恋は戦争?
藤襲
EUにいた日本人達が、今はどうなっているのだろうか。
それはあの日から気になっていたことだ。
しかし、どうやって調べたらいいのかわからない。本当にどうすればいいのか、と悩んでいた。
それが普段の生活にも出ていたのだろうか。ルルーシュに問い詰められることになってしまった。
「……EUの日本人か」
スザクの話を聞いた彼は、こう言って考え込むような表情を作る。
「さすがに、それを調べたことはなかったな」
そして、こう告げた。
「少なからずいたはずなのは事実なんだが」
どれだけの人数がいたのか。それすらも把握していない。ルルーシュはそう呟く。
そのまま、彼は動きを止める。と言ってもその脳内では様々な可能性が取捨選択されているのだろうと言うことをスザクは知っている。だから、声をかける代わりに静かに見守っていた。
「気になるな」
ようやく何か結論を導き出したのだろう。ルルーシュはそう呟く。
「シュナイゼル兄上と相談をしてから調べさせるか」
この言葉に、スザクは少し不安になってくる。
「ひょっとして、僕、余計な事をした?」
その気持ちのままこう問いかける。
「そんなはずはないだろう」
苦笑とともにルルーシュがそう言い返してきた。
「むしろ逆だ。厄介事を事前につぶせそうだからな」
その方がありがたい。ルルーシュはそう言って微笑む。
「何より、母さんの暴走を抑えてくれた。それが一番だ」
「……ちょっとやばかったかもしれないけど……でも、それはジノのせいだからな!」
ジノがマリアンヌのそばを離れたから、とスザクは主張しておく。
「わかっている。アーニャじゃ母さんを止められないと言うこともな」
むしろ、彼女が率先して動きそうだ。ルルーシュはそう言う。
「俺個人としては、あの子の教育は間違っていたような気がするな。いや、ナナリーの騎士であれば問題はなかったのだが……」
シャルルが彼を自分の騎士にしてしまったからな、とルルーシュはため息をつく。
「あの後、ナナリーが思い切り落ち込んでいた」
マリアンヌがスザクのことを徹底的に反対したのもそれが関係しているのではないか。ルルーシュはさらに言葉を重ねた。
「お前がここに帰ってきてから、ナナリーも少し浮上したようだしな」
全く、余計な事をしてくれる奴だ。そう彼は付け加える。
「だから、少しぐらいこき使っても許されるだろう」
いいのか、それで。そう思わずにいられない。
「またろくでもないことを企んでいるらしいからな」
仕事を押しつければそんな時間はなくなるだろう。彼はそう続ける。
「なら、いいのか」
そういうことなら、自分が口を挟むことではない。スザクはそう判断をする。
「母さんにしても、あのロールケーキが忙しくしている方が安心できるだろうし」
「ソウデスカ」
と言うことは、シャルルが忙しいのはそちらの方なのだろうか。いい加減、自分の子供と同じ年代の女性と火遊びをするのはやめておけばいいのに、と心の中で呟く。
「マリアンヌさんに勝てる女性なんて、ほとんどいないと思うんだけどなぁ」
スザクは本心からそう言う。
「それは否定しない」
言葉とともにルルーシュはうなずいてみせる。
「おかげで周囲からは『マザコン』と言われているけどな」
そして苦笑を浮かべる。
「だって、マリアンヌさんはある意味、最高レベルの女性じゃん」
マザコンになっても仕方がないのではないか。もっとも、そんな女性がいるからルルーシュを落とせないと考えている女性陣もいるのだろう。
「でも、僕はルルーシュがいいな」
ぼそっと呟く。
「本当に、お前は物好きだ」
小さな笑いとともにルルーシュはそう言い返してきた。
「まぁ、そう言うところがかわいいんだが」
これは喜んでいいのだろうか。それとも、とスザクは悩む。
「かわいいと思うなら、ご褒美ちょうだい」
とりあえず、と、かわいらしいと思える口調を作って言ってみる。
「スザク、お前な」
「いいじゃん。今回はあれこれとがんばったんだし」
な、とさらに言葉を重ねた。
「仕方がないな」
そう言いながらもルルーシュはスザクを手招く。それに当然のようにスザクは従った。
「五秒以内。舌を入れるのはなしだぞ」
明確な指示が彼の口から出る。
「……せめて十秒!」
それいがいは仕事中だから妥協するけど、とスザクは食い下がってみた。
「……五秒プラス、お前の好きなものを作ってやる。それで妥協しろ」
ルルーシュのこの言葉にどうするべきかとスザクは考えた。
「ならさ。ハンバーグとプリン」
どちらもルルーシュだけではなくナナリーも好物だ。だから、断られるはずはない。
「それにコーンスープか。お手軽だな、お前は」
いつものメニューだから、だろうか。ルルーシュは苦笑ともに言葉を口にする。
「まぁ、それならナナリーも喜ぶし、さほど手間でもないからな」
いいだろう、と彼は言う。
「やった!」
スザクは言葉とともにルルーシュに抱きつく。
「本当に、そう言うところはオコサマだな、お前は」
どこかほっとしたような表情で彼はそう言う。きっと、彼はまだまだ自分で子供でいて欲しいのではないか。でも、耳年増の自分にはそれがきつい。スザクは心の中でそう呟く。
だからと言って、実力行使にも出られないんだよな。そう続けた。
そんなことをしたら、それこそマリアンヌが怖い。
「そう言われるほどオコサマじゃないよ、僕は」
しかし、少しぐらいは何とかして欲しいと思う。いつまでも蛇の生殺し状態は辛いし、と心の中で呟く。
「それを証明するから、キスしていい?」
ともかくチャンスは逃さないことにしよう。心の中でそう付け加えた。
「約束だからな」
「じゃ、遠慮なく」
言葉とともにスザクはルルーシュの唇へ自分のそれを近づけていく。
あと少しで重なる。そう思ったときだ。
「失礼します、ルルーシュ様」
言葉とともにドアが開かれる。
それを認識した瞬間、ルルーシュはスザクを突き飛ばしてくれた。さすがに虚を突かれてそのまま床に転がってしまう。
「クルルギ?」
入ってきたのは、書類を抱えたジェレミアだ。
これが普段の時ならばスザクだってすぐにでも手伝ってやろうかと考える。しかし、何故このタイミングなのか、と文句を言いたくなる。
「……すまなかったな」
ジェレミアはそう言って視線をそらす。
「せめてノックをしてくれればまだよかったのに」
そうすれば、突き飛ばされることはなかったのだろう。言外にそう告げる。
「それよりも、何があった?」
思考が現実に戻ってきたのか。ルルーシュが彼に問いかける。
「中華連邦が動き出しました。神楽耶殿が人質に取られているとか」
先ほど、桐原から連絡があった、とジェレミアは言い返す。
「こちらの資料はクロヴィス殿下と藤堂からです」
その言葉にルルーシュの表情が険しくなる。
「シュナイゼル兄上に連絡を。すぐにそちらに向かうと」
一刻も早く対策を取らなくては。彼の言葉に周囲の者達も動き始めた。
13.02.22 up