悪かったとあきらめてよね?」
 そのまま、スザクはランスロットを自分がコントロールできる限界速度で敵機へと向かわせた。その両手にはソードを握らせて、だ。
 すれ違いざまにソードをふるう。
 そのまま十分に距離を取ったところでランスロットを反転させた。
 タイミングを合わせるかのように爆風がランスロットを包む。
「ここは終わりだな」
 次はどこに移動すればいいのか。
「確認した方がいいか」
 言葉とともに通信の回線を開こうと手を伸ばす。
「……船?」
 そのときだ。スザクの目の前を不審な船が駆け抜けていく。
『スザク!』
 同時にルルーシュの声が耳に飛び込んできた。
「目の前に不審な船がいるんだけど……」
 何かあったのかと問いかける前にこんなセリフが口からこぼれ落ちてしまう。
『その船を止めろ! 何なら、沈めてもかまわない!!』
 ルルーシュが即座にこう言った。
「わかった」
 つまり、あれに今回の首謀者が乗り込んでいると言うことだろう。反射的に船との距離を測る。飛び移るのにぎりぎりの距離だ。
 確実なのはヴァリスだろうか。
 でも、と唇をかむ。
 沈めるのは簡単だが、それではだめだ。
「あれに澤崎が乗っているかもしれないからな」
 あの男にはいろいろと聞きたいことがある。だから、と呟くとスザクはランスロットを全速で発進させる。
 そのまま、船へ向けて飛翔させた。
『スザク君、無理よ!』
 セシルの声も耳に届く。
「たぶん、大丈夫!」
 それにスザクはこう言い返す。そして、それを証明するかのように背後に向けてヴァリスを発射した。それでさらに加速がつく。
 ランスロットの動きに気づいたらしい船が旋回を始めている。だが、船の機動力はナイトメアフレームのそれに遠く及ばない。
 スザクのもくろみ通り――と言っていいのだろうか――ランスロットは甲板へと降り立つ。
「船を止めろ」
 言葉とともに銃口を操舵室へと向ける。
 その間にも、追いついたらしいブリタニアの戦艦が近づいてくるのがわかった。

 澤崎と中華連邦の曹将軍の身柄が確保されたことで今回の戦闘は終了した。
「……今回の裏に誰がいるのか。確認しないとな」
 ルルーシュはそう呟く。
「ともかく、よくやった」
 スザク、と彼は優しい笑みを向けてくれる。それが一番のご褒美かな、とスザクは心の中で呟いた。同時に、キスをしてくれたらもっといいのにとも思う。
 でも、思うだけにしておくだけ、自分はまだ弱気なのかもしれない。そうも付け加えた。



12.10.08 up
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