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恋は戦争?

紅梅匂



 スザクは手にしている紙をもう一度よく見直す。
 そこにはいくつかの数字が書かれてある。それを確認すると同時に、思わずガッツポーズを作ってしまった。
「……やった!」
 Viva成長期! と心の中だけで付け加える。
「これで、並んだ」
 ルルーシュと、と続けた。
 何がと言えば『身長が』である。
「やっと、これで一歩進める」
 ルルーシュが自分をそう言う意味で好きでいてくれているというのはわかっていた。つまり、両思いと言うことなる。
 それならば、と思うのは当然のことだろう。
 しかし、だ。
 妙なところできまじめなルルーシュは、前言を翻すことをよしとしてくれない。
「みんなが応援してくれているのに」
 もっとも、その中には『本当にいいのか』と言いたくなる人物もいたりはする。それでも、応援してくれているのだからいいのか。スザクはそう考えるとため息をついた。
「キスだけ解禁って、その方がきついのに」
 年齢のせいだろうか。それとも、自分の気持ちのせいなのか。あるいは、余計な知識を持っているからかもしれない。キスだけでも体の方は勝手に盛り上がってしまうのだ。
 だからと言って、強引に事を進めるのはまずいような気がする。
 と言うので、結局は自力で何とかするしかない、と言う虚しい日々が続いていたのだ。
 でも、とスザクは拳を握りしめる。ついでに、手にしていた紙までしっかりと握り込んでしまったのはご愛敬というものだろう。
「身長が追いついたんだから、もう少しだよな」
 そうすれば、さすがのルルーシュも『いやだ』とは言わないはずだ。
「ずいぶんと嬉しそうね」
 そんなことを考えていたとき、耳にセシルの声が届いた。
「身長が伸びたんです!」
 ルルーシュと同じ身長になったのだ。そう言いながら、スザクは彼女の方へと視線を向ける。
「そうなの? よかったわね」
 やっぱり、身長は高い方がいいものね。そう言ってセシルは微笑んで見せた。
「なら、また、パイロットスーツを調整しないと」
 さらに彼女はそう付け加える。
「……すみません」
 身長が伸びたからと言って、喜んでばかりいられない。そう言う細々としたことで彼女に迷惑をかけてしまうのだ、と今更ながらスザクは思い当たる。
「何を言っているの。成長期なんだもの。そのくらい、当然のことでしょう?」
 ジェレミア達のように成長期が終わったとしても、パイロットスーツの損耗率が高いのだから、とセシルは言い返して来る。
「体に合わないスーツを着てけがをする方が大変だわ」
 スザクに何かあればルルーシュが悲しむだろう。彼女はそう続ける。
「スザク君がけがをしたら、私も悲しいもの」
 ロイドは別の感想を抱きそうだが、と彼女は付け加えた。
「ともかく、今日のところは戻っていいわよ。ルルーシュ様達に報告しないといけないでしょう?」
 ただしロイドに気づかれないようにね、と彼女は笑いながらささやいてくる。
「わかっています」
 ありがとうございます、と言うと同時にスザクはきびすを返す。だが、そこで動きを止めた。
「でも、身体測定の結果は……」
「大丈夫。問い合わせればいいだけだもの」
 データーはすぐに届くし、とセシルは言う。
「それよりも、ロイドさんに見つかる方が大変だわ」
 さらに彼女はまた同じ言葉を口にする。
「はい」
 それが彼女の気遣いだとわかっているから、スザクは素直にうなずいて見せた。
「じゃ、また明日」
 厨房に頼んで、彼女の好きなお菓子を作ってもらおう。心の中でそう呟くと、スザクは駆け出した。

 アリエス離宮まで一気に駆け戻ったのは、少し無謀だったかもしれない。いつもよりもペースが早かったのは否定できない事実だし、とスザクは息を整えながら考える。
 どうやら、本気で自分は浮かれているらしい。
 それも仕方がないだろう。そう心の中で付け加えると、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。そして、もう大丈夫だろうと判断をして玄関へと向かった。
 そのままエントランスをくぐろうとしたときだ。中から出てきたジェレミアと鉢合わせした。
「早かったな」
 すぐに彼はこう声をかけてくる。
「ロイドさんが出かけているので」
 そう告げれば、彼にも状況がわかったらしい。
「ちょうどよかった。所用で出かけてくる。ルルーシュ様のそばに付いていてくれ」
 すぐにこう声をかけてきた。
「はい」
 つまり、二人きりと言うことか。それは願ってもない状況だろう。
 これならば、身長のことを話しても流されなくてすむ。
 そう考えると、自然と頬が緩んでしまう。
 ジェレミアがそんなスザクの表情に気がつかないはずがない。
「何かいいことでもあったのか?」
 そう問いかけてくる。
「身長が伸びたんだ」
 スザクは自慢するように言葉を返す。
「それはよかった」
 完全に気分はスザクの保護者なのだろう。ジェレミアは目を細めるとそう言った。
「これから一気に伸びるな」
 さらにこう付け加えてくれる。
「だといいけど」
 意地でも伸ばすけど、と心の中だけで付け加えた。
「ルルーシュ様にお使いも頼まれているが、お前も希望のものがあるなら、一緒に買ってこよう」
 お祝いだ、とジェレミアは笑う。
「なら、シュークリームとプリン。シュークリームはイチゴがはさんであるのだとすごく嬉しい」
「わかった。しかし、ルルーシュ様と同じものをリクエストするとは。本当に仲がいいな、ルルーシュ様とお前は」
 さらに目を細めると、彼はうなずく。その言葉に、スザクは「お願いします」と口にした。
「では、行ってくる。ルルーシュ様を頼んだぞ」
「もちろん。任せておいて」
 そう言って胸を張ってみせるスザクに満足したのかジェレミアはスザクの頭を一つなでると歩き出す。それを待っていたかのように車寄せに車が滑り込んでくる。
「行ってらっしゃい」
 その車に乗り込む彼にスザクはそう声をかけた。
 そのまま、彼の乗った車が門の方へと走り出すまで見送る。視界から消えたところで、スザクはきびすを返した。
 玄関の扉をくぐると、メイドがスザクに向かって頭を下げてくる。
「ルルーシュは、執務室?」
 その彼女にこう問いかけた。
「はい」
 つまり、まだ、仕事が残っていると言うことだろう。スザクはそう判断をする。
「ありがとう」
 ジェレミアにも頼まれたし、と思いながら、彼女に礼の言葉を告げた。そのまま、執務室へと向かう。
 シュナイゼルの使いをはじめとして訪問者が多いからか。ルルーシュの執務室は玄関から近いところにある。だから、すぐにたどり着いた。
「ルルーシュ。入るよ」
 いつものように中にいる彼に声をかける。
『スザクか? 入ってこい』
 すぐに許可が出た。それを確認してから中に入る。
「早かったな」
 どうして誰もが同じセリフを口にしてくれるのだろう。やはり、ロイドとは一度よく話し合うべきなのだろうか。
「ロイドさんが出かけていたから」
 そう考えながら、言葉を返す。
「なるほどな」
 ルルーシュがスザクの言葉に苦笑を浮かべる。
「それよりもルルーシュ、聞いてよ」
 次の言葉を待たずにスザクは口を開く。
「僕、身長が伸びたんだ。ルルーシュと同じだよ!」
 この言葉に、ルルーシュが少しだけ目を見開いた。
「そうか」
 だが、すぐに微笑んでくれる。
「今年中に、絶対追い越すからね」
 一年で十センチ伸びたのだ。大丈夫に決まっている。そう思いながらこう宣言をする。
「がんばれ」
 それに、ルルーシュはこの一言だけを返してきた。それは照れているのか。それとも、と悩む。でも、嬉しいというのもまた事実だった。



13.01.14 up
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