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恋は戦争?

桜躑躅



 勝負は本当に一瞬だった。
 お互いの機体がすれ違った。そう思った次の瞬間、ランスロットの膝関節が破壊される。
 もちろん、スザクも相手の足首の関節を破壊していた。
『嘘〜〜!』
 ロイドの叫びが通信機から響いてくる。
 だが、それにかまっている余裕はない。まだ動いている片足で素早くランスロットを後退させた。
 相手を疑っているわけではない。だが、万が一の可能性があるのではないか、と思ったのだ。  だが、とりあえず闘技場には自分達以外の姿は確認できない。相手も、あまりのことに動けないでいるのだろうか。
 そう考えていたときだ。
『スザク君、大丈夫?』
 マリアンヌの声が問いかけてくる。
「大丈夫です」
 しかし、いい腕だな。素直に感嘆のつぶやきを漏らす。
「でも、すみません。ランスロットは動けそうにないです」
 無理をすれば可能だが、後々の修理が面倒だ。そう続ける。
『そのようね。まぁ、いいわ』
 こちらの手を空かさずにすんだし、おもしろかったから。マリアンヌはそう言って笑う。
『ロイド。さっさとランスロットを回収してきて。スザク君は私に合流してね』
 ランスロットは放置でいいから。彼女はそう付け加える。
「いいんですか?」
『かまわないわ』
 そうしたら、挨拶をしてさっさと帰りましょう。彼女はそう言って笑った。
 しかし、その言葉を鵜呑みにはできない。
 何と言っても、マリアンヌはここに『けんかを売り』に来たらしいのだ。
「……わかりました」
 だからと言って、彼女の言葉を無視することなどできるわけがない。こうなれば、万が一の時には身を挺して守るしかないだろう。
 どちらを、と言われると頭を抱えたくなる。
「今、行きます」
 半ば悲壮な決意とともにスザクはそう言った。

 汗を流したかったな、と思いながらスザクはマリアンヌの元へと向かう。
「ご苦労様だったな」
 しかし、彼を出迎えてくれたのは何故かジノだった。
「あの一撃の正確さは見事だったよな」
 彼はこう言いながらスザクの肩を叩く。
「もっとも、相手もかなりなものだが」
 いくらスザクが誘ったとはいえ、と付け加えられる。
「やっぱ、わかった?」
 一応、マリアンヌには許可をもらっていたが、とスザクは言い返す。
「事前に聞いていたからな」
 ジノは耳元に口を寄せるとこうささやいてくる。
「アーニャはともかく、他の者達は気づいていないぞ」
 さらに彼はそう付け加えた。
「なら、いいけど」
 マリアンヌの評判を下げるようなことがなければ、とスザクは言い返す。
「そう言うところはお前らしいな」
 それにジノは微苦笑を向けてくる。
「マリアンヌ様もお待ちだろう。行くぞ」
「了解」
 別に待ってくれていなくてもよかった。そう考えるがあえては言わない。
「アーニャだと、万が一の時にマリアンヌ様を抑えられないだろうし」
 だからジノもついてきたのではないか。言外にそう付け加える。
「ドレスを着ておいでなんだから、心配いらないだろう?」
 ジノのこの言葉にスザクは「甘い」と言い返す。
「いつものパターンなら、ドレスの下に剣をつっているはずだよ」
 スザクの言葉にジノの頬が引きつっていく。
「……急ごうか」
 そして、彼はこう告げた。
「アーニャはマリアンヌ様信者だからな」
 シャルルに負けないくらいの、とジノは呟く。
「それがいいよ」
 何か、とんでもない話を聞いたことがあるし。スザクはそう続ける。
「そうだな」
 言葉とともにジノは体の向きを変えた。その勢いでマントが大きくはためく。
 その仕草がきざったらしいと思う余裕は今のスザクにはなかった。
「けんかを売りに来たなんて言ってたし」
 この一言がどうしても、脳裏から消えてくれないのだ。
「……それは怖いな」
「だろ?」
 こんな会話を交わしつつ、二人はマリアンヌがいるという貴賓室へと向かった。
「ロイドさん達がランスロットの方にいてくれるのはよかったのかな?」
 それとも、今頃拉致されていたりするのだろうか。
「一応、護衛はつけてあるから、大丈夫だろう」
 本気でブリタニアと戦争を始めるつもりなら無理もするだろうが、とジノは言った。しかし、あちらにはその余力はないだろう。
「あっちもテロが頻発しているからな」
 ひょっと知ったら、ブリタニアよりも多いのではないか。それに対処するだけでもかなりの労力を割いているはずだ。
 ジノはそう言ってくる。
「ブリタニアは、マリアンヌ様の人気のおかげで、落ち着いているしな」
 一部の貴族には不評だが、国全体としてはそれはありがたいと思う。
「ルルーシュ様がもう少し表に出てくださると、もっと人気が上がると思うんだが……」
「却下!」
 ジノの言葉にスザクは即座にそう言い返す。
「お前ならそう言うと思っていたよ」
 それにジノが苦笑を浮かべた。同時に聞き覚えがありすぎる声が耳に届いた。
「……マリアンヌ様?」
 その瞬間、ジノが凍り付く。
「何があったんだろう」
 なれていない人間に、あのマシンガンのようなセリフは衝撃が大きいらしい。しかも、その半分がスラングだ。
「早く止めないと」
 マリアンヌがやられる可能性は低い。だが、相手が興奮してぶっ倒れるのではないか。それはそれでまずいような気がする。
「ジノ、凍っているなら邪魔!」
 スザクはそう言うと、彼を押しのけた。そのまま部屋へと入っていく。
 次の瞬間、マリアンヌがドレスの裾を持ち上げようとしている姿が目に飛び込んできた。

 アリエス離宮に帰り着くと同時に、スザクは安堵で座り込んでしまう。
「ご苦労だったな、スザク」
 そんな彼の頭の上からルルーシュの声が降ってくる。
「まさか本当にけんかを売りに行ったとは思わなかったよ」
 自分達が引き分けになったことで穏便に終わると思っていた。スザクはそう言う。
「もう、こんなことにはつきあいたくない」
 さらにそう付け加える。
「わかっている。ジノからも報告を受けているし。後は俺たちの仕事だな」
 しっかりと釘を刺させてもらおう。ルルーシュはそう言う。
「がんばってくれ」
 その表情は格好いいよな、と思いながらスザクはそう言った。

 もっとも、マリアンヌが懲りたかどうかは、誰も知らない。



13.01.08 up
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