恋は戦争?
藤重
現在人質に取られているのは、神楽耶をはじめとする女性達らしい。
「……何で女の子だけ……」
スザクがこう呟く。
と言っても神楽耶の心配はしていない。あれでも皇の女だ。口先一つで矛先をそらすぐらいお手の物だろう。
問題があるとすれば周囲の者達が彼女の言動に耐えられるかどうかだ。
「女性の方が人質として使いやすいと考えているのだろうな」
ルルーシュがこう言ってくる。
「……にしても、何で神楽耶が」
スザクはそう思わずにいられない。
「あいつには護衛がついていたんじゃないですか?」
とりあえず、とスザクは目の前の相手に問いかける。
「つけていたつもりだったのだがの」
それに桐原が渋面を作りながら言葉を返す。
「その護衛の中にあちらの息のかかっていた者がおっての」
身元はきちんと確かめたのだが、と彼は続ける。
「それをごまかせる立場の人間が加わっていると」
貴族だろうか。それとも、とルルーシュは呟く。
「ともかく、中の状況がわからなければ動きようがないな」
ルルーシュの言葉にスザク達も頷いて見せた。確かに、状況がそうなっているのかわからない以上、下手に動くと人質の命が危ない。
「……それに関しては、現在、手配しておる」
桐原がすぐにこう言ってくる。
「目的は何なのでしょうね」
話が一段落ついたと判断したのだろう。ルルーシュが口を挟んでくる。
「サクラダイトです」
即座に桐原は言葉を返してきた。
「未精製のサクラダイトと引き替えに神楽耶達を解放するとのことですが……」
さすがに、それは認められない。サクラダイトの発掘精製は日本人がおこなっている。しかし、それを自由にはできないのだ。
「勝手なことをする訳にもいかず、内密にクロヴィス殿下にご相談申し上げた次第です」
そこからルルーシュに話が行くことを期待していたことは否定しない。彼はそう続けた。
「……狸ジジィ……」
スザクは思わずこう呟いてしまう。
「ほめ言葉として受け取っておこう」
しれっと桐原が口にする。
「でも、神楽耶はともかく他の女の子達って、どうして一緒に人質になったんだ?」
それを無視してスザクは藤堂にそう問いかけた。
「神楽耶様はアッシュフォード学園に最近通い出されたからな」
そこで知り合った者達らしい。彼はそう教えてくれる。
「……そうなんだ」
神楽耶が学校に行っていたと言うことの方が驚きだ。それでも少しはあの高慢さが落ち着くならばいいのか。
「とりあえず、こちらからも情報を集める手配をしておこう」
ルルーシュはそう言う。
「アッシュフォードの生徒なら、個人個人のデーターも入手できるだろうしな」
そこから何か手立てを見つけられるかもしれない。彼はそう続ける。
「ともかく、できるだけ時間を引き延ばしてくれるか? 何なら、兄上の名前を使ってもかまわない」
桐原に向かってルルーシュはそう言った。
「わかりました。緊急事態で政庁に呼び出されていることにしましょう」
それならば、相手も交渉することができない。自分が戻るまではそのままではないか。もちろん、相手がじれて暴挙に出るという可能性も否定はできないが。桐原はそう言う。
「相手が暴挙に出そうなときは、スザクとジェレミアを突入させる」
二人であれば何とかするだろう。ルルーシュはそう言って笑った。
「ルルーシュが『やれ』って言うならね」
スザクは即座に言い返す。
「それは最後の手段だ。まずは安全に人質を解放させることを優先する」
いいな、と言われていやだと言うはずがない。
「わかった」
「ルルーシュ様のご命令とあれば」
スザクとジェレミアは即座にそう口にする。それにルルーシュは静かに頷いて見せた。
ミレイ・アッシュフォードはいつ顔を合わせても強烈な印象を与えてくれる。と言っても、ルルーシュやマリアンヌとは違う意味で、だ。
「……とりあえず、人質のデーターはこれね」
言葉とともにファイルを差し出して来る。
「でも、できれば内密にしてね? 他人に知られるとまずいことも書いてあるわ」
そう彼女は言う。
「俺はいいのか?」
「ルルちゃんのことは信じているもの」
からかうように問いかけたルルーシュにミレイは微笑みながら言葉を返す。だが、すぐに彼女は表情を引き締めた。
「とりあえず問題があるとすれば彼女でしょうね」
「誰だ?」
「一番上に挟んであるわ」
ミレイの言葉にルルーシュは即座にファイルを開く。
「……ブリタニア人と日本人のハーフ?」
スザクと同じ年ならばあり得るのか、とルルーシュは呟いた。
「しかし、シュタットフェルトの当主の奥方はブリタニア人だったはずだが?」
彼はそう付け加える。
「別に恋人がいたみたいよ。その人との間の子供を引き取ったみたいね」
ミレイはそう教えてくれた。
「そのせいか、ちょっと変な連中とつきあっているみたいなのよ」
さらに彼女はこう言う。
「……今回のことは、その連中の仕業だと?」
ルルーシュが渋面を作りながら聞き返す。
「可能性は否定できないわね」
と言うより、その可能性の方が高い。ミレイはそう言う。
「早々に追い出しておけばよかったわ」
たまに学園に侵入していたことに気づいていたのに、とかのじょはため息をつく。
「気にするな。お前は相手の良心を期待しただけだ」
学園の指導者である以上、そうあるべきだ。ルルーシュはそう続ける。
「疑うのは俺たちの役目だ」
彼はそう言って目を細めた。
「とりあえず、情報集めだな」
そして、神楽耶達の様子がどうなっているのか。それを調べなければいけない。彼は指揮官としての口調でそう告げる。
「そのことなんだけどね、ルルちゃん」
ミレイがおそるおそるというように口を挟んできた。
「うちのメイドに日本のニンジャの出身だって言う人がいるんだけど」
彼女を使ってくれないかしら、と続ける。
「名前は?」
一抹の不安を覚えながらもスザクは問いかけた。
「ひょっとしたら、僕が知っている人かもしれない」
だとしたら、かなりの手練れだ。スザクはそう続ける。
「……そう言えば、スザク君もキョウトの一員だったんだわね。なら、知っていても当然か」
ミレイはそう言って頷く。と言うことは、やはりあの一族か、とスザクは頭を抱えたくなった。
「篠崎咲世子さんと言うんだけどね」
「……やパリ、咲世子さんか」
彼女なら、ある意味マリアンヌと互角かもしれない。もっとも、実際に斬り結んだらマリアンヌの方が勝つだろうが。
そう考えれば、今の神楽耶達の様子を確認してくるのは十分可能なはずだ。
「任せられるなら、任せてもいいと思うよ」
「そうか」
ならば、頼むか。ルルーシュはこう言って頷く。
「後は、情報が集まってからだな」
彼の言葉に、スザクはいつでも動けるようにしておこうと心の中で呟いていた。
13.03.15 up