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恋は戦争?

樺桜



 相手はEUだと聞いていた。
 しかし、だ。
「……あのパイロット、日本人でしょうか」
 目の前の相手を見て、スザクはそう呟く。
「そう見えるわね」
 マリアンヌもあっさりとうなずいて見せた。
「誰か、データーを持っていないかしら?」
 周囲の者達に彼女はこう問いかける。だが、それに対する答えは返ってこない。
「そう、ないの」
 ため息混じりにマリアンヌがそう呟いた瞬間、周囲の温度が下がったような気がするのは錯覚だろうか。
「大丈夫ですよぉ、マリアンヌ様」
 その空気を壊すかのようにロイドが口を開く。
「ランスロットの反応速度を今までよりも十パーセント上げましたしぃ、パイロットスーツの耐G性能もアップさせましたからぁ。スザク君なら、相手が誰であろうと勝てますってぇ」
 その分、他の人間にはますます扱えない機体になった。だが、スザク以外に乗せる予定がないからかまわないのではないか。
 ロイドは目を細めるとそう告げる。
「……スザク君の体に負担はかからない訳ね?」
 確認するようにマリアンヌは言う。
「今のスザク君なら大丈夫です」
 彼のデーターにあわせでカスタムしているから、とロイドは言い返す。
「それは私も保証します」
 さらにセシルがそう言ったところでマリアンヌは小さくうなずいた。
「それなら、後で私も一戦、手合わせを願おうかな」
 ジノが楽しそうに言葉を口にする。
「それは後で考えましょう」
 スザクがそれに言葉を返す前にマリアンヌがこう言った。
「それよりも相手のデーターがないのはいやね」
 マリアンヌはそう言って顔をしかめる。
「確かに、表向きは敵対関係にないわよ。でも、ユーロとEUは境界線のことでもめているし……コーネリアの話だと、アフリカではエリアの取り合いをしているのでしょう?」
 おそらく、近いうちに本格的な戦争を始めることになるのではないか。
 だからこそ、今回のことにつながるのだろう。彼女はそう続けた。
「いっそ、メンツを捨ててさっさと負けるという方法もあったわね」
 その方がデーターを取られなくてよかっただろうか。マリアンヌはそう呟く。
「……もう少し早く、その可能性に気づいて欲しかったです……」
 そうすればルルーシュのそばにいられたのに、とスザクは心の中だけで付け加えた。
「だめですよぉ! 技術陣のためにも、徹底的に叩きつぶしてもらわないと」
 やる気にかかわります。ロイドはそう主張する。
「必殺技も用意してありますからぁ」
 一発でとは言わないが、確実に相手を倒せるはずですぅ。彼はそう続けた。
「……スザク君?」
 どうする? とマリアンヌが問いかけてくる。
「たぶん、手を抜くとばれます」
 相手に、とスザクは言い返す。
「あちらもやる気がないなら何も言わないでいてくれると思いますが……」
 そんなことはあるはずがない。スザクはそう考えていた。
「そうね」
 マリアンヌも同じ結論だったのだろう。あっさりとうなずいてみせる。
「まぁ、出たとき勝負でもスザク君なら大丈夫でしょう」
 そうできるように教育してきたつもりだ。そう続けられては反論なんてできるはずもない。
「全力は尽くします」
 そう言うしかないスザクだった。

 それにしても、あちらのパイロットは本当に日本人なんだろうか。
 可能性はないわけではない。
 それほど多くはないとは言え、戦争前にEUにすんでいた日本人はいたはず。その彼らが今どうしているのか、自分は知らなかった。スザクは心の中で呟く。
「調べてもらうべきなのかな?」
 あるいは、桐原あたりであれば何かを知っているのだろう。でも、下手に彼と接触しない方がいい。
 そんなことをしたら、あらぬ疑いをかけられるかもしれない。最悪、ルルーシュの足を引っ張ることになるかもしれない。それだけは何があっても避けなければいけないことだ。
 ともかく、と思いながらトイレを出る。
「あっ……」
 そこに、先ほど遠目で見た相手方のパイロットの姿を見つけた。
「……確か、あなたは……」
 相手もスザクの存在に気づいたのだろう。驚いたようにこう言ってくる。
「ブリタニアの騎士とは言え、人間ですものね」
 だが、すぐにスザクがどこにいたのかを確認して笑みを作った。
「それよりもちょうどよかった。あなたと話がしたかったんです。二人だけで」
 今いいですか、と彼は問いかけてくる。
「長時間でなければ」
 あまりに長い時間であれば、誰かが不審に思って見に来るだろう。それではまずいのではないか。
「そうですね。俺の方もあまり長い時間、ここにいることはできないので」
 いろいろとあるから、と彼は苦笑とともに付け加えた。それは、彼が《日本人》であることに関係しているのだろうか。スザクはそう考えるが、問いかけることはできない。自分の好奇心が相手を傷つけかねないのだ。
「それで、お話しとは?」
 それよりも、さっさと用事を終わらせてしまおう。そう考えてこう問いかける。
「単刀直入に言えば……この試合、相打ちにしてくれませんか?」
「はぁ?」
 彼が何を言っているのか。すぐには理解できなかった。
「お互い、それで丸く収まると思うんですよ。うちの上官は、あの機体の性能をブリタニアそちらはもちろん、他の者達にも知られたくないと考えているので」
 無駄な見栄のためにこちらの努力の結果を見せたくはない。そう言われて納得をする。
 しかも、だ。相手はあくまでも本気でそう言っている。ならば、信用しても大丈夫なのだろうか。
 これが嘘だったとしても、何とか対処できるだろう。
「そういうことなら……でも、うちの技術者はそれでもだいたいのことは推測すると思うけど?」
「それはお互い様、と言うことで」
 スザクの言葉に相手はこう言い返す。
 確かに、それなりの技術者ならそれも可能なのではないか。
「じゃ、適当なところで差し障りのない部分をお互いに壊すと言うことでいいのかな?」
 とりあえず、とスザクは提案をする。
「もちろん。膝あたりなら大丈夫かな?」
「そうだね。じゃ、そういうことで」
 ランスロットを壊したらロイドに文句を言われるだろうな。しかし、これが一番無難な結論ではないか。
 マリアンヌにだけは報告しておこう。スザクはそう心の中で呟く。
「あんた、日本人?」
 さっきから気になっていたのだが。そう付け加えながら問いかける。
「えぇ。と言っても、日本に行ったことはないですけどね」
 生まれたときからEUにいた。彼はそう言う。
「名前を聞いてもかまわないか?」
 いやならいいんだが、とスザクは続ける。
「日向アキト」
 そう言うと、彼はきびすを返す。
「では、また。枢木スザク君」
 この一言ともに彼は歩き出す。
「何で、僕の名前を知っていたんだ?」
 その背中を見送りながら、スザクはこう呟く。
「やっぱ、調べてもらった方がいいかも」
 EUでもいろいろと厄介な状況があるようだから。スザクはそう付け加えていた。



13.01.14 up
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