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恋は戦争?

ルビー



 久々に顔を合わせたらしい神楽耶と桐原の間の空気が、妙に緊張している。
「……それで? 家出の理由は何だったのだ?」
 皆に迷惑をかけて、と桐原が切り出す。
「おじいさまはご存じだと思いましたけど?」
 平然と神楽耶が切り返した。
「お従兄様はともかく、ルルーシュ様は裏切れませんもの」
 ルルーシュのおかげで日本人の生活が向上している。だから、と彼女は続けた。
「それは、儂も同じことを考えているが?」
 さすがは海千山千の古狸。そう簡単にしっぽは出さないようだ。
「あら、そうでしたの?」
 おかしいですわね、と神楽耶は呟く。
「わたくしが聞いた話とは全く違いますわ」
 ぼけられました? と彼女は聞き返す。
「記憶違いではないのかの」
 あくまでも桐原はしらを切り通すつもりらしい。
「そうおっしゃいますか? ならば、確認されます?」
 ちゃんと記録してあるが、と神楽耶は言い返した。それは予想外だったのか。かすかに眉間のしわが増えている。
「わたくしは忘れやすいですから、大切なことは録音しておくことにしているのですわ」
 彼とは反対に、神楽耶は微笑みを浮かべていた。
「ここで再生してもよろしいでしょうか?」
 勝ち誇ったように彼女は言葉を重ねる。しかし、桐原は何も言い返さない。いや、言い返せないといった方が正しいのか。
「それが、家出の理由ですわ」
 文句があるのか、と神楽耶の視線が告げている。
「……桐原のじいさん、最低……」
 スザクはぼそっと呟く。
「ひょっとして、僕のところに連絡をよこしたのも、何かに利用するためだった?」
 最初からわかってはいたことだが、と思いながら問いかける。
「お従兄様は男ですし、血筋から言えばわたくしと同等ですからね」
 そして、現在の中華連邦の天子は自分達と同年代の少女だ。神楽耶はそう言った。
「ルルーシュ以外、そう言う対象としては目に入らないって言っているのに」
 強要されたら、今すぐにでもマリアンヌに泣きついて姿を消すぞ。スザクはそう言う。
「それは困るな」
 即座にルルーシュが口を開く。
「母さんがかかわれば、俺でも見つけられない可能性がある」
 しかも、マリアンヌが必要ないと思えばルルーシュ相手でも、スザクの居場所を教えてくれないだろう。それでは自分がいやだ。彼はそう続けた。
「僕だっていやだけど、ずっと引き離されるよりはマシだろ」
 士官学校に行っていたときとな時だと思えばいい。スザクはそう言い返す。
「それはそうだが……」
 何か納得できない。ルルーシュはそう口にする。
「……何か、見ているだけで腹が立ってきますわ」
 そこに神楽耶の声が割り込んできた。
「わかっているつもりでしたわ。しかし、何度見ても腹が立つものは立つのですわ」
 全く、と彼女は続ける。
「なら、見なければいいだろ」
 スザクはそう言い返す。
「でなければ、お前も相手を見つければ?」
 それで、負けないくらいべたべたすればいいじゃないか。そう続けた。
「それができれば一番いいのですけどね」
 言葉とともに神楽耶は視線を桐原へと向ける。
「どうせ、邪魔をされますわ」
 結婚はともかく、恋愛ぐらいは自由にしてみたいのだが。彼女はそう続ける。
「いっそ、ルルーシュ様なら誰も文句を言わないのでしょうが」
 違いますか、と彼女は桐原に問いかけた。
「まぁ、そうだのぉ」
 それに桐原もうなずくしかないようだ。しかし、それを認められるはずがない。
「だめ! ルルーシュは僕の!! お前には絶対渡さない」
 即座にスザクはそう主張した。それだけでは不安で、彼を抱きしめる。
「……スザク」
 困ったような表情でルルーシュが呼びかけてくる。
「ルルーシュはこいつの本性を知らないから。子供の頃から、欲しいとなればどんな手を使ってでも自分のものにするんだぞ、神楽耶は」
 既成事実がなかったとしても作るのがそいつだ。そう言いきる。
「政庁にいたのだって、信憑性を増すためにだぞ」
 これだけ長期間、同じ建家にいたのだ。ここの内部がどうなっているのか知らない人間であれば、あっさりと信じるに決まっている。そうすれば、外堀から埋められてしまうではないか。
「大げさ、と言うわけではなさそうだな」
 ルルーシュはそう言ってうなずいてくれる。
「お従兄様の言うことは大げさなのですよ」
 しかし、神楽耶はあくまでもそう言って笑うだけだ。
「まぁ……男女七才にして同席せず、と言うからの」
 桐原がため息とともに口にする。
「どちらにしろ、こちらから申し出ることではない」
 婚姻に関しては、と彼は続けた。
「それに、お主達のけんかに巻き込まれては、ルルーシュ様がかわいそうだからの」
 桐原のこのセリフは否定できない。
「悪かったな」
 でも、とスザクは言う。
「後から割り込もうとしているのは神楽耶だろ」
 自分はルルーシュのそばにいるためにがんばったんだから、とスザクはさらに主張した。
「わかっているから、安心しろ」
 そして、落ち着け。そう言いながら、ルルーシュがスザクの頭をなでてくれる。
「俺も、お前以外の人間をそばに置く気はないしな」
 何よりも、約束があるだろう? と彼は笑った。
「約束、ですか?」
 なんなのか、と神楽耶が問いかけてくる。
「こいつの身長が俺よりも高くなったら、弟から昇格させるかどうかを考えてやる、と言う約束ですよ」
 自分は結婚して子供を持つつもりはないから、とルルーシュは笑う。
「それは妹に任せます。と言うことで、がんばれ、スザク」
「もちろん!」
 ルルーシュがここまではっきりと自分達のことを口にしてくれたことはない。きっと、神楽耶と桐原があれこれ言わなければ最後まで教えてくれなかったのではないか。
 そう考えれば、少しは感謝していいような気がする。
「だから、もう、厄介事に巻き込まないでくれよ」
 自分の幸せのために、とスザクは視線を彼らに移す。
「邪魔したら、僕が持っているあれやこれやをあちらこちらにばらまくからな」
 神楽耶の恥ずかしい写真とか、桐原の知られたくないあれこれとかを……と続ける。
「お従兄様?」
「……スザク、本気か?」
 即座に二人がこう問いかけてきた。
「もちろん。僕だって、この五年間で成長しているし、ルルーシュを守るためなら、何でもするよ?」
 もちろん、自分の幸せもだ。
「だから、邪魔しないでよね?」
 にっこりと笑いながら言葉を投げつける。
「何か、ものすごく気に障りますわ」
 神楽耶が悔しそうに呟く。
「見ていなさい! ルルーシュ様に負けない男を捕まえて見せます。えぇ、皇の名にかけて」
 それは何か違うのではないだろうか。
「……まぁ、がんばれ」
 自分達の邪魔さえされなければそれでいい。そう考えると、スザクは言い返した。

 とりあえず、神楽耶の家出は終わりを迎えたらしい。
 しかし、すぐにまた何かをしでかしてくれるような気がする。
「なぁ、ルルーシュ。キスしていい?」
 それよりも、こっちが重要だよな。そう考えてスザクは問いかける。
「この書類が終わったらな」
 ちゃんと聞いていて答えたのだろうか。そう思わずにはいられない。
 でも、言質を取ったというのも事実だ。
「わかった。待ってる」
 素直にうなずくと、スザクはそのままルルーシュの椅子の背に寄りかかる。
「だから、見ていていいよな?」
「好きにしろ」
 この言葉に、スザクはうなずく。そして、そのままさりげなくルルーシュの首筋にキスをした。



12.12.25 up
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